To be my Grace No.10 (mimi's world・美海さん)
※文章に以下の描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
・妊娠(カイセツ後)
・流血表現(撮影シーン)
・微桃(撮影シーン)
_____ はいじゃぁ、同じセットで坂をもう少したわむ様に・・・
監督が俺の演技のモニターを立ったまま見ながら、次のシーンの手はずを言った。
じゃ、玉座も~お願い。と美術スタッフが今の3mぐらい高い場所の台の上にセットし始めた。
玉座と言っても、四角いキューブに肘かけと平らの背もたれがついているだけ。
玉座は後でホログラムが重ねられるらしい。
白い大理石のプトレマイオス時代と、エジプトに代々続く硬い石造り花崗岩の玉座をホログラムで重ねるらしいので、出来上がりまで全く分からない。
後で合成された映像を見るのが、自分の演技うんぬんよりも楽しみだった。
「 敦賀君、京子さん。 立ち回りいいですか? 」
ちょっとね・・・イメージがこう転がるんですよ。と話しながら緩やかで柔らかくなった坂を指差し、この様にお願い。といいながらグルグルその人差し指を回した。
「 京子さん。転がれます? 」
するよね。と言わんばかりの監督が京子に向けた微笑み付き。
はい、まぁ・・・きょろきょろ辺りを見回して、傍に誰も居ないのを確認するキョーコ。
あの・・・カーペットの中で、お腹を押さえていてもいいですか?それだと安心して出来そうです。と小声で監督に言った、両手でいつもの様に仲居立ちをして、実はお腹を押さえているキョーコの背中をそっと撫でた。
「 じゃぁ、リハの前に試そうか。 」
監督も気にしてくれているけれど、撮りたいシーンはやはり撮りたいもの。
クレオパトラがシーザーと出逢うシーンは、やはり歴史の伝えた通りにしたいのだろうと思う。
クレオパトラとシーザーの・・・
お互いの一目惚れのシーン
普通とは、ちょっと違う・・・近衛監督だから・・・ねぇ・・・
「 キョーコ。できそう? だって、登りだよ。 」
二人並んでセットに向いながら、小声で聞いた。
この撮影________
クレオパトラがポンペイウスの侵略から逃れる為に、クレオパトラ専属の占い師メリエトとテーベの南ケナの町に非難して、アレキサンドリアに帰って来たところ。
メリエトはケナにある、ハトホル神殿神官の娘。
クレオパトラにポンペイウス軍撤退の知らせがあり、アレキサンドリアに戻ってきてからローマ軍の力によるものであったと、王宮はローマ軍に乗っ取られていて知ることとなる。
そこにローマとの和合を求めたいクレオパトラは、シーザーに直接会って離す事を企んだ。
自分の王宮にすら入る事を許されない程、ローマ軍の兵士が周りを固めていた。
なのでクレオパトラはその身を巻いた絨毯の中に隠し、シーザーへの届け物と称してシーザーの前に姿を現す有名なシーン。
でも、近衛監督。SF&CG大好きっ子。
重力のない空間を見せたいが為・・・坂が登り坂。
というよりも、きっと宙に浮いてシーザーの前に登場させたいのだと思った。
京子が巻かれる絨毯の準備も傍にスタンバイしている。
「 あっ。京子さん、ちょっと待ってて・・・」
監督は急に何かを思い出したらしく、さっと戻りタブレットを取り上げ画面をスライドしながら戻ってきた。
「 これ。見てください。 」
そう言って京子に見せたのは・・・
( どうなんだろ・・・?ソレ? )
妊婦に見せてもいいのかどうか・・・お腹の赤ちゃんに良くないんじゃない?ってまだ大きくもなっていない自分の子供の事を心配してしまう俺。
俺も、パパになる準備ができているらしい。と、そんな事で自分の気持ちに気が付いたけど、
・・・そんなことより監督が見せたのは、ミイラの写真。
「 これはね、ハトシェプスト王女のミイラなんだけど。 」
スーパーにっこりして画面一杯の写真を見せている。
「 あ~、知ってます。クレオパトラが子供の頃から、エジプト唯一の女王のハトシェプスト王の頃の話が好きで、自分が女王に成る時そうなりたいと思い描いていた人物ですよね。 」
( Good Job キョーコ。 )
ミイラの写真に気分が悪くなるわけでもなく、じーっと見ながら自分が本で読み、自分の役のバックグラウンドを考えた事を監督に言っていた。
「 そうそう、だからこんな風なの、どう? 」
メリエトの実家、ハトホル神殿 帰りだし?と、名前が似ているプトレマイオス王朝に建てられたハトホル神を思い出して付け足されて、この女王がミイラにされる時、唯一、片手の左手だけを胸に当てて右手がお腹の上にあるギッスギスのミイラのポーズで出て来てみたらどうだろう?との提案だった。
「 あっ、この方がいいです。 」
そんな風にキョーコが賛成した。
胸が張って痛いんだろうな。なんて・・・触ったら痛いと言われた事を思い出していた。
それからは自分も全くの・・・ご無沙汰だった。
「 じゃぁ、準備。まず、ゴロゴロってだけ・・・」
は~い。とスタッフがバサッと広げたカーペット。
京子さん、寝っ転がって~。と言われるままグルグル巻きにされていく。
クレオパトラの家臣役の俳優さんたちに、よっこらしょ。と言われながら担がれて、
中から、重くてすみませ~ん。と声がした。
「 そっとね・・・下ろしたら、カーペットの端を持って・・・」
監督が指図するのも、キョーコのお腹を心配してくれているのだろうと、でも・・・
「 女王が入っているのだから壊れ物を扱う様に、それとシーザーに敬愛を込めて。 」
その言葉に、俳優もスタッフにも何も気付かれない様にしてくれている心遣いに感謝した。
試しに、そっと下ろされてカーペットの端を引っ張る事無く持っただけで、京子さん自分で転がって~。っと監督に言われて転がろうとしているけれど、ナニセ緩いと言っても上り坂。
ちょっとやそっとでは、なかなか動けないらしく、モゾモゾ中でがんばっているのが分ってしまう。
_____ 監督?京子さんにワイヤー着けて、浮かせますか?
とのスタッフの言葉に・・・
自分も監督も、ビクッとした。それは・・・まだ・・・お腹の赤ちゃんが不安定なので・・・
なんて言えずに監督の顔を見たら監督と目が合ってしまった。
目を瞑って首を横に少し振りながら、監督?と声を掛けたら、監督もそこまで出来ないと思ったらしく、もう一度やってみましょう。とスタッフに言い残しながら京子の傍に寄って行った。
「 京子さん。自分の力でお願いしますね。 」
それから、もう少し板をたわむ様にして、放物線みたく少し下がってから上がる様に勢いをつけましょう。と大道具スタッフに伝え、カーペットの端を少しだけ引っ張って下さい。と演者にも注文を出した。
なんとなく出来そうと何度かの練習で判断されて、じゃぁカメラ回すよ。と・・・
京子が入ったカーペットは、上からグルグル巻きに荒縄が締められる。
大丈夫?キョーコ?と小声で聞いたら・・・
「 は~・・・ぁ。 」
と返してきて、苦しいの?気持ち悪いの?とオロオロしている自分をよそに
「 温かくて気持ちよくて、眠くなる~・・・」
は~ぁ・・・は、アクビか~い。と突っ込みを入れたくなるのは、キョーコが自宅でブリッジロックのお笑い番組を点ける様になってから、俺も変わったもんだと思う。
「 縄もさ・・・中から巻いてあるから、転がる助けに成るといいけど・・・」
監督がポンと俺の肩を叩き、じゃ、敦賀君もスタンバイ。と言われて撮影が始まった。
________ シーン、入りまーす。よーい・・・
カチッ。
王宮の、白い花崗岩にロータスと蛇の精巧な彫刻が彫られた迎賓館の裏口。
その門に見張りのローマ兵が居る事から、シーザーの居る場所を確定して歩を進めてゆく。
_____ 何用だ。
_____ シーザー閣下が直々にご注文された物を届けに参った。
クレオパトラの家臣がそう伝えると、3人がかりで肩に担いだ敷物を見ている。
時は夕暮れ。黄昏に染まるアレキサンドリアの海の光景を背に、夕焼けに紛れ しかと見えないこの巻物。
ローマ兵も此処で引きかえらせて後でシーザーのお叱りを受けるのであれば、通した方が無難と自分の身の危険も感じあっさりと、行け。と顎で奥を指した。
場所は自分たちの王宮の中。勝手は良く分っている。
シーザーが居るであろう、廊下を行き曲がりもして見覚えのあるオベリスクがある小広間に向うと、そこにもローマ兵が居る事からこの中にいると判断した。
_____ シーザー閣下から直々にご用命された品物を届けに参りました。
先に自分から名乗る方が、自分の身柄を聞かれなくて済むと、頭の切れるクレオパトラの家臣の思いつきどおり、何、敷物か?と聞かれただけで、中に取り次ぎに入っていった。
開けられた石造りのドアの向こうに、優しい笑みを携えたシーザーが指揮官と話し合っている場面が見える。ローマ兵が伝えに近づくと・・・
シーザーはドアの外にいる敷物を担いだ男3人にゆっくりと振り返るように視線を向け、
無言で手を出し手招きした。
じっと見詰めて先頭の男の目を離さずにしていると、傍にいた指揮官が剣を抜こうと腰に手を掛けたのを、顔を寄り添わせて、よい。と小声で遮った。
「 私が注文した物とは? 」
腕を組んで男を見詰めたままではあるが、片手は腰にある短剣にいつでも手が届く様にしていた。
覚えの無い届け物に、不審者をここまで入れても、顔を見ただけで敵意が無い事は直ぐに判っていた。
「 広げて見せてくれまいか 」
腕を組んだままそう言うと、敷物をそっと下ろし荒縄を解きながら跪いた男たち。
跪いたまま紐と敷物の端を引くと、絨毯は勝手に回りだした。
________ シャラ・・ッ・・・
小さな音が中から聞こえ、巻かれたカーペットの中から出てきたのは、埃まみれのベールを頭から掛けた女性。
起き上がって跪き、頭を下げると髪がその度に揺れていた。
シャラ、シャラッ・・と聞こえる小さな音は、ベールの下で揺れる黒髪に編みこまれた金。
その髪を見ると立ち上がって近づいた。
_____ 「 カット。 」
はい、一度カットで~す。モニターチェック。
「 ちょっとね・・・もう一度かな? 」
監督がモニターを見てそう言ったので、俺もキョーコも顔を見合わせ、何が悪かった?とお互いの演技を言い合った。
「 いや、演技じゃないんです。コレ・・・」
そう言って指差した監督が気に入らなかった箇所は、カーペットから出て来たクレオパトラの顔が見えない。ベールが顔に掛かってしまったから、取り直し。って事。
でも、俺はもうキョーコをグルグルさせたくなかったので、ふと思いつき監督に言った。
「 ベールが掛かっている方が、いいと思いますよ。 」
にっこり、ただ今たわむ床をこの後のブルーの階段にセット変更するかしまいかの瀬戸際だったので、こうです。とキョーコのベールが掛かった状態から自分がしたらどうか?と、はっきり言ってめちゃめちゃアリキタリ・・・
花嫁さんのベールを取る様にしてみた。
監督は、う~~ん。と唸ってしまったけれど、じゃぁ・・・一つ追加してみましょう。
と、なにやら思いついた様子。
じゃ、セットして~。と直ぐに手配がされて、階段のセットもね~。の言葉に、ほっとした。
入ってください。との言葉を受けてセットの中に歩き出すと、シャラ、シャラッとクレオパトラの髪が音を立ててキラキラ輝きながら、照明の中に入る。
黒髪に金が入って、さっきメリエトとのシーンで見た、金髪の長いストレートの髪に蒼碧の瞳を見ると、自分の娘が生まれたらこんな感じになるのかとの想いに胸がときめいたら・・・
急にキョーコが愛しくなってきて、埃まみれのメイクをされたキョーコの頬をそっと撫でたら見詰めてくれる。その蒼碧の瞳が・・・
ぼやっとしていて・・・
ツンツンと腰を突付かれたら・・・
「 眠い・・・」
・・・その言葉に石橋さんたちの真似でもして、ズッコケた方がいいのか目が覚めるような事をした方がいいのか・・・。
眠いのは自分の子供を宿している証拠。とキョーコの身体を自分の遺伝子が占領して行って、すみません・・・と申し訳なく思ったら、協力しざるを得なくなった。なので・・・
ベールが掛けられる前に、顔を覗き込んで囁いた。
「 予は女王との和平の元に、心からなる敬愛を捧げ・・・
いかなる努力をも惜しまない事を、一身を賭けて誓いたいと思います。 」
・・・ん?違うよ、蓮。と言われた通り台詞が少し違う風に変えてみたけど・・・
「 予はエジプトとの和平の為に、心から成る敬愛を女王の英知に捧げ、
一身を賭けていかなる努力をも惜しまない事を、女王に誓い申し上げよう。
・・・でしょ? 」
( はい、そんなのもちろん覚えてますよ。 )
俺を誰だと思ってる、セ・ン・パ・イ 先輩だよ。と、京子に台詞を言われたけれど、キョーコには、なんだかの遠回しでは通じないらしいので、もう一度同じ意味の言葉を誰にも聞かれない様に耳元で言ってみた。
「 二人の愛がここに一つに成って・・・だから、これからもっと・・・
君の全てを支えて、また恋をして、もっと好きになる自信があると・・・誓うよ。 」
お家だったらそのまま ちゅってするけど、この後の撮影まで取っておきたいキス。
目をぱちくりさせたまま、はぁ、どうも・・・。と言っているキョーコは、さすがのラブミー部なんだなとは、本日の自分が着させたドピンクつなぎの色が頭の中を占領していった。
_____ 入りま~す。スタンバイ。
は~い。と言いながら、それぞれのメイクさんと衣装さんに直されて、京子はベールをかけられて跪いた。
「 京子さん。さっき出てくる前、左手を胸に当てていたでしょう。
出て来て新たに跪く所から撮りましょう。
跪きながら、左手を同じ様に胸に当てて俯いて・・・
ベールは、掴まないでそっと胸に手を当てて、俯いててみて下さい。 」
_____ いいですか?それじゃ、リハいきま~す。よーい・・・
カチッ。
________ シーザーの目の前に現われたのは、お世辞にも良いとは言えない身なりの女性。
薄汚く埃まみれのベールが頭から掛かっていて、その下に光る金を編み込んだ長い髪に気付かなければ追い返すところであった。
指揮官を手で制したまま立ち上がり、一歩一歩ゆっくりと近づいた。
その瞬間・・・
ふわっとベールが浮かび、黄金に輝く黒髪がシャラ、シャラッと小さく奏でる様に音を立てて、左手で胸を押さえていた場所のベールが最後にふわっと浮き上がった時、俯いていた顔を上げた。
驚いてずっと凝視したままのシーザーと目の合ったクレオパトラも、驚きの表情を隠せなかった。
_____ 「 カット。 」
どうです監督?と大道具のスタッフが横で見ていて、うん。風量はバッチリ。これでいいよ。
じゃぁ、CGの方は・・・
カメラを真後ろからシーザーを引きで入れて、空から降りて来るように・・・そうそう、それでカメラを回して47、50、63・・・って上がると・・・だめだね。浮いてる感がでない。
じゃぁ、下がって・・・47、30、で、横31・・・20・・・あぁそうだ、今の床がたわんで出て来た、放物線と同じにしよう。で、クレオパトラの顔が出たらアップね。
シーザー目線のやつ。84の上からのか、74・・・
ごにょごにょ言っているけれど、驚いたまま、動けなかった。
本当に驚いたのは、風が吹いて綺麗にベールが魔法の様に飛んだのと、クレオパトラの髪が一緒に少しだけ舞いあがって、綺麗な音を立てて光っていた事。
お~!っと思わず声を出しそうに成ったけれど、それには監督が・・・
「 今ので本番行きますが、京子さん。驚かないで下さ~い。
俯いている時 目を瞑って、顔を起こしたら目を開けて、敦賀君を見詰めてね。 」
ハイ。すみません。と京子が言うも・・・
「 敦賀君、今の様にもう一度、本気で驚いて下さいね。 」
_____ OK じゃ、本番いきま~す。よーい・・・
カチッ。
_________ シーザーがゆっくりと跪いている女性を見ながら一歩一歩近づくと、
ふわっとベールが浮かび上がり、黄金の黒髪がシャラシャラと音を奏で始めた。
敬愛と従事を表す胸に置かれた左手から、ベールがふわっと最後に浮き上がり抜け切っても、頭を下げているその女性から目を離す事は出来なかった。
ゆっくりと俯いた顔を上げた彼女は、埃まみれの頬から神が起こした風とでも云うのか・・・
その頬からは、砂も埃も飛び散っていた。
クレオパトラは目を開けてシーザーを見詰めると、見詰め続けられているシーザーの勇ましい姿と優しそうな端正な顔立ちに一瞬で心を捕らえられてしまった。
胸に当てていた左手に右手を重ね・・・
エジプトの王の象徴、ファラオであると両手を胸の前で組み合わせた。
そこに居たローマ軍兵士は、ただどこかの農婦が紛れ込んだとしか思えない様な成り、一瞥しただけではこの女がエジプト女王、政治にも大きな権限を持つ者だとは思っていなかった。
「 ジュリアス・シーザー・インペラトール・・・」
インペラトール、最高司令官であると同時に皇帝である彼の事を最高の敬称で呼んだ。
「 貴方様の率いる、ローマ軍により敵国からの侵略を避けられた事を聞き、
私は私の王宮に戻ってまいりました・・・
プトレマイオス13世王共同統治者、クレオパトラ7世です。 」
シーザーは良く通る気品溢れるその声と、堂々と躊躇いの無い言葉遣い。それに、黄金を編みこまれた艶やかな髪が、彼女が嘘をついているとは今までの最高指揮官としての経験上、思わなかった。
クレオパトラは胸に重ねていた手で、忍ばせて肌身離さず持っていた王の標章であるアスプを服の中から取り出して、その両手に乗せてシーザーに見せようとしたが、シーザーはその手が開かれる前に傍に寄り・・・
その両手を両手で包み込むと、クレオパトラをそっと立たせ、その瞳を見詰め続けたまま
シーザーがゆっくりとクレオパトラの前に跪き、その包み込んでいる両手に口付けを落とした。
クレオパトラが手に持っているアスプを見る事無く、彼女の両手を自分の胸に引き寄せて
「 エジプト・プトレマイオス王朝・クレオパトラ皇王妃。
そなたに出逢えて・・・予は・・・ 」
シーザーはこの美しい女性がエジプトの統治者である事とは関係なく・・・
魔法の様にベールと共に飛んで消えた砂の中から現れた女性に、エジプトの砂漠に眠る
溢れ程の宝石の原石が目の前に現われた様で、一瞬にして心と眼を奪われていた。
威厳を持ち冷静沈着に言葉を耽々と感情無く述べられるシーザーが、声が震え始め言葉に詰まった事は今までに一度も無く、その光景にシーザーに仕えるその場に居たローマ兵士達は全員跪き頭を下げて、このみすぼらしい成りの農婦がクレオパトラ7世である事への敬意を払った。
それと、言葉に詰まらせたシーザーが向ける微笑みは今までに見た事の無い、慈愛に満ちた表情だった事にも、彼女がこれから齎してくれるであろうエジプトの富の提供に・・・
それぞれの国の最高統治者同士である二人の感情までもが、惹きあっていると・・・
崩れる事の無い永遠の和合を、二人から、そして国同士までを感じ取った。
_____ 「 カット 。 」
「 いいよ、驚かなかったクレオパトラも撮れたし・・・
シーザーのキスもアドリブで、こっちが驚いたけど敦賀君のシーザーっぽくていいよ~!
じゃぁ、さっさと・・・
二人の感情が一致しているうちにベッドシーンと、結いの儀。撮っておこうか。
じゃぁ、京子さん。今度は綺麗な王妃に成ってきてね~。 」
はい。と言って京子がメイクさん達と楽屋に連れて行かれると、監督は俺だけのシーンの説明に入っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
To be my Grace No.11に続く