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To be my Grace No. 16 (mimi's world・美海さん)


※文章に以下の描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 ・妊娠(カイセツ後)
 ・流血表現(撮影シーン)
 ・微桃(撮影シーン)







「 なに?敦賀君、欲求不満? 」


そう声を掛けられたのは・・・



「 えっ・・・」


( 一瞬、誰?と思ってシマッタ・・・。)

今までの俺の撮影をみていたらしい、他のスケジュールが終わって待機していた、メイク後の翠の瞳のブルータス・貴島。


この撮影で貴島とは初めて会ったので、貴島のメイクに、へーーっと思ってマジマジと見てしまった。


少し色は違えど、実物の俺・・・

貴島のしている翠のコンタクトと、少し茶色が混じった金髪が本当の俺の姿と同じかもと思って見てしまった。
でも言うわけにもいかないし、言っても訳がわからないだろうし・・・
とりあえず、その質問には自分の演技に何か気付いたのかと思い、疑問に疑問で返す事にした。


「 何で、そう思った? 」


と聞き返すと、ん~だってさ~・・・と話し出した俺の演技。
彼はさすが仕事に誇りを持っている役者。モニターに囚われず、実物の演技を見てくれていたらしい。


「 剣をね、ひったくる・・・怖えっ!って思った表情と、振り下ろして止めて・・・
ふっと緩んだ微笑みのギャップ?
あっ、あの使いの役者。本当にビビってぎゅーっと目を瞑ってたよ。 」


ヘ~、本当?と返していたら、実は少しだけ・・・本当にイライラしていた俺に気付いていたと思っていた。


「 なになに、どこから見てた? 」


そんな自分の疑問を投げたのは、自分でも そうでもなかった結いの儀の撮影。
以外に落ち着いてたよな、自分。と思っていたし・・・でも、その前を知ってるとすれば、
ずいぶん前から居たのに姿を見ていなかったからだった。


「 来た時、まず挨拶に顔を出したら、敦賀君が兵士に怒鳴っててさ・・・んで、
メイク終わってスタジオ入りしたら・・・京子ちゃんの上で叫んでたし? 」


( なるほどな。声を張り上げた箇所だけしか見てなかったのか・・・。)


貴島が肘で小突き、耳元に寄って小声で言ってきた。


「 なに?敦賀君、最近してないの? 」


うんまぁ・・・その通り。キョーコが妊娠したと分ってから、彼女を前にするとその気は起きない。だから、1ヶ月ほどゴブサタなのは確かな事。
おもわず、アドリブでもキョーコ・・・いやクレオパトラの上で叫ぶことを思いついてしまったほど、彼女の上に素肌で体を重ねていると我慢できそうに無くなるほど・・・。

思わず言いそう・・・いや、今がチャンスかもな。と思って同じ様に貴島の耳元で返答した。


「 実は・・・1ヶ月ぐらいしてない。 」


1と人差し指を目の前に出して、唇に持っていったら・・・えっ彼女いたの?と聞かれた。
なので、視線をそのまま、ホログラムの撮影セット側に入っているキョーコに移した。

他の人には気付かれない様に、目だけを貴島を見詰めた後に動かした。
裸眼の俺だから、自分の視線がどこに向けられているのか良く分る。

えっ!・・・えっ!・・・っと二度見している貴島。


「 えぇ~・・・・」


っと大きな声を出しそうに成っている貴島の口に人差し指を当てて、うるさい。と反対の腕で肩を抱いてスタジオの外に出ようと引っ張った。

案の定・・・傍にいたスタッフ達に、しーっと言われて、すみません。と二人で小声で謝りながら廊下に出て行った。





________ ナニナニナニナニ・・・なになになになに・・・


この貴島の言葉で、かなりの動揺度を感じられる。
二人で誰も居なくなるまで待っている間じゅう、ずっとそれを繰り返しているから、


「 そう、彼女。 」


そう言い返して婚約したと言おうか迷っていたけれど、貴島が被せて聞いてきた。


「 はっ?何時から・・・1ヶ月ほど してないって事は、撮影前からって事だよね。 」


ハイ、その通り。よく気が付きました。と思ってしまう鋭い事。
彼は撮影中も、いつも色々なバックの設定をきちんと思い返して演技する程の視野や思考の広い人だとは、一緒に仕事をしていて思う事がたくさん有る程。

でも・・・続いた貴島の言葉に気付いて、婚約者だと言うのは今は止めた。


「 えぇ~・・・あの女神様は、俺の理想のタイプ~。
本当に恋ができると思ったのに~ぃ・・・」



( そう、じゃ・・・まだだな。 )

そう思ったのは他でもない。
此処で止めておけば、そのまま演技に感情が映るだろうと目論んだ。

貴島の胸。これから撮影予定のその場所に・・・軽くパンチを浴びせ


「 本当に恋をするのは、影像の中だけにして。 」


悪いね。と付け足して言った。


「 ふ~ん・・・へぇぇ~・・・そう・・・」


俺の目を凝視したまま、今自分が叩かれた箇所を撫でている。
何かを思いついた表情に浮かぶ、冷たい笑い。その笑みに、クッと喉の奥から声が聞こえたかと思うと、俺の目を見詰めたまま言ってきた。


「 じゃぁ・・・さ・・・影像の中でなら・・・?

本気で堕してもいいんだよな。それって・・・」



「 フッ・・・いいよ。 もちろん・・・」


多分意外な言葉だったのかもしれない。でも、京子の為にも俺の為にも彼が演技の中に本気を入れてくれるのならば、芸歴の長い貴島の演技に引き込まれた方が遣り易いかも知れない。


「 ま。敦賀君も?・・・だよな。 」


その言いたい意味がとてもよく分る俺。なので追加で言葉を返した。


「 そう・・・俺だって今まで、相手役は必ず堕して来た。

あのさ、プライベートがどうのって云うのは、問題じゃない。
俺だって演技の中で? 本気で落としているつもりだからね。
ふっ、まぁいいよ・・・かかって来いよ。 」



「 だろ? 」


貴島が冷たい笑みの中に一言だけそう言い返し、目を見詰めたまま右手で俺の髪を前から後ろに撫で付けた。


「 じゃ。遠慮なく。 」


そう言った途端 貴島の表情はふっと緩んで、何時の間に取ったのか俺の頭に乗っていた金の月桂樹の輪を目の前にちらつかせ自分の頭にそっと乗せた。


「 役が抜けなくなる程、本気でやってもいいんだよな。 」


そう言い放つ貴島。頭にローマ皇帝の証である月桂樹を乗せた顔ですごんで来た。

それを見て・・・・


( ふ~ん、なるほどな・・・)

そんな事を思える余裕の、以外に冷静な俺が居た。

なんで自分がこげ茶の髪なのか、月桂樹が緑じゃないのかが分った様な気がした。
エジプトの象徴の黄金とローマの英雄の証、月桂樹の輪。始めはブルーバックに消えやすいのかな~っと思っていただけで、エジプトとローマの両方の統治者の証としての黄金で・・・

金髪の髪には似合わない。


( ふんふん・・・イコール、ブルータスは統治者に成れないと言いたいのだな。 )

そんな事を思って頷いていたら、貴島がこそっと言ってきた。


「 じゃぁ、じゃぁ、じゃぁさ。ベッドシーンのアドリブも実は・・・? 」


何でそんな事を聞かれるのか。貴島だって分るだろ本当に欲求不満なんだって、自分から聞いてきた事をもう一度掘り下げんなよな。と心の中で思って、腕を組んで首を横に振っていたら、

あっ、居た~!と声が聞こえて、二人で振り返った。


_____ 貴島さーん、敦賀さーん。ワイヤー準備しますよ~。


「 は~い。 」
「 はい。 」


二人揃って返事をして、返せ。と言って頭から月桂樹の輪っかをそっと取り上げ腕に掛けたまま、貴島の背中をぱしっと軽く叩いたら、ぱしっと同じ様に叩かれた。

二人とも衣装の上を脱ぎながら廊下を歩き出したら、傍にいた女性スタッフに、きゃぁ~!っと真っ赤に成って言われ、こちらを見ている彼女に向って・・・


「 ふっ。どうも・・・」
「 ふふ。どうも。 」


同じ事を言って、同じ様に微笑んで、同じ様にウインクしていた。




スタジオに戻りセットの端の方で、ワイヤーを止めるパラシュートと同じ装備を付けられていた。ギュッギュッと引っ張って大丈夫か確かめられながら、衣装の方も着せられていた。

傍で貴島も同じ様にされているのだけれど、二人で見ていたのは・・・

ホログラム撮影の方にいる京子の演技。


クレオパトラがプトレマイオス12世、彼女の父である王の死を目の当たりにして、王の標章を受け取る場面の、本番中だった。




クレオパトラのいるその王の寝室は、ブルーバックではなかった。

唯一と言っていいほど、CGが背景に入らないシーンで、違うのは・・・
王の役者が居ない事。

王が息を引き取る場面のそのベッドの上は、シーツが人が入っている様に中にワイヤーで空間が出来ている。その寝室のセットは・・・起源前50年ごろのエジプトの神殿のまま。

王が寝ていると思われるその寝台に向って、一人で京子が演技をしていた。



ホログラムチェック終わりました。入りまーす。

よーい・・・ カチッ




______ クリノンや・・・ そなたに、これを・・・


ホログラムで入る王がその寝台には居ないけれど、声だけは京子のキューに成る様に聞こえていた。この先は、クレオパトラだけの演技と台詞のみ。


「 ひっく、ひっく・・・」


寝台に跪き両手を震わせながら、すすり泣くクレオパトラ。
その手の中には、今 まだ王がしていたばかりの黄金のアスプ、王としての標章を受け取っている。

クレオパトラの髪に風が当たり、ふわっと浮くと長く金色のビーズが編み込まれた髪がキラキラと上から下に向って流れる様に光を順番に瞬かせている。

それと共に王が居るんだろなと思わせていたシーツの膨らみも風でペタンコに成った。


「 うわぁぁ~~! 王様・・お父上さま・・・ 」

クレオパトラはありったけの声を出して叫ぶと、ぐっと涙を堪えて両手で王の標章を握り締め立ち上がった。


その頬は涙の痕を、窓の外に映る満月の灯りに浮かべて、その窓際に歩み寄ると
満月を見ながら手の平で力強く涙の痕を掻き消す様に、一度だけ拭い取った。


「 タクハエト。 こなたは私の乳母。そのまま、どうか・・・

このアレキサンドリアの王女の側近として、勤めますまいか。 」


クレオパトラは悲しみを糧に、王としての威厳をも受け継いだ。




_____ カット・・・


京子さん。モニターチェック~。その後待機で~す。

はぁい。と言いながら伸びをして、あくびを殺しているのが分る。

眠いんだろな。とは思うけれどお仕事中。待機の合間に少し昼寝をしたら?と思って社さんを呼び自分の椅子を持って来てもらった。


モニターの中には、ホログラムの王が写りの悪い昔の白黒テレビの様に、ザーザーっと横線が入って映ったり消えたりしている。
王が息を引き取った!と、思ったのはテレビのスイッチを消した様に、王のホログラムがピッと横線一本に成って、中心に光が集まって消えたからだった。

クレオパトラの髪にふわっと風を当てていた部分は、ホログラムの王の手が髪を撫でているところだった。

・・・勤めますまいか。そう言ったクレオパトラは月の影になり、手の中の王の標章は月の明りと同化して、振り返った金のビーズが輝く黒髪も、月の中に瞬く星の様で、思わず・・・

ほ~ぉ~っと、貴島と3人で声を揃えて言ってしまった。



_____ 京子さんOKです。待機でよろしく。

ホログラム合成技師のPC前に居て、少し離れた所にいる監督が声を掛けたので


「 最上さん、お疲れ。 」


そう言って、社さんが居るRen  Tsuruga と名前が入っている自分のディレクターズ・チェアを親指で指差すと、あ~、お借りしまぁす・・・。ともう、寝てしまいそうなキョーコがそちらに向って行った。


「 ・・・ねぇ、なんで、敦賀君の? 」


下からちょっと低っく~い声で貴島が言うけれど、本当の理由は、まだ言えない。
なので・・・


「 Kyokoの椅子。壊れちゃったみたい。 」


とまぁ、なんとなく当たり障りの無いような事を言っておいた。

でも、本当の理由・・・


見たら直ぐ分る。

一度前に京子の椅子が壊れた時、俺の椅子に座ったら、心地よくて寝てしまってから座らせる様にした。

背の高い俺のサイズの大きめの椅子は、もちろん座っても安全金具が付いてるし、なにせ長年自分が座っていた物。座る部分は柔らかく成ってKyokoの新しいのより座りやすいのは当たり前。それに肘掛けが高いので、キョーコは肘掛けに頭を乗せるのに丁度いいと言って、いつの間にか寝ていたのが始まりだった。


「 でもさ・・・敦賀君の椅子。いつも、かっこいいな~って思ってたんだよね。 」


ガンメタリック・シルバーの金属と、黒皮のさ・・・あれ、どこで作った?と聞かれたので、もちろん答えてあげる。


「 あれ、アルマンディ。アールがデザインしてくれた。 」


んだよ~。じゃ、モデルじゃなきゃ作って貰えないじゃん。だよな~、だからサイズもピッタシか。なるほどな~と、ブツクサ言っている貴島の背中を押しながら、キョーコをちらっと見るとウトウトしていたので、貴島に見せない様に肩を組んでセットに無理無理引っ張って行った。





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To be my Grace No.17に続く