(下書き)奏江さんとキョーコちゃん その1 (『彼女のお願い』の少し前のお話) 
(2011-12-12 10:10:24) by MIZU


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「あ、あんた何やってるの?」

扉を開けて入ってきた長い黒髪の女優は、その美貌を歪めてこう言ったのだ。





時間を少し巻き戻してみる。
奏江は某部室に入る為に扉に手をかけようとした。
すると、中から男女の声がかすかに漏れてくる。

ああ…また例の『あの人』が来ているのね。
あの人、確か日本で1番忙しいと言っても過言ではないほどの俳優じゃなかったかしら?
よくもまあ、こんな場所にやってくる時間を作る事が出来るものだわ。
感心…というか、来るだけじゃなくていい加減に何とか行動に出ようという気は起きないのかしら?
確か世間では、そんな感じの人を表す3文字のイイ言葉があったわよね?

奏江が『あの人』のキョーコへの気持ちに気付き、そこから年月といえるほどの時間が経過している。
にもかかわらず、一向に動く様子が無いのだ。
見ているほうは、いつまでも進展しない関係を目の前にしてじれったくて適わない。
いや?動く様子は一応あると言ってもいいのか?
ここまで脚を運んでいるのが、それの良い証拠とも言えるかもしれない。
しかしながら、温い。実に温いのだ。
あんなもので、あのキョーコが気が付くはずが無いと奏江は思う。
相手の気持ちを尊重してとは聞こえがいいが、やはり心の中で3文字の言葉をつぶやかずにはいられない温さなのだ。
その事を考えてため息を一つ。
そして、扉を開けた。

「あ!モー子さん!」

満面の笑みを浮かべた愛らしい娘。
思わず、それを目にしたこちらの表情も緩みそうになる。
但し、手に持っているモノに目を向けなければの話だ。
奏江はそこから目を逸らす事ができないまま、キョーコに問う。

「…あんた、それはいったい?」

キョーコの持っているモノは、先ほどまで頭に思い浮かべていた例の事務所の先輩だった。
いや、もちろん本人などではありはしない。
あのクオリティの高すぎる、高すぎて気味が悪いとさえ思える例の人形だった。
奏江の気のせいでないければ、初期のものに比べてさらに完成度が高くなっている。
動き出さないのが不思議なほどに…

…ん?

ここで奏江は気づく。
先ほど聞こえていた声は二人分だったと思ったのに、部屋の中にはキョーコしかいなかったのだ。
まさかあんなに大きな男が隠れる場所があるとは思えない。
が、念のために一応部屋の中をぐるりと見回してみるのだが、やはり影も形もありはしない。
そんな奏江の様子を不思議に思ったのか、キョーコが声をかけてきた。

「どうしたの?モー子さん?」

どうしたのと聞きたいのはこっちの方だ。
そう思いながら奏江はキョーコの方を見てこう言う。

「ねえ?あんた一人なの?」
「ええ、そうよ?」
「確か、他に声がしたと思っていたのだけど?」

それを聞いたキョーコが首をかしげて可愛らしく笑う。
そして、手にしていた人形を奏江の目の前に差し出したのだ。

「やあ、こんにちは」

瞬間、奏江の顔は凍りついた。
ついにこの人形はしゃべったのだ!
本人そっくりの人形が本人そっくりの声で!
整った姿に恐怖すら覚える。
あまりにも丁寧に作りすぎて、ついに職人(キョーコ)の魂がやどってしまったというのだろうか?
そんな非現実的な事を考えてるとキョーコが口を開く。

「あのね、おしゃべり機能をつけてみたの」

…おしゃべり機能ね。びっくりしたわ。
ああ…良かった。私はてっきり…いやいや!冷静に考えるとちっとも良くないわよ!?
この子、一体何を考えてるのかしら?

「ねえ…この音声はどこから?まさか…」
「いやだわモー子さん。敦賀さんの出ているドラマとか音源はいくらでもあるでしょ?」

プライベートなものでなくて良かった。なんとなくほっとした。
が、目の前のキョーコは本当にどこに向かおうとしているのか?
奏江は確認するのもなんだか恐ろしくなってきた。
この人形制作にかける情熱。
職人と同等。
しかし、その裏にあるものはどう考えても『好き』とか『愛』とか類のものが、絡んでいるとしか思えない域のものではないのだろうか?
奏江はキョーコをチラリと見ながら聞く。

「ねえ…あんたってやっぱり敦賀さんの事好きよね?」

そうでなかったら、こんな人形作れるわけ…
そう続けようとすると、キョーコは意外にも即答した。

「好きよ」

奏江は驚く。

「あんたやっぱりそうなの!?」
「だって、あんなに良くしてくれる先輩なんて他にいると思う?嫌いだなんてバチがあたるわよ?」

やはりキョーコはキョーコだ。
どうせそんな事だろうと思ってたわ。そんな風に思いながら、奏江は話を続ける。

「でも普通に考えて、ただの先輩の人形を作ったりはしないと思うのだけど?」

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