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追憶の森 ~ 前編 ~ (a guardian angel・みーさん / SNOW VANILLA・ゆりぽぽさん)


※こちらの文章はゆりぽぽさんの作品 映画『追憶の森』ポスターイラスト から生まれた文章です。
 挿絵は 映画『追憶の森』ポスターイラスト の方にも追加しております。





                彼女との出会いが、全てを変えていく。 

( Scene 01-1 大学の構内にて )

ジージージー… 蝉の鳴き声と共に、誰かの笑い声が遠くに聞こえる。
声のする方へ視線を向ければ、ラケット片手にじゃれ合う男女の姿が見えた。

( テニスサークルか、この炎天下によくやる…)

汗を拭いながら、視線を戻した俺は、さっさと用事を済ませようと歩くスピードを速めた。
夏休みに入った大学…都心から少し離れた山の上にある大学へ足を運ぶのは、目的のある人間だけだ。

俺の名前は、神威 新 (カムイ アラタ)        … この大学に通う3年だ。

( 暑いな… )

額に手をかざした俺は、ガラス越しに映る自分の姿を見て、フゥ…と、小さく息を吐き出した。

きっと傍目には、涼しげな顔で歩いているようにしか見えないだろう。
ポーカーフェイス…といえば聞こえはいいが、
無気力、無感動、無表情…何を考えてるのかわからない奴…
それが今の俺という人間を説明するのに良く用いられる言葉だ。

生まれ持った容姿のせいで、毎年、春になると俺の周りは騒がしくなり、夏が来る頃にはこうして静かになる。
別に人間嫌いというわけではないが、理想を押し付けられることに、正直、辟易していた。

人と関わりを持たない事…それが静かに過ごす為には一番手っ取り早く、楽な方法だ。
だが、そんな俺にも親しくしている人間はいる。そのうちの一人が、宝田教授だ。
静か…とは対極にある人だが、彼の考察は興味深く、とても面白い。
そして、そんな彼に会うのが今日の目的でもある。

「すまん、すまん…面白いから読んでみろって無理やり貸した本の中に、まさか、資料が紛れ込んでるとはなぁ、、」

借りていた本を返却すると、教授は俺の肩を叩いて、豪快に笑った。
とても大学教授には見えない風貌をしているが、その功績は折り紙つきだ。

「外は暑かっただろう、今、冷たい飲み物を用意してやるからな」

「…ありがとうございます」

そう云って隣りの準備室へ消えていく教授を見ながら、部屋を見渡した。

(…また増えてる)

壁に飾られた妖しげな仮面に民族衣装…風変わりなことで有名な教授の部屋は、いつきても、どこの国のものかわからない摩訶不思議な物体で溢れかえっている。

「ほれっ…」

氷の入ったグラスを渡されたのと同時に、ドサドサッと机の上の資料が雪崩を起こした。

「あちゃ~・・・崩れちまったか」

仕方ないな…と、拾うのを手伝いながら、俺は教授に言った。

「……いい加減、助手を雇った方がいいですよ」

「わかってんだがなぁ、俺についてこれる奴がなかなか…」

そんな会話を交わしてるときだった。

                その写真を見つけたのは。

拾い上げた資料からひらりと落ちた1枚の写真…そこには、朝靄のかかった木々が写されていた。

その写真を見た瞬間、     神の息吹を感じるような荘厳な森の風景が目の前に広がった。

「…神の住む森         …」

…気がついた時には、そう呟いていた。

「お、よく知ってるな、、今度はそこを調べてみようと思ってるんだ」

そういうと、教授は地図を開いてその場所を指し示した。
考古学を専攻している教授が、トレジャーハンター顔負けの冒険をしながら、古代文明の秘密を解き明かすことに没頭していることは知っていた。

「今度は国内…ですか?…珍しいですね」

指し示されたのは見覚えのない地名。

だが、写真から感じる確かな既視感に、俺は首を傾げながら、記憶を辿った。

(            俺はこの場所を知っている? )

もちろん、その地に行った記憶などない…でも、知っている。
次次へと浮かんでくる森の風景が俺にそう確信させた。
それと同時に、流れ込んでくる感情…何故だかわからないが、このとき俺は、不思議な感情に支配されていた。

それは、どこか郷愁にも似た感情で…切なくて…泣きたくなるような胸の痛みを伴って俺に襲い掛かってくる。
 
          なぜ、こんなにも心が揺さぶられる?

込み上げてくる…この感情の正体は何だ。

写真から目を離せずにいた俺は、浮かんでくる森の映像の中にある人物の存在を感じた。
         風に揺らめく白いワンピース…。

tsuioku-01.jpg

( …行かなきゃ…あの娘が待ってる… )

            あの娘って…誰のことだ? 

…なぜ、そんなことを思ったのか、わからない、、、
でも、俺はこの森で、大切な約束を交わした      …気がする。

「…そうだ、新!お前、バイトしないか?夏の間だけでいい…どうせ暇だろ?
出発はそうだな、、、明後日にするか、それまでに準備しておけよ、いいな?」

「…えっ…?」

目を輝かせ、計画を立て始めた教授は俺の意見なんか聞いてくれそうもない。
こうして俺は、半ば強制的に教授に連れられてその森に向かうことになった。

だが、それもまた…運命だったのかもしれない              。

魂に刻まれた記憶…衝動に駆り立てられて向かったあの森で、彼女と出会ったことも…

                  すべての謎は、森の中に隠されていたのだから。

*******

カットの声がかかり、新開監督と一緒にカメラチェックをする社長をみて、小さく溜息をついた。

( なんで、もっと早く気づかなかったんだ… )

彼女との共演で浮かれてた…のは否めない。
詳しい内容を聞く前に、二つ返事で受けてしまったのも事実だ。

だが、まさか…社長が出演者に名を連ねてるなんて、思わないだろう?

(…ありえない…絶対、面白がってるとしか思えない…っっ )

監督も監督だ!あの人の企みに乗るなんて…
わかっていれば、あの人の出演を阻止する位のことはできたかもしれないのに。

( はぁ~~~… 社長が現場にいるってだけで、普段の倍は(精神的に)疲れる気がする。 )

もちろん、カメラが回れば相手が誰であろうと問題はない…。
二人(宝田一味)が、撮影に支障をきたすようなことをするわけがないこともわかっている。

そう、そんなことよりもむしろ、問題なのは          

*******

「あ、あの…っ」

半年前のある日、深夜を回ったマンションにやってきたのは、真っ赤な顔をした彼女だった。

「…どうかした…?」

柔らかい笑顔で尋ねると、俯いて…照れた顔を隠すように彼女は、俺の胸に顔を埋めた。

(・・・可愛い)

甘えてくれる事が…俺を頼ってくれる事が嬉しい。

紆余曲折を経て、付き合うことになった俺達       … 
といっても、告白した時に交わしたキス以降…何もないままに3ヶ月が経過していた。
互いに仕事が忙しくなって、会うことも儘ならない状況だったんだから、それも仕方ないが…突然の訪問は本当に嬉しかった。

彼女に主演映画のオファーが来たことは社長から聞いていたから、その報告に来てくれたんだと思った。

以前から監督が彼女を起用したがっていたのも知っていたし、彼女にとっても、今回の仕事は大きなチャンスだと思った。
だが          

渡されたばかりの脚本を手にやってきた彼女は、潤んだ目で見上げて言ったんだ。

tsuioku-02.jpg

「教えて欲しい…んです…」

何を…とは聞かないでくれ。/// 
そう言われた俺がどんな行動をとったかなんて…聞かなくてもわかるだろう?

彼女のあんな顔を見たら            …。

ずっと我慢してきた反動が出てしまったというか、、、
俺自身も、あんなに余裕のない自分は初めてだった…///。 

…でも、あの時に、気づくべきだったんだ。        

翌朝、社長の電話で起こされて、呼び出されたときも…幸せボケしてた俺は気づかなかった。

だが、今ならわかる             すべては、この人(社長)に仕組まれたことだったんだって。

*******

その森は、古より神が住む森として崇められてきた神聖な場所だった。
そこに住まう一族は、時の権力者さえも動かす…不思議な力を持って生まれる。

まるで外界との接触を遮断したような…森の中でその一族は繁栄を遂げてきた。

神に選ばれし特別な一族…その血筋である事に誇りを持ち、一族を束ねる長の言葉は絶対だという…。
それは、長の直系血族に高い能力が受け継がれてきたからに他ならない。

彼女は、そんな血族の末裔として…産声をあげた            

神座 凜 (カムクラ リン) … 彼女が演じるのは、一族の女神となるべく宿命を背負って生まれた少女。

一族の子供は、大人になるまで森から出る事を禁じられる。
いつ開花するかわからない能力の秘密を保持する為…ひいては一族の民を守る為とされてきた。
しかし、一族が定めた女神だけは、一生この森から出る事を許されない。
       
           女神には、特別な役目が課せられているからだ。

それは女性にだけ与えられた特権。
だが、それが『特別な役目』とされるのは、その相手が一人ではなく、より優秀な能力者が生まれるよう、一族の男たちを相手にするからだ。
そう、女神とは名ばかりで、、それは一族の人柱になるようなものだった     …

だから、両親は、娘が生まれた時、ひどく落胆し、悩んだ末に彼女の性別を偽って育てる事にした。
こうして、彼女は長い間、男として育てられたのだが、ある日…その事がばれてしまった。
両親は、10歳になったばかりの少女を連れて逃げようとしたが、一族の追っ手によって、命を落としてしまう。
少女の目の前で起きた惨劇…でも、そのことが事件として明るみに出ることはなかった。
彼女の両親の死は、一族の恩恵を受ける村人の証言により事故死として処理されたからだ。

ショックで倒れた彼女が長い眠りから目覚めた時…彼女は、それまでの記憶と言葉を失っていた。  

固く閉ざされてしまった彼女の心        

そんな彼女にとって、唯一の癒しは…森の声を聞くことだった。

皮肉な事に、彼女には一族の血が色濃く受け継がれていたのだ。

彼女達一族が持つ不思議な能力         … それは太古の昔、神から授けられたものと伝えられてきた。

現代では超能力と呼ばれるその特殊能力を、この一族は代々継承し、繁栄してきた。
しかし、それも…今では衰退の一途を辿っている。…力を持たずに生まれる者が増えてきたからだ。

血が薄まったことが原因だと考えた一族は、こうして…『女神』という存在を作り出した。

森の中には…そんな彼らの始まりと終わりを示す秘密が眠っている。

彼女は、森の声に導かれ、その理を知る       …

新との出会いが、魂に刻まれた一族の悲しい記憶を解き放つ。

森の中で二人は出会い、恋に落ちた       

彼女を一族の呪縛から解き放ってあげたいと願う新と、新自身に起きる変化…

明らかにされる衝撃のラスト          … 

壮大なスケールで描かれる『追憶の森』には、実はもう一人…キーパーソンとなる人物がいる。

それは、新の恋敵となる一族の男…彼女の幼馴染で、彼女が女だという事実を長に告げた人物でもある。

『彼女の幼馴染』というフレーズに嫌なイメージしか浮かばない俺は、その役を誰が演じるのか、すごく気になっていた。
撮影が始まっても、一向に発表されないその共演者のことは、現場でも噂の的になっていた。
さりげなく、監督にも探りを入れてみたが、スケジュール調整が上手くいかず、代役を立てる可能性もあるとかで、結局、その名前は教えてもらえなかった。

そして、その日はやってきた          
突然、騒然となった現場、そのざわめきの渦中に立つアイツの姿を見たとき、俺は嫌な予感が的中したことを知ったんだ。

→ 後編に続く