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To be my Grace No. 18 (mimi's world・美海さん)


※文章に以下の描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 ・妊娠(カイセツ後)
 ・流血表現(撮影シーン)
 ・微桃(撮影シーン)






京子は婚礼の儀に羽織っていた、真っ白なシフォンのガウンを衣装さんに着せてもらう。


イシス女神を象って、胸にイシス結びと言われる豊穣の結び方・・・らしい、さっきと同じ様に、やっぱ知らないその容に金色の紐を結ばれている。

長い裾に月の光が共鳴し輝くといわれる銀と水晶のビーズを散りばめられている・・・

この長い裾。

これが、このシーンでお役に立つらしい。
さっきの撮影では、ウエディングベールだろな。ぐらいにしか別に何とも思わなかった。



「 はい、じゃぁね・・・ 」


監督が京子に立ち振る舞いを教えている。

そう、真っ直ぐ祭壇っていっても、あの箱ね・・・とブルー尽くめのセットを指差して、それで後ろ向いて、ぴょんっと両足で踏み切って、あれ・・・

そう言って指差したのは、ブルーのエア・マットレス。貴島の使っていた物の様だった。

グイィーーンっと空気をパンパンに入れている。


「 アレに、背中から ばさっと倒れて。 」


倒れたら上を見詰めたまま、手を上に伸ばして・・・あぁ、台詞は無いから音いれないからさ、キューの合図出すから。いい?

あのマット、無数の小さい穴を開けてあるから、それで倒れるとね、下から風が吹くから驚かないで。

表情は・・・そうだな・・・

“ シーザー、愛してる。 ”

・・・かな?


そんな事を監督が言いながら、ちらっと俺を見た。



「 はい。できます。 」


もちろんですよ。と、微笑みながら返答する京子を見て、う~ん、俺も愛してる。と、血のりで真っ赤な手とグレープジュースをかけられた横っ面を、とりあえずと渡されたオシボリで拭きながら思っていた。


ブルーバックのセットの中で、京子はゆっくりと前に歩を一歩一歩・・・

うつろな瞳でただ前を見て歩いている。

祭壇となるブルーの箱の前で止まると振り返り、そちらを無表情で見詰めたまま後ろにピョンと跳ねて倒れた。

言われたとおりに手を上に伸ばすと、エア・マットレスの無数の小さな穴から空気が重みで抜けて行く。

クレオパトラのシフォンのベールが、思ってたよりも ものすごい勢いで、下から上に風を受けて殆んど真上に舞っている。


「 ハイ、泣いて~。目を瞑るよ~。 」


メガホンで、そんな事を言われている。

クレオパトラは目を閉じると、右からも左からも、数滴の涙を落とし、下からの風がその涙を上に浮かべて飛んでいった。

光のセットの中に、クレオパトラの涙だけが、きらっと光った様に見えた。


「 京子さん。ぎゃっと目を開けて~! 」


クレオパトラも、言われた通りにぎゃっと目を開けたら、


「 はい。息止めて。 」


目を開けたまま、息を止めているのだろう・・・
ものすごく無表情だな。と思って見ていた。


シューーっと、音をたてていたエア・マットレスの空気が抜けてきて

ペタンコに成りながら、シュー・・・って音も微かに成ってフェードアウトした。


「 OK じゃ、モニターチェックして、ナレーション入れてみようか・・・。 」




起き上がった京子も寄って来て、シーザーとブルータスの死のシーンで調子にのった監督は、テキパキと合成を入れる様に指図していた。





________  満月の夜・・・

イシス神殿大祭司である、イシスの女神を称されたクレオパトラ。

ローマの戦いの神と崇められたジュリアス・シーザーとの結いの儀を行ったこの場所。

あの時は・・・鏡の様に輝く白い大理石で埋めつくし、王の標章であるロータス蓮の花を黄金で無数に造らせて、エジプト全土から寄せ集めたありったけのバラ・・・

厚みが膝丈になるほど、バラの花でこの神殿を埋め尽くして、その芳香に酔うほどで・・・

この白いベールの裾を引きながら、シーザーの伸ばした手に自分の手を重ねた


けれど・・・今はもう・・・・


そのシーザーの亡き後、シーザリオンも見せしめの様に命を絶たれた。

振り返ると開け放した神殿の先に、アレキサンドリア自国の街の灯りが・・

星の様に映る


神殿の白く輝く大理石とたくさんの黄金の蓮の花も消えて・・・

そこは暗闇の世界に変わっていた。

二人が永遠の愛を誓った祭壇は・・・

抜け落ちて、その部分だけ星月夜の満天の星空へと続く空間に変わった。




_____  愛するエジプト国民よ・・・

我が王妃クレオパトラ7世は、自国の象徴と呼ばれるほどの者・・・・

・・・ではない。

我が王宮に恥ずべき行為を、許されるのであろうか・・・

事も有ろうに、我が国の王宮にローマ軍の将、シーザーを城に駐留させ、みだらな関係を結び

王妃でありながら、ローマ軍に身を売って国を汚した。

代々のプトレマイオスの血が泣いておられる・・・

プトレマイオスの血を絶やす行為を自ら起こしたこの、クレオパトラを追放する_________



アレキサンドリアの街灯りの向こうから・・・

聞こえて来る国民の声は・・・

勇者の力を必要とした、富に現を抜かしたエジプト軍の戦意の弱さを補う為とは・・・

誰に言っても、もう・・・

ただの言い訳にしか聴こえてくれないのだろう・・・



________ 私も自分の国民によって処刑されるのであらば

自らその命を、王の威厳と誇りの中に、見せて進ぜよう__________




クレオパトラが自国の灯りを見詰めたまま、闇と化して消えた神殿


自国の先代の王から受け継いだ誇りと共に


イシス神殿のイシス女神大祭司としての心から憂い敬い信じ続けた命を


その神に捧げ祈る __________



神の元に跪き、エジプトの王とローマの英雄の


誇り高き気高く振舞っていた、この二人が


頭を垂れ二人の永遠の愛を誓い合った


この場所に残された二人の永遠の愛と、二人の成し遂げられなかった無念を




手を伸ばして・・・



見詰める愛しい亡き人の居る場所

二人の愛から生まれた命の逝った場所


あの結いの儀の時に、シーザーが手を伸ばして繋いでくれた事を思い出して


どうかこの手を捕まえて欲しいとの想いを

神となった貴方の元に届くまで、私は祈り続ける


女神として護ってきたこの心のままに・・・



落とした涙が、その空に・・・


貴方の居るその場所に昇って行くのを見届けて

貴方の元へこの想いが涙と共に届いてくれると信じたまま




私も貴方の元へ・・・



行く事を選らんだ私を、どうか捕まえて ___________






「 ハイ、こんな感じ。 」


アフレコの台本をパシっと閉じた近衛監督。

CG合成のされたモニターを見せてくれながら、監督は横でアフレコに入れるクレオパトラの台詞を読んでいた・・・。

これは、京子が読んだらきっと感慨深いものになるんだろうとは・・・
横で見ていた貴島も頷いて納得の様子。

冷めて引いてた俺らを置いてけぼりにしたまま、監督はアフレコの説明をしていた。


「 今の僕のタイミングに合わせて、画像が出来たら入れるから。 」


「 ハイ、大丈夫です。それはOKです。が・・・

でも監督?・・・ 」


京子が指差したのは、その先自分が目を見開いて!と注文出された箇所。
なぜに目を開けたのでしょう?と首を傾げて謎だったのは、自分もそう思っていたから。


あぁ、そこ・・・

そういいながら、京子ににっこり微笑んだ。


「 クレオパトラって歴史の中だとさ・・・

毒蛇を隠し持って自殺するのが有名だよね。  


そうだから胸に毒蛇を隠し持って、蛇の意思に任せて・・・

神の元に召すタイミングを、蛇・・・すなわち、エジプトの神の使いに任せる。

“ シーザーは神と成り・・・”

・・・って今もアフレコに入れるものを読んだよ。

本当はさ、京子さんに本物の蛇でして欲しかったのだけれど・・・


・・・やっぱ、嫌だよね。 」



( ハイ、嫌です。)

固まった京子の表情から、はっきり彼女の言いたいであろう心の声が聞こえたような気がした。
監督は妊婦の彼女に、健康上も精神上も良く無いかもな・・・と考慮してくれたのだと感謝する。


「 だから、この部分はまだ保留。蛇の画像は作って無いからさ・・・


じゃぁ、CM プレビューに使いたい代表的なシーンはこれだけだな・・・

とりあえず、今日は・・・みんな お疲れ様。 」



それではお先に、失礼します。と、血まみれの衣装はとりあえず脱いでバスローブを着ていたけれど、早くシャワーを浴びたいと思っていた俺。貴島もどうも同じらしい。

スタッフにも監督は、“ みんな お疲れ様 ”と向けていた、ブルーバックばかりのこの映画・・・

セットのばらしも何も無い。

でもだから、セット変更で空き時間。とは今日は殆んど無くてサッサカ撮影が進んでいた。






楽屋に、キョーコと二人で向いながら話していた。


「 キョーコよく直ぐ、涙を出せって言われて、出せるように成ったね。」


それとなく聞いてみた。

琴南さんとの別れを思い出していたのか、それとも本気で俺が死んだら・・・とでも、思ってくれていたらと、淡い期待も少々。

一応、どんな隠れた感情があるにしろ、泣け。と注文を受けたら直ぐに涙が出せる様になった京子を褒めていたけれど、実は、全然自分の淡い期待と違うらしい・・・。

俯いたまま、えっと~、まぁそうですけれど・・・と言葉を濁してスタジオを出た。

監督のいない廊下に出ると、素直に・・・


「 あれね・・・眠くて出そうだった あくびをかみ殺したら、出ただけ・・・。 」


まぁ、理由がなんであれタイミングよく出せた事には、画像の中の涙 綺麗だったよ。との言葉に続き・・・


「 褒めてつかわす。 」


と、頭を撫でると・・・


「 愛しいシーザー様に言われて、光栄ですわ。 」


と、返してきた。なので・・・


「 じゃぁ、今宵は・・・」


と、きょろきょろして、手を繋ぐと・・・


「 いーえ。月から楽隊でもお呼びします。 」


そうキッパリ断られて・・・


「 はい、すみません・・・」


しか、返す言葉は無く・・・そのまま楽屋の前で別れてシャワールームに行った。



グレープジュースと血のりでベトベトだったのもスッキリして、着替えてシャワールームを出ると、隣のシャワールームから着替えた貴島も、ちょ~どのタイミングで出てきた。


「 お疲れ様。 」


そう言いながら貴島を見ていた。貴島の瞳も髪の色も元に戻っていて、あれ?ウィッグ?と思わず聞いていた。


「 そう。他の撮影がまだあるから、これだけに成ったら染めるつもり。 」


その言葉に、じゃぁさっきアドリブで兵士と同じ様に髪を掴んでいたら、カツラがずるっと取れて、NGだったんだな。と、NGに成らなくてよかったと思いつつ想像して、思わず笑いそうに成っていた。

ふっ。っと噴出して横を向いたら、貴島に・・・


「 あれ?敦賀君。コンタクト外してないの? 」


マジマジと見詰められて、忘れんなよな~。とバシッと肩を叩かれたと思ったら、貴島の手がそのまま肩を抱いて押してきて一緒に楽屋に歩き出していた。

ね。ビールでも飲みに行かない? 撮影、ちょ~暑かったし? とは、照明の光の塊の中に居たら誰もが思う事。

あ~、冷たいビール飲みたいかも。と、思うも・・・ネムネムモードの王女様を送らないことには・・・

( ・・・いや、一緒に帰宅したい。 )

だって、今日はセバスチャンがヘリで送ってくれたし、お迎えもそうだし・・・
社長には、結婚していい。と承諾もらったし・・・そう思うとセバスチャンが上手く隠して、
俺の部屋まで送ってくれると期待している。


「 う~ん、今日は・・・ 」


言葉を濁して断ろうと思っても、こちら貴島秀人サンは、俺より先輩。
仲がいいのかどうなのかも定かで無い俺達だけど、気が合うのは・・・好きな人も同じという、他にもいろいろ似ているところからだと思う。


え~、CG撮影の為に2日間 水絶ちして、この時を楽しみにしてたのに~。と言われても・・・
明日も明後日も、撮影はありますよ。と、本日初日だった貴島には、うん。そうだな。と本人に納得させるしかなかった。でも彼は耳元に寄り小声になった。


「 だって、一ヶ月もしてなかったら、冷戦状態って・・・わけだろ? 」


・・・。


( まぁ、確かに・・・まさか妊娠しているとは思っていないよな。 )

もう一度顔を背けて、鼻からフッっと息が漏れてしまった。


「 なんだよ。やっぱ、そうなんだ~。 」


良かった良かった。と、足取りウキウキしている彼には・・・

そのまま勘違いしておいて貰った方が、この撮影中いろいろ便利かもしれないと、
今日の撮影で久々に貴島と演技が出来て、本気モードで役に入れる彼とは、自分も・・・

本気で演技でぶつかり、引き込んで引き込まれ、その繰り返しが生み出し役に成りきれる時が、

本物の役者だと心から実感した、今日。

彼と演技をしていると自分が引っ張られる時も有って、それがとても心地いい・・・
自分にとって先輩である彼には、素直に演技でぶつかって行きたいと心から思った。

それは、きっと京子にも同じ。

先輩の自分だけではなく、もっと先輩の彼の演技にも引き込まれて、これからも
大きく羽ばたける可能性を引き出して欲しいと、この撮影にその後の未来が掛かっている彼女にとって、彼の演技力も必要なんだと思うから・・・


( ・・・でも、プライベートは別。 )

そのまましばらくは勘違いさせておいて、泳がしてからもっとダメージを与えてやると、
何ヵ月後かのお腹が目立ち出してきた頃に、勝手にダメージを喰らってくれれば、
自分から言う事は無いのかもと、婚約した事はしばらく黙っていようと心に決めた。
なので・・・


「 何言ってんの?・・・戦いの神だよ、俺・・・ 」


まぁな~、冷戦状態でも戦いは戦いだしな~。と勘違いしている。
じゃぁさ~、この後 空いてるって事なんだ・・・そう言いながら口を段々噤んでしまう彼は、
裏切る前のローマ将校で一応自分の仲間なので、このシチュエーションのまま撮影に挑めたらいいと思っていた。


「 じゃ、飲みに行く? 」


と、自分から翠の瞳のまま誘えば、この瞳を見詰めて・・・


「 いや。取り消し。明日からこっちの現場の撮影時間、どんどん長くなるから。 」


( はい。成功。 )

髪の色も瞳の色も撮影のままの俺の姿に、戦いを挑んでも勝てる見込みは無いと思わせる事もできるし・・・

それにコンタクトをしないでいても、誰も何も言わないのが・・・とても楽だった。


「 じゃ、お疲れ。 」


貴島が大人しく楽屋に帰ったので、自分も隣の楽屋に入った。

鏡を覗きながら、いつもしない事・・・茶色のコンタクトをしていた。
瞼をパチパチさせて目に馴染んだのを確認して鏡を見ていると、そこにはいつもの自分が居る。

近衛監督にはカインヒールの時に、敦賀蓮だと名前を表に出さないまま撮影したから


今回は自分から・・・

監督へ・・・ちょっとだけ、ヒントを与えつつのお返し、・・・かな。



________ クーの息子、久遠ヒズリだって事を・・・


まだ分らない未来の先に何時か公にする時が来たら、未来想像の大好きな監督にとって、

想像できない事も世の中あるんですよ。と・・・

今度は自分が素性を隠したまま、でも・・・この瞳のままの撮影の今を・・・

監督が好きなその未来に成ったら、一体・・・


・・・ どう思うのだろうと ____________




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

To be my Grace Lastに続く