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To be my Grace No.8 (mimi's world・美海さん)


※文章に以下の描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 ・妊娠(カイセツ後)
 ・流血表現(撮影シーン)
 ・微桃(撮影シーン)








そっとスタジオに入った。



傍にいるスタッフに、すみません。今 着きました。と小声で言うと監督に伝える為にそっと行ってくれる。

監督の下に行き伝えてくれると、監督は振り返り無言で片手を挙げた。

しーんとしているスタジオ内に聞こえるのは、一人の男の子のすすり泣く声・・・



ぐすっ・・ぐすっ・・・

・・皇后・・妃・おか・ぁ・・さ・・・・・・ま



両手を後ろに縛られて、うつ伏せに寝かされ一瞬だけ目を見開くと、遠くを見詰め瞬きもせず
がくっとその首を垂れた。


目を開けたまま彼は、本当に息を止めているのだろう。

真っ赤に顔が一度成ったかと思うと、瞼をゆっくり閉じながら顔色までもその血の気を落とし
た。

頬を伝っている涙が途切れた時、カット。と声が掛かった。



監督の傍に行き、遅くなりました。と伝える。


「 大丈夫ですよ。飛凰くんのシーンなどを、他の役者さんとのスケジュールに合わせて先に撮っていましたから。 それより・・・」


こそっとキョーコの耳元に寄って監督が言い出した。


「 キョーコさん。すみませんね。お子様の処刑シーンなんか見せて・・・」


大丈夫ですか?と監督は言っているけれど、キョーコは、はぁ・・・っと、実はイマイチ分かっていない。大丈夫?と聞かれた意味すら分らないほど、大丈夫だった。

なんていっても、ブルーバックのセットの中。

上杉飛凰くん一人だけが演技をしている。


はっきり言って、首を切り落とされた・・・と云うシーンなんだけど、
剣を振り翳す者も居なければ、別に切れているわけでもない。セットの中も何も無い。

なんのこっちゃ分らない、一人芝居。


すっくとカットと共に立ち上がって、マネージャーが差し出すティッシュを取り、鼻をチーンとかんでいる。

そのままモニターチェックをするのかと思いきや、歩いていったスタジオの隅。


「 おーい、奏江~。どーだった? 」


・・・。


「 えっ、あれ琴南さん? 」


その演技を見ていた角の女優・・・

シースルーの黒いベールに身を包み、透けて見える長い黒髪に光る、編み込まれている無数の透明なビーズ。その髪は腰の下まであり、飛凰君と話してウンウンっと頷くだけで、シャラっと音を立てて光っている。

その髪以外は、黒一色。

おでこに掛かるベールをそっと手で掃った時に見えた瞳が光っていた・・・


陽の色。


オレンジでも金色でも黄色でもないその瞳の色がベールの向こうに透けて見える。
それに飛凰くんの瞳も・・・


碧水晶の色。


セットの中では碧色だったけれど、今琴南さんと話している暗がりのスタジオの角に見えるのは、透明に程近い水晶の様な瞳。

あっ!モー子さ~ん。モー子さぁぁ~ん。と小さく手を振っているキョーコ。
だけど、監督が続けて、衣装は・・・先に、これと・・・メイクは・・・と、自分たちのスケジュールを言っているので、聞いて無いとダメ。っとの意味を込めて、監督に向ける視線はそのままにキョーコの振っている手を掴んで下ろした。


「 はい、それでよろしく。 」


監督の方から離れてCG技師のモニターに行き、画像の確認をしている。

その自分達がいつも確認しているモニターは、もちろん演技のものだけ。
バックはブルーのまま。そのモニターを飛凰くんがチェックしないのは、自分の演技に自信があるのか、イマイチ見ても分らないからなのか・・・は、謎のまま。


_____ 上杉君。ちょっといいですか~?


監督が彼を呼ぶと、今の取り直し。と言われているのを聞いていた。

何がいけないのだろうと思うのは、顔色までも呼吸の仕方で変えているし、涙も死んだと見せかけるのに綺麗にぴたっと止めたのに? だったのだけど・・・


_____ 地上じゃないので、首の転がる先は、下に垂れないで下さい。


( なるほど・・・。)

_____ 重力を見せたいのは、クレオパトラの最後だけです。
 

監督と彼の会話を聞きながら、む~んと腕を組んで考えていた。
しからば、本日撮影予定の自分の最後は、貴島と相談するしかないのか・・・と、まだ他のスケジュールが入っている貴島はスタジオ入りしていなかった。


じゃ、もう一度今のシーン、フィルムチェックの後 入りまーす。と言うスタッフ。
そのスタッフの間をカツカツこちらに歩いてくる飛凰くん。

 
「 あぁ~、ピンクのヤツ! 」


キョーコを指差して近寄ってくる。それに琴南さんも気付いてこちらに歩いてきた。


「 きゃぁ~!モー子さぁ~ん。 」


「 ・・・。
・・敦賀さん、おはようございます。 」


( まぁ、琴南さんが正解・・・。)

きっとキョーコと話したいのだろうけど、挨拶は目上が先の世界。キョーコも、ほら。と肘で突付いて、飛凰くんの方が先輩だよ。と促した。

二人で、おはようございます。と声を先に向けたのは飛凰くん。

赤ちゃんタレントとして自分でも知らない内に出演していた彼だから、芸歴11年。
俺6年目。キョーコたったの丸1年・・。


「 なんだ~カナエの相棒じゃん。京子っての。 」


あれ?知らなかった? と言いながらキョーコの頭から黒いなんかが出たのを、見たような気がした。

もういい、最上さん早くメイク行くよ。と引っ張って、じゃ琴南さんも後でね。と言い残し楽屋に引き連れて行った。


「 モー子さん、後でね~。 」


後ろを振り返ったまま歩いているキョーコの腕をがっちり握って・・・

・・・転ばない様にしていた。






メイクも終わって楽屋を出る時・・・

着替えた衣装の一つ。今日も渡されたカラー・コンタクト・レンズ。

実は、もう1週間前から撮影に入っている俺と京子。

初めて手渡された時、着けて鏡を覗いていた。
鏡の自分を見つめた時、右を向き、左を向き・・・携帯のライトも目の近くで当てたり・・・
そんな事をいろいろして、片目だけ外し同じ事をしていた自分。


( 同じ翠色・・・。)

はっきり言って、自分の裸眼の方が透明感もあるし、輝き光っている。
横を向いたら裸眼の方が陰影がよく、視線の先が良く分る。

一度試しにコンタクトをしないで撮影してみたけれど・・・

・・・ドキドキしていたわりに、誰も気付かなかった。


キョーコだけが その前から家で見ていたので、あれ?と気付いていた。


そのアレ?ってキョーコの瞳の色も、蒼碧色。
彼女の瞳の色は、アレキサンドリアの海の色と同じなんだよ~と監督が説明するも、見た事も無いし行った事も無い。へ~っとほ~っと思うだけで、二人とも・・・ふ~ん。なのだった。


その京子。先にスケジュールの詰まっている飛凰くんと琴南さんとの絡みがあって、スタジオに行くと撮影していた。


飛凰君の処刑の前に継ぎ足されるシーン。

背中合わせに座ったまま腕を縛られていた。二人は捕らえられて見せしめとして広場をつながれたまま歩かされていた。


「 シーザリオン。貴方は・・・

このエジプト王朝とローマ帝国、二つの国の跡継ぎ。

・・・それを、胸に・・・威厳高く誇りを持ち、

王としての最後を自分でも勤めなさい。 」



クレオパトラの腕をぐっと掴んだシーザリオンは、母様、母様と小さかった声を繰り返しながら、その母を呼ぶ声は叫びと成っていった。




______  「 カット。 」


うん、いいよ。じゃ・・・ 
モニターチェックをしている監督に、入りました。と伝えて、とスタッフに頼んだ。



「 あぁ、敦賀君も準備は出来てますね。 」


カメラモニターがたくさんあるのも、動きの大きいアクションを求める近衛監督ならでは。
モニターの数だけ、セットの中に向けられたカメラがあると云う事。

京子は見ていただけだったTragic Marker 。

でも、見ていただけ。

その見ていただけ、だったからむしろ気付いたのであろう・・・京子が出た緒方監督のDark Moonの撮影と違って、モニターチェックのモニターが一つじゃないって事。

正面からカメラを動かして撮影する緒方監督と違うのは、CG特有の撮影だから。



_____ じゃぁ、メリエトとクレオパトラ準備OKです。


スタッフから声が掛かって、監督と一緒に見ることにした。




この撮影が始まった1週間前、固定定点カメラが無数にあらゆる角度から付けられているんだよと教えてあげた。

ズームは?と聞き返す京子に、一箇所に引きと寄りの二つ。でも他にも使うから・・・二倍。と言って、ピースして微笑んだ。


_____ そうあのね・・・

近衛監督は他のCG監督に比べカメラの数が多いとは思うけど・・・

基本的にCG合成影像は、ライトも360度。それが球体で
照明が当てられた角度の反対からのライトがあって、光が必ず創り出す背後の影や服や顔の陰影にさらに光を当ててね、光で影を消して・・・

その影をまた光で消す。光と光を重ね合わせて影を創らない、いわゆる現実にありえない未来を映す時に良く使う技法。合成のしやすさもあって・・・

合成される風景画像と繋ぎ合せる時、360度のカメラの画像を繋ぎ合わせて、ぐっるっとカメラが回っている様に映像化する時の為に、カメラが動くとカメラの影が入って映る場合があるから、360度の無数の定点カメラで影が入らないように照明も合わせてセットされてる。

それに今回、3D 星空の中に浮かぶ事。
上下左右、ぐっる~~っと球体にカメラがあるよ・・・

そんな事を言って指差していたカメラの数。


_____ ええぇぇーっ。おぉぉ~。

っと驚いていた京子だったけれど、俺はすでにスタジオに入った時、全てのスタッフに声を掛けていた時、カメラの位置も確認していた。ブルーバックだけじゃない・・・ブルーの舞台が造られていてその上で・・・って事は、下から上に向うアングルもぐるっと360度ってわけね。と察知したので、カメラの位置を確認したら・・・

把握できない程・・・その空間全て、球体にカメラが回されていると思った方が早かった。

監督が見ているのは大きなモニター一つの中を12分割のもの。そのモニターが12個。
103箇所。207カメラ・・・真下に近いところだけは無い。


_____ まっ、だから気を抜いて・・・・?

ちょっと振り返ったりとか、俯いて台詞を思い出したりだりなんて、見破られるよ。
・・・気をつけてね。

と言って、フッっと鼻で笑っていたもんだった。_____________






___________「 メリエト・・・ 

・・・そなたの予言により私は行く度も助けられて参りました。 」



アレキサンドリアの海に繋がるナイル河の河口からその船は隠れる様にして、深夜に出向した。

暗闇の中・・・

アレキサンドリアの街の中に灯る、豊かな資源を誇るエジプトでは鉱油を用いて灯された明りに助けられる様に、河上での行方が見渡せていた。
やがて、自分の統治下から抜けて真っ暗になると、行方だけが見える様に船に火を灯し始めた。

自分の統治するアレキサンドリアの街の灯りに、国民を残してきた事を心配もし、また、国民に見送られているような気にさせられていた。


「 そなたが言う事は・・・私は全て信用しています。 

あの星と・・・あの星・・・」


そう言って満天に輝く星空に指を指したクレオパトラ。
なぜ・・・と言葉を続けると、メリエトはクレオパトラの両手を優しく取り上げ両手で包んだ。


「 王女様・・・天変地異はその土地の長の異変の予言でありますのよ。 」


クレオパトラの両手を握って目を瞑る。


「 この国の長は・・・貴方・・・

あの星とあの星が、傍にお寄りになる時期が参りますまで・・・

どうかご無事で・・・」


ナイルの上は、常春のアレキサンドリアと違って、そよそよと風が吹き心地よいと感じる。






・・・その見えない球体の中に京子と琴南さんが入っていた。

監督の見詰める一つのモニターは、監督がイメージしている角度の主な一つ。
207個目のカメラの画像。その周り12個のモニターがある。


横にいるCG技師が二人の演技を見ながら、そのシーンに使う背景にどう動きを入れるかマークしながらモニターを見詰めていた・・・

・・・その合成技師のCG画像

それに京子&琴南さん・・・いや、クレオパトラ&クレオパトラの専属占い師 メリエト

この二人がアレキサンドリアをポンペイの兵に占領されると早馬で知らせが届き、テーベの南メリエトの故郷ケナにナイルを遡るシーンの撮影。


二人とも その身柄を隠す為、埃と砂嵐に塗れた姿。
クレオパトラの麗しい女王としてのメイクしかまだ見ていなかったので、ちょっとびっくりしていた俺・・・

目元を彩られた様なメイクではなく、砂の砂漠に日焼けした様な乾燥した感じのメイク・・・なのだけれど、蒼碧のお目目パッチリ。その顔を隠すベールの中に揺れる二人ともの髪は

細かい透明のビーズが編み込まれて、微かに音を立てていたメリエト

クレオパトラには・・・黄金色の細かいビーズが編みこまれていて・・・

見ていてこの二人のアクションは無く、ただケナへの船の甲板に座っている。のか?と思う仄かに風に揺れる髪・・・

風に髪が揺れる度、シャラ・・って聴こえて・・・

二人ともが長い黒髪に、ビーズが輝いている。



12分割されたモニターを見ながら左手で合図する監督の指の動きに合わせて照明が角度によって少しずつ落とされ始めてはっと思った、12分割の影像モニター。

光が当たったビーズの輝きはランダムに輝いている。
隣のカメラに耀きが映っていなくとも、その隣には映っていて・・・また隣には違う輝きに映っていて・・・
その繰り返しが生んだ12個の分割された画像

1つの画には、キラ、隣に時間差でキラっとまた一つ・・・その隣にも瞬きが時間差で・・・

それは星空を見ている人が、角度が違う場所に立っていると違う瞬きに見える様に。
この12分割の12個のモニターを目で順に追っていたら、キラキラキラキラって・・・ずっと輝いていて、まるで・・・


琴南さんの黒髪には光の瞬きだけが映る漆黒の夜の天の河の様で・・・

京子の黒髪は・・・漆黒の夜の中に浮かぶ黄金





でも、衣装は近衛監督らしいズタズタ・・・

・・だよな。と思わず腕を組んで頷きながら思ってしまう・・・。



そのズタズタのベールの中に秘めた王としての誇りがきっと隠されているのだろうと、ただのブルーバックの影像だけでも想像できた。


カメラの影像が入っている物に目を移し、そちらの画像に目が釘付けに成って見ていた。





__________「 灯し火を消して・・・」


クレオパトラが傍の用人に伝えると、その先に幾つかの惑星のように暗闇の河岸に灯りがポツポツと見えていた・・・その灯りは、旅人が灯す野営の灯り。

ゆらゆらと揺れ燃えている炎は船の上からだと小さくて、遠くで野営をしていると確認するとほっと、胸に手を当てて安心した。

それでもクレオパトラはこの・・・死と背中合わせの地を抜ける為の旅は、旅人にとって命と引き換えに旅立たれた者の勇気に感慨深く感じて、胸に手を当てていた手を結んだ。


「 どうぞ、幸がその先に待っている事と・・・」


旅人の野営の炎に向けて祈りを捧げたのは・・・燃え揺れる小さな炎がその地を彷徨う魂の灯火のように見えているのだろう・・・_____________





・・・監督横の合成シーンに試しに入れられた、メイン207のカメラの影像が入っている物に目を移し、そちらの画像に目を奪われていた。



灯火の灯りのオレンジと赤の照明が、ふっとフェードされた時・・・

CG画像の中に浮かぶのは・・・

クレオパトラ達の船が動いていると想像していたから、頭がちょっとおかしくなっていた。

台本を読んでいた時は、暗い砂漠にポツポツ見える焚き火。
近いものは少し大きくて、遠い物は小さくて・・・位置的には近いものが下、遠いものが上でも地平線の上、自分の目線より上は・・・ありえない。と自分の脳が常識に囚われている事を覆された様だった。




_____ 「 カット。 」



正面の監督が声を掛けたので、びくっとしてしまった。

シマッタ・・・京子の演技見てなかったかも・・・画像ばかり見ていて京子の演技がどうのと感想はいえないな。と思っていた。


「 あぁ、敦賀君。こちらの画像も見てました? 」


ハイ。と返事をしながら監督がCGの画像を指差していた方に目線を移した。
こっちしか見てませんでした。・・・なんて、素直に言っては役者魂が廃るのでやめておく。


この場面ね~・・・と話しながら、彼女達が移っていない画像の中をぐるっと3D立体の空間を中に立って居る様に動かしていた。
それは寄りのカメラで、目を開けたまま自分が中心に立って一回転した様に見える様で、上なら上を向いたまま首をぐるっと回した様な感じだった。

それから、この視点をね・・・

そう言って監督が焦点を手前に変えると、中心に居る人物の周りを回っている様で・・・

その焦点をどんどん中心から遠ざけると、引きのカメラに繋がって大きな空間の外を中心に向いてぐるっと回った様に成った。

上は空から見ている様に、下は地上から空を見上げている様だった。

こうやって、ここと・・・こうやって、それで・・・と話しながら、撮影された京子達のモニターで使いたい角度の画像を順に指差していった。


「 うん。・・・まず下 40から・・・かな・42・がいいか・・・」

ブツブツモニターを見ながら言い始めた監督が手で追って行ったモニターにカメラ番号が付いている順番どうりを、CG画像のぐるっと動かされた背景を頭の中で合わせて想像してみる。


40,41,42、って40番台をぐるっとして50番台もまわして・・60.70.80・・・
そう、こうやってぐるっと螺旋に斜め下から上に廻らせてね、96辺りから下げて85.74.63.52.41.30・・・で斜めに降りて来て、このメインの207に持ってきてもう一度40に戻って・・・アップの方、50-2で星空のこのモニターの画像と、クレオパトラとメリエトの星を指すのを入れて・・・

そういいながら、指で下から螺旋を上に描いて行き、その指を斜めに下ろしてもう一度少し上がり、始めのカメラに戻って来る様に動かしていた。

ズームされて、星を指差す表情と伸ばした腕が入る様な光景も、最後に監督が止めた位置なんだなと想像してみる。


「 じゃぁ、螺旋に廻る間中・・・

二人の髪が揺れながら色を変えて瞬いている様に成るのですね。 」



「 そうそう!星占い師のメリエトだから、黒髪の中に星空でね・・・
クレオパトラは王の誇りと思って・・・コレ・・・

クレオパトラの王の標章である黄金のアスプの様に、金髪の髪に変わる。

それをベールの下に忍ばせて、このアップの蒼碧の瞳。

アレキサンドリアの海の色と王の黄金を、誇り塗れの顔に意味を込めようと思ってる。 」



それに・・・

監督が画面を止めたのは、自分の脳が可笑しくなりそうに錯覚してしまったやつ。

船が動いているのだから、それまでクレオパトラとメリエトが揺れていたのに、二人のアップに成った瞬間、二人が止まって背景がゆらゆら船が揺れる様に揺れ始め後ろに流れていく。

暗闇に光るポツポツとした旅人の焚き木の炎の灯りは・・・

クレオパトラとメリエトの後ろで、人魂のようにゆらゆら揺れながら流れて行った。

それが、旅人の生死を掛けた旅であると思わされたのと、敵軍の侵略を避けて非難したクレオパトラ達の運命をも不吉な物として映しているのかと思った。


「 そうあとこれ、どうして2台セットしてるか分る?敦賀君。 」


ん?と思ったのは、中心に向いて今の京子と琴南さんの影像を目線の高さから、二人の周りを螺旋状に飛び回って見た様で、下に下がって下から、二人が見上げた空を一緒に見ている様だった影像。


「 ん~・・・焦点を変えたら中心に自分が居て背景を見回した様にも出来ますし、
引いて焦点を遠ざけるだけなら、一台で十分ですよね? 」


そう敦賀君。正解。そう言ってもう一つの同じ影像を見せてくれた。


「 これはね、同じ定点カメラだけど、二つのファインダーは人の目の間隔に成ってる。 」


だからね・・・と、自分の目の間隔を二本の指で指し示しながら話し出してくれた同じ影像。
右目を瞑って見た対象物と左目を瞑って見た同じ対象物。少しずれてる。
二つのカメラを同時にあわせると、輪郭がぼやけてね・・・これ・・・

平面の映画館スクリーン用と、3D IMAX ? Theater 映画館用の飛び出す影像の、二つだった。

おぉ~!と頭の中が常識に囚われて錯覚を起こした人魂の様な漂う旅人の焚き火、その手前、クレオパトラとメリエトが船に乗っている風で揺れる、キラキラ光っている髪が手前にも奥にも立体で揺れていて、自分の目の前にその星のようなキラキラの煌きが舞い落ち降り注いで来る様で・・・
・・・思わず両手をモニターに向って、出してしまっていた。


「 ふふ。敦賀君、綺麗だよね・・・この二人、星の世界の人々。
  敦賀君も、この中の・・・

  今は亡き2000年前の人物で・・・今は、星の世界の人。

  2000年前で時が止まった人物が、星の世界から現実に舞い散る星と一緒に降りてくる。
  今生きているこれを見る人たちが2300年には、星の世界の人と成っている。
  2300年に紀元前の人が昔のまま、現実に落ちてくる時、
見ている人も星の世界から一緒に落ちてくる・・・

強く残された無念の想いだけが、星の世界でもまだ生き残っている・・・

・・・そのつもりで演じて欲しい。 」


いいかな?と確認させられて・・・そうかと思った。
映画のコンセプトは、映画を見ている人がこの世界の中に入って目の前に起きる様で、
映画は現実にクレオパトラが空から落ちてくる所から始まっている。


( う~ん・・・無念ね・・・ )



______ お疲れ様です。敦賀さん・・・


無念の想いとやらを演技の中に考えていて声を掛けられた方に視線を向けると、監督にセットの準備OKです。と伝えたスタッフだった。


「 じゃぁ、敦賀君。エジプト上陸の所をやりましょう。 」


宜しくお願いします。と言いながらセットの方に向った。
途中、京子と琴南さんの方に手を手を挙げると、京子はメイクを直されながら琴南さんと飛凰くんの帰り間際の・・・

なんだか、永遠の別れの様に・・・別れを惜しんでいる・・・。


( 永遠の別れを惜しむのは・・か、・・・・そうだな。 )

その光景に今日の撮影予定最後の方の、クレオパトラの永遠の別れのシーンの彼女が・・・

( あんな風に・・・ )

涙をボロボロ落としながら、メイクさんに泣いちゃだめ。と怒られている姿を目に焼き付けて、クレオパトラがシーザーの別れをあんな風に本当に泣いてくれるのか、クレオパトラの残した無念の想いを見るのが楽しみになった。


( 京子、できるのかな?・・・)

クレオパトラの無念とプトレマイオス王朝の無念の二つを背負わされている、京子。

殺された最愛の夫の亡骸を見る事をも許されず、王朝の歴史、近親相姦を崩した・・・

本気で心から愛した人への愛する想いを

本気で自分にぶつけてくれるのかと思うと・・・
自分ももちろん本気で愛してあげると、敦賀蓮らしからぬ・・・胸がきゅーんと締め付けられた。


( 俺らしく無い・・・でも、敦賀蓮ではなく、久遠ヒズリのキュンなんだろうな。 )

そう納得できる自分の心の変化もあった。


( 待て待て・・・敦賀蓮。大変じゃないかっ!)

ハッと気が付いたのは、よくよく考えたら自分シーザーには・・・

クレオパトラへの想いの無念と、親友に殺された無念と、ローマ帝国の無念と、プトレマイオス王朝の・・・

( やばい・・・4つも無念がある・・・。 )

指を折って考えていた。そう考えると死んでも死に切れない程だと思う。

なぜに監督が、プトレマイオス王朝を癒す。PTOLEMY CONSOLEと付けたのか
2330年には、紀元前の終わりに残された無念だらけで終わった歴史を、
今現在見る人が癒す想いを携えて、星の世界の人に成って欲しいと云う願いなのだろうかと、考えていた。


プライベートも本気で愛していますけど、久遠心は置いておいて・・・

敦賀蓮に成りきったら、演技の中だけの無念に残るほど本気で愛してる気持ちができそうだと、自分で仕事とプライベートときっちり分ける事にした。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

To be my Grace No.9に続く