To be my Grace No. 13 (mimi's world・美海さん)
※文章に以下の描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
・妊娠(カイセツ後)
・流血表現(撮影シーン)
・微桃(撮影シーン)
_____ 今宵は何をして差し上げましょう・・・
王宮内のクレオパトラの館。
クレオパトラ専用の広い館は、シーザーの滞留している迎賓館に程近い所。
孔雀石で造られたロレッタ・ストーンが磨かれた大理石に碧の影を写し、鮮やかな紅玉で作られたハヤブサ神ホルスの像、ラピスラズリのスカラベとエメラルドのスカラベがその周りに幾つも交互に並べてあり、上からぶら下がるアイオライトの珠玉からの蒼い光を放つ様にと その空間一杯にたくさん置かれている象牙で出来た香炉には香油が焚かれて、香りと共に仄かな灯りを灯している。
黄金の壁に香炉の優しい光が反射して、広い空間をほんわりと明るくしていた。
外から差し込む月の明かりを決して邪魔をする事は無く、香油から立ち昇る薄い煙は その月明りの中に吸い込まれる様に、立ち昇っては直ぐに消えていた。
「 今宵は・・・王宮内の薔薇園でもご案内しましょうか、
それともロレッタ・チェスのゲームをお教え差し上げて・・・
・・月から・・・楽隊でもお呼び致しましょうか・・・」
「 いや・・・」
蒼い光が黄金の光の中に瞬く様な空間に、立ち上がるシーザーの姿が香炉の煙をふっと揺らして、その煙が周りに広がって行ったのは、クレオパトラの許に2歩、3歩と近いたからであった。
クレオパトラの前に両手をすっと差し出すと、仄かな灯りの中に輝く蒼碧の瞳を見詰めた。
「 その輝く瞳で、今夜は・・・
俺だけを見詰めていて欲しい・・・」
その言葉を受けてクレオパトラは、夜明けに咲き開く淡紅色の蓮の花の様に、一時にその淡紅に頬を染めた微笑みを向けて、歓喜の意を伝えたく直ぐにシーザーに差し出された両手に手を乗せて大きな両手が包んでくれるのを感じると、その両手にすがる様に立ち上がった。
________ シャラ ・・・
王冠をしていない夜着のクレオパトラ。
黄金の編みこまれた黒髪が抑えられる事無く音を立てて・・・
シーザーの胸に抱き寄せられると、二人は目を見詰め合ったまま
お互いの瞳の中のそれぞれは、蒼白い月明かりと金色の仄かな灯りが作り出す自分の姿が映っていて、きらきら煙に揺れるアイオライトの細かく蒼い星の様な光を瞼の中に残したまま、
見詰め合った瞳を同時に閉じた。
_____ 「 カット。 」
はいOKで~す。と言うスタッフの声と共に、二人が入っている・・・
な~んにも無いブルーバックのセットの中に、寝台だけが6人がかりで よっこらしょ。と運ばれてくるので端に京子と避けていた。
( ふ~ん、これも合成されるんだ。 )
その全て同じブルーのセットを端で見ていた俺が思ったのは、重そう・・・って事。
硬そうな薄平たい箱型、低いな~・・・と思っていたら、その上にエアマットレスが置かれて、ずいぶんな高さに成ると、横に待機している二人のスタッフが真っ白な毛足の長いシープスキンで出来た大きな毛皮をばさっと掛けて、その上に艶々の光沢のあるシルクのシーツを残している。
「 うわっ。フワフワ~~! 」
横で歓喜の声を上げる我が姫は・・・そのまま撮影中に寝てしまわないか不安にも成る、俺。
_____ もう少し準備かかりま~す。
すんませ~ん。と照明さんが言っているのは、物が有るからだった。
エアマットの下側は合成なのだろうけれど、シープスキンとその上に残された艶のあるシルクのシーツ。ツルツル イコール 光を反射する。って事。
ふ~ん、どうするんだろう・・・と思っていたら、ものすごく気に成ってきてCGさんの所に自分で向った。
_____ どうしました、敦賀君?
「 ちょっと影像に質問が、あるのですが・・・」
自分の問いかけに快くもちろん応じてくれるCGさん。
演技をしていく上で、いくらカメラが縦横無尽にあると言っても、照明が今まで均一だった、ただのブルーバックと違うとカメラは限定して撮るのだろうか?と、云う事。
艶のある光沢のシーツが照明を反射して放つ光が動く度に変わるから、その度に薄い影が出来ると云う事。
だったら、大きな行動をしない方がいいのだろうか?と・・・
影を映さない様に撮影する為に影が出来る角度のカメラを使わないで、何台かに限定しての撮影だったら・・・
その映さない角度に、キョーコの肌を隠したいと思っていた事。
_____ あぁ、あのね・・・
そう言いながら見せてくれたのは、合成される影像。
ベッドの周りに・・・
五彩のトパーズが繋げられ 無数にぶら下っている様に浮いていて、それは宝石だけで作られたカーテンが寝台の周りを覆いつくし、月の明かりがトパーズに煌きを写す度、シルクの光沢に五彩の光が星の様に瞬いていて・・・
霞みの様な雲の上にフワフワの毛皮が乗せられて、霞の下は澄み広がる蒼い夜空の上。
その空に星は無く、シルクの光沢に瞬く宝石の光だけが星の様で・・・
_____ そう此処にね・・・
モニターをペンの背で指しながら、ソレ。って反対の手で俺の頭を指差した。
_____ 黄金の月桂樹と、あれ・・・
CGさんが指差したのは、セットから出て端に少し寄った場所で、衣装のチェックを受けている京子。
彼女が両腕を広げたまま下を向いたり横を向いたりさせられながら、大きな一枚布を巻いた様な夜着の端を首の後ろで結び直されていて、その度に揺れる黄金の長い黒髪が目に入った。
「 彼女の髪ですか? 」
_____ うん、そう。蒼い空気の中に金色。監督のイメージは・・・
“ 影の世界。 ”
ん?っと思ってしまった・・・。
あれ?って顔をされて、今まで気付かなかったの?と聞かれてしまう。
_____ 今までの影像は全て・・・
シーザーとクレオパトラ。いや、主要登場人物は全員・・・夜にしか出てない。
全員、満天の星が輝く、星の世界の人達だから。
脇役が夕暮れや夜明けと云う時間の経過を生きている。
君たち、主要人物は全て、闇の夜の中に時が止まっているんだよ。
だから星も動かない。月も傾かない。 動くのは雲、雲海、霞、霧、靄。
空間の広がりをね・・・
君たち主要人物だけが操る事が出来るようなイメージで
君たちが動くと、この水・・・砂漠に余り有り得ないもの、
・・・この世界を君たちが動かしてる。
光の反射や大気の流動などで表現している空の世界の広がりで、君たちは・・・
光の中に映し出された、闇の中の人達。
考えてごらん、今まで光の反射だけで狭い空間のその外の影像・・・
光の灯されていない周りは、無限に広がる夜の闇だっただろう。
満天の星が煌き瞬いていても、その背景は全部・・・闇 ___________
_____ 意味分った?
そうだからね・・・金色の月桂樹と彼女の黄金の髪を、この蒼い空の中に金色の光で包んで
浮かび上がらせたいのね。と言われて・・・ウンウン。と無言で頷いていた。
( 近衛監督って・・・)
黒やら闇やら、ダークでブラックで、殺しちゃったり血だらけが・・・本当に好きだよな。
と思っていた。
愛に関しては とっても深いものだけれど、綺麗な映像の中に・・・ダークな闇の世界。
メインは、暗闇の中の・・・影
光が創る本物の影を光を照らして消して、光と光の重なりに影の無い場所で演技させられている俺達俳優は・・・闇の中に浮かび上がる、幻想ではない・・・霊とか魂みたいなものなんだな・・・と、現実に起きた歴史であってBJの時の様に、架空の人物ではないと云う事。
カインヒールが俺だったとも、セツカヒールが京子だったとも知らない・・・
Tragic Markerの影像を創った近衛監督チームのこのCG責任者に、魂ですか?と聞いた。
_____ そうだよ。監督、君達に演技の注文、なんて言ってた?
涼しい顔をしたまま自分の仕事を続けるCGさんに、そう聞かれて思い出すのはたった一つ。
「 無念ですよね。 」
_____ そう。自力で全うしないまま、全員殺されちゃったんだよね。
あははは~。と笑いながら・・・ 無念ね~。とも言いながら・・・
_____ そうだから、姿は無くとも・・・
人指し指をモニターに向けて、顔は上を向いた。
_____ 空の上。この影像の中、闇の夜空の中に漂っている彼らの残した心。
で・・・? エジプトの王家の伝統は?
そう聞かれると、さっき監督が京子に、こんなのどう?と見せたハトシェプスト王女のミイラを思い出した。
「 魂の生きる限り、ここに戻ってくる・・・ですか? 」
_____ さすが、敦賀君。そうそう、だから今回・・・
クレオパトラが空から落ちてきて、現世、いや、未来に戻ってくるのかも知れない。
・・・そう始まっているよね。
( ふ~む・・・なるほど、なるほど。 )
うんうんと頷きながら聞いていた。
_____ でっ。この撮影、シーザーとクレオパトラの初めて愛を交わすシーンだからね。
あははっ。んでそれを?国の代表同士だから?・・・邪魔されるって、可哀いそ~。
ま、影像はこうだから。
それと、このシーンに続くのは さっき撮った・・・
兵士に装備を付けられるシーザーをクレオパトラが外を見て見送るシーンね。
覚えてるよね?カメラの動き。
空を飛んで見送って、満月の裏側の光の無い月の影の中に浮かぶ・・・
金色に光るシャドー。
影の中に出来る、光が・・・この世界の影なんだよ。
そう・・・もうね~、考えるの大変だったんだから。監督が闇に影を映せって言うから~。
まっ、演技は宜しくね。んで、此処に金色の月桂樹の冠と彼女の髪の黄金入れたいから、
で、光沢の上は照明が、キラキラ~って、宝石の創る星の瞬きを映してくれるからね。
モニターを見せながら、カメラはぐるっと一応全部使うからね。とも確認できた。
そう話していると、照明さんと話して調整していた監督に呼ばれた。
「 敦賀君、京子さ~ん。ちょっと入って下さい。 」
手招きで呼ばれると、CGさんはPCを見詰めながら・・・
_____ 京子ちゃんの上に敦賀君の影が入らない様に、調整。するんじゃない?
まっ。無念が残るほど、彼女を愛してあげてっ。バシっと背中を叩かれて・・・
この背中に小声でボソッと付け足された言葉・・・
_____ セツカちゃんの時みたくね。
「 はい。 」
一歩セットに向って歩いて・・・ゆっくりと振り返った。今の言葉に耳を疑っていた。
CG責任者の人は、持っていたペンを唇に当てて、し~っとしていた。
“ やっぱり? ” って口パクで伝えてきて、ふふっとその表情が緩んだ時・・・
_____ 敦賀君。 今『 はい 』って言ったよね。
じゃぁ、当たったんだ~。と小声で喜んでいる。
傍に寄って、伝えられていたんですか?と聞くと、イヤ、違う。と返ってきた。
_____ 大丈夫。自分しか気付いて無いから、それに自分の部下には触らせてないよ。
あのさ・・・と、ちょ~小声で話し出したのは、
CG合成に必要なクロマキー。演技に入る前のデザイン画には、アンドロイドを創ってクロマキーもバーチャルの物を作って試しに入れる時、気付いた。
敦賀君のアンドロイドを作ってて、あれ?なんか同じサイズ作ったよなって思ったのは、
Tragic Markerでは、謎のでっかい人って言ったらカインヒールしか居なかったからね。
カインのアンドロイドを引っ張り出して重ねたら、ミリ単位の狂いも無く一致したから・・・
ただ、そうかな~・・・って半信半疑だっただけで、でも自分でハイって、今 言ったよね。
それに・・・そうか、京子ちゃんがセツカちゃんだったんだ。
今、敦賀君を験したんだけど。あはっ、ごめんね。京子ちゃんの手から手首、手首から肘、
肘から肩。こんな風に大まかに関節を実際の目で見てね、カインと敦賀君の一致に・・・
京子ちゃんとセツカちゃんが同じじゃないかって、目で測ってた。
プロだからね~。と笑いながら・・・
監督に自分が気付いている事、言わないでね。
アンドロイドは自分しか扱わないから、他のCG技術さんは みんな知らないよ。
監督には・・・余計な事に気付いた・・・余計な人と思われたくないしね。
・・・との付けたしに
フムフム・・・
そんな風に言われると、プロには見ただけで採寸されていると思っていた。
敦賀君、早く~と監督と照明さんが呼んでいた。
_____ んじゃ、がんばって、いちゃいちゃして来いよ~。
っと背中をグイッと押されて・・・
キョーコが言ってた事を思い出す。
“ 筋肉が、骨格が・・・敦賀さんと一致した。 ”
なるほど・・・さすが人形師。気持ちの悪いほどよく似ている人形を作る彼女の
コンピューターの弾き出す対比に数値、それらの様な彼女の絶対視感なるモノは・・・
熟練しているCGさんと同じレベル。
PCのはじき出したアンドロイド対比とも同じレベル。
( う~~ん、人形師・最上、恐るべし。 )
今さらながらにキョーコの絶対視感レベルの高さに驚きながら・・・
その・・・今は愛しい、国宝級の人形師の方へ視線を向けると・・・
_____ 監督に言わないでくれる代わりに・・・
影像に合成する時、京子ちゃんの素肌 極力入れない様に協力するよ。
後ろでこっそり言ってくれたその言葉に、背中に手を回し親指を立てた。
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To be my Grace No.14に続く