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カメラと彼女と自転車と   1 (なんてことない非日常・ユンまんまさん)

―アナタの魅力を引き出す、KOOSAシリーズ―




そう記された表題でまとめられた書類の束を、それぞれ受け取ったキョーコと蓮は目の前にいる黒崎 潮監督とを交互で眺めた。




(・・・相変わらず・・派手な格好・・・)




(彼が最上さんが初めて出たCMの監督さんか・・・)




「なんだ?まだわからない所でもあったか?」




それぞれの心の中など知らなくて当たり前なのだが、黒崎には察するという能力は持ち合わせていない。

キョーコの微妙な表情も、蓮の食い入るような目つきも真意を知ろうとしない黒崎は本題を早く話したそうだった。




「あの・・・・この、全5話って・・・どういうことですか?」




そんな黒崎に、キョーコがとりあえずの質問をすると大きなため息が返ってきた。




「なんだ・・京子、お前最近のCM見てないだろ?」




「え・・・・・いえっ!?・・あ・・・・す・・すみません・・・・」




黒崎の指摘にしょげるキョーコの横で、蓮のこめかみがピクリと動いていることなど知らずに黒崎はニヤニヤしながらゴツイ指輪がいくつかはまった手を伸ばした。




「そんなに忙しいのか?大女優様は?」




項垂れたキョーコの頭をわしゃわしゃと撫で回し、笑う黒崎にキョーコは乱れた髪を直しながらまた謝った。




「すみません・・・怠慢でした!!必ずやCMまで残らず視聴いたします!!!」




「ぶっは!相変わらずまじめだな~~」




真剣に答えたキョーコに対して、笑い出した黒崎を見てようやくからかわれている事がわかったキョーコは頬を膨らませた。




「あの・・・先に進めてもらってかまいませんか?」




その後もなんだか高校生カップルか?!と、突込みが入りそうなやり取りをしていた黒崎とキョーコに対して蓮が痺れを切らしたようにそう声をかけた。




「おお、悪い悪い・・久しぶりにコイツと絡めると思うとワクワクしてよ~」




「すみません!敦賀さんもお忙しいのにっ・・でも、監督の作品に出られるなんて久しぶりでとても楽しみで・・」




すると、また気があったことに黒崎からハイタッチを要求されたキョーコがそれに答えるという蓮からすれば悪循環が始まりそれを咳払いで収めた。




「・・・・・・あ~・・だからな?最近は、主な宣伝部分は放映して『続きはWebで♪』がパターンなんだよ・・俺としては短い時間の中でいかに表現できるか?!っていうのに拘っていたから、そういうのは断っていたんだがな?・・・お前の演技見てたら、全部描きたくなっちまって」




白く、並びのいい歯を輝かせ笑う黒崎の言葉にキョーコは頬を染めて嬉しそうに笑った。




「ありがとうございます!!」




「まあ、たまにダメダメな所もあるからな?その時はビシバシしごいてやるよ!」




「ひっ・・・お・・おてやわらかに・・・お願いします」




蚊帳の外状態の蓮は、非常に面白くなかった。



懇意にしている監督など蓮にだっているし、そんな時はきっと今の状態の蓮の立場にキョーコがなってしまうことだろう。

だから、ただ蚊帳の外になっていることについてはなんとも思わない。



面白くないのは、黒崎とキョーコの距離感だ。




(やたら近くないか?)




恋愛感情が皆無なのは見て判る。

判るが、自分がしたいことを意図も簡単にされると腹が立つ。




「それで・・俺と最上さんの役どころは・・・」




「ああ、敦賀君は京子の幼馴染のプロカメラマンで京子は高校生ながらモトクロスの女性選手っていう役だ」




「・・もと・・くろす?」




「知らないのか?自転車のアクロバット走行の競技だ」




「あの・・・なんで・・・そんな特殊な・・・」




あまりに一般的な女性像にはなりにくい上に、有名な選手を使うならともかく素人キョーコをわざわざ据えて設定しなければならないものでもないだろう。

そう、キョーコがいぶかしんでいると黒崎はにやりと笑った。




「京子は、自転車が得意だって聞いてな?以前、自転車で階段を駆け下りたことあるんだろ?しかも後ろに人を乗せて」




「「!!!??」」




黒崎の言葉に蓮とキョーコは思い当たる光景を思い出した。



それは以前、蓮のマネージャーである社が病気でダウンした時代マネとしてやってきたキョーコが遅刻しそうな蓮を後ろに乗せて街中を爆走したことがあった。




「今回のCMにもそのシーンを入れたいんだよ・・・まあ、後ろには乗せないで一人で爆走してもらうけど」




「・・・は・・・・はあ・・・・」




それなら大得意で、普通の女子高生設定では難しい所だ・・・。

と、キョーコは一人納得をした。




「敦賀君には、顔のいいカメラマン役ね?」




「・・・・はあ・・」




わざわざ蓮に『顔のいい』なんて言葉を使う黒崎の真意を探ろうと蓮が目を細めると、黒崎はにい~っと笑った。




「顔が良すぎて、モデルになれそうなカメラマンが自分の腕を評価されないことを幼馴染の彼女に支えてもらうっていうのが今回のテーマかな?」




「・・・・KOOSAシリーズということは、いくつかの商品を盛り込んでいくんですよね?」




「ああ、第一回目はデオドラント剤・・これは地上波でも流す。その続きのデオシートバージョンは2週間後にまた地上波で流す。全容が見たいならKOOSAのWebで視聴するということになっている」




小さな嫉妬心を押し殺して、黒崎との打ち合わせを進めていく蓮にキョーコも居住まいを正してもらった書類に注意事項や要望を書き込んでいき今日の打ち合わせを終えた。

と、思った。



打ち合わせ場所から立ち去ろうとした黒崎は、急に思い出したかのようにクルリと振り返った。







「ああ、そうそう・・最終話にキスシーンあるからそのつもりで、お二人さん」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・




「はあああ!?」




帰り支度を始めていたキョーコは、カバンに仕舞いかけていた書類をバサバサと落とした。







「・・・・・・最上さん、落ち着いて?」




キョーコの落とした書類を拾い上げながらもあまりの動揺っぷりに、こっそりショックを受けているのを笑顔で隠して蓮はキョーコを宥めた。




「まあ、そう構えるな?最終話の原稿はまだ上がっていないから、出来上がり次第渡すわ・・んじゃ、来週からよろしく~」



*************




「・・・・・あ~・・・最上さん?」







ガチイイ!!







「・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・」







岩状態にひびを入れつつ、ちょっとづつ振り向くキョーコに蓮は非常に気まずい顔をした。







「そんなに・・・今から緊張してたら・・心臓もたないよ?」







助手席に座るキョーコをなるべく刺激しないように声をかけ、けれど自分を意識してもらっていることに少なからず嬉しさを滲ませて更なる意識をしてもらおうと口を開いた。







「今回の役、最上さんにぴったりだし・・・その相手役に俺がなれてよかったって思っているんだ・・・・」







「え!?」







酷く驚いた返事に、蓮はクスリと笑った。







「いい、CMにしたいよね?」







「・・・・・はい・・・・それは・・・」







戸惑いながらも頷くキョーコを、前を見ながらも感じてハンドルを切った。







「最上さんとなら、すごくいいドラマになると思う・・・監督にあんなことを聞かされて緊張しちゃうのはわかる・・・けれど、君は君らしく役に入り込めばいいと思うし・・俺も役として相手するから・・・だから・・・今、こんな風に緊張されるとちょっと悲しいな?」







赤信号で止まると、蓮はキョーコの方を見ながらハンドルに頭を乗せて微笑んだ。

その笑顔にキョーコが内心、打ちのめされているとは知らずに小さく頷く姿に思わず手が伸びかけた。




パッパ~







「!っ・・・」







いつの間にか信号が変わっていて、後続車からクラクションを鳴らされると蓮は急いで車を発進させた。







(・・・敦賀さん・・・私を緊張させないように言ってくれた・・・けど・・・・)







まるで、役に入っていない素のキョーコには微塵も相手にできないと言われた様でキョーコはひっそりと落ち込んだ。







(・・・・ヘタレだな・・・・俺って・・・意識して欲しいのに、会話もできないほど固まられるのが耐えられないなんて・・・・)







こっそり落ち込んでいるキョーコの横で、蓮はさらに凹みながら車はキョーコの下宿先へと緩やかに向かっていったのだった。




そんな二人の心情を汲むこともなく、CM撮影の日はあっという間に来てしまったのだった。








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