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To be my Grace No. 11 (mimi's world・美海さん)


※文章に以下の描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 ・妊娠(カイセツ後)
 ・流血表現(撮影シーン)
 ・微桃(撮影シーン)







ベッドシーンの後のシーン。

クレオパトラがシーザーを王宮の窓から見送るシーンの撮影に入った。



何も無いブルーバックの平たいセットに戻されて、セットというセットが無いので場面転換の早い撮影。

この後、貴島も来る予定もあり、その他の演者さん達の演技ももちろん監督が選りすぐった俳優さんだったので、時間は押す事無くサクサク進んで気持ちのいい撮影だった。



夜中に突然のペルシオン軍からの攻撃を受けて、ファロス島という無数に浮かぶ小島の一つに何艘もの船が舫っていると、王宮の展望台から地中海を警護監視していた兵士が伝えにやってくるという場面。急いでその指揮に向う姿を、クレオパトラが窓から見届けるシーンの為、
たいして長くも無く台詞も無いシーン。

立ち回りは真っ直ぐ歩き、幾人かの兵士に装備を立ち止まって付けながら、最後に荒々しく王宮から王の港に向うというもの。


「 直ぐ行けます。 」


そう言いながら、衣装さんに始めに着けて現れるという鎧だけ着させられていた。

その兵士の演者さん達も、衣装さんがこうやって金具をパチッとしますよ。ぐらいにしか説明を受けなくても皆OKです。と言ったので、じゃあ、本番兼ねてのリハ兼ねて。カメラ回したまま撮ってみようか。と監督が席に付いたので、スタンバイした。



______ よーい・・・


カチッ。




________ 寝室から飛び出して王宮の下に急いで降りてゆくシーザー。


戦闘の状況は?と腹心の将校に聞きながらも、早足で歩いてゆくシーザーはロリカ・ハマタ鎖帷子の上に、ロリカ・セグメンタタ甲冑を既に着けていた。


王宮の庭に出てシーザーの行く手は港。
その港までの道のりに、幾人かの腹心に兵士が跪いたままシーザーの装備を一つ一つ差し出している。

早足で歩きながら装備を付けてゆくのは、一瞬でも間違えれば命の危機との背中合わせの戦いに、自分の兵士達に無駄死にさせたく無い故、直ぐに指揮を取りに行きたいと彼を急き立てる想いが湧いてくる。
シーザーの最高指揮官としての責任からなのか、それとも彼自身の血がそうさせるのか自分でも分らない。けれど彼の中で湧き上がる何かは、いつも彼を動かしていた。


両端に順に間隔を開けて跪き並ぶ兵士。

シーザーが長い足でコツコツと音を立てながら歩いてゆく。

シーザーが一瞬だけ立ち止まると、両脇から二人の兵士が右足と左足にグレアウェ脚甲を付け、金具を留めるよりも早くシーザーは前を向いたまま歩き始める。

 「 フーー・・・」

シーザーが短い溜息を口を開けずに鼻ですると、両手で髪の毛をガシガシと乱した。
その間に足早だったシーザーのグレアウェを付け終えると、その兵はシーザーの後を付いて行く。

次の兵士はマニカと呼ばれる手甲を差し出された両腕に歩きながら通し、その後ろに付いて行く。

シーザーは歩きながら自分の腕を回してその腕部防具の付け心地を試した。

一人の兵が、カッシウス兜を手渡し、シーザーは自分でボサボサにした髪を後ろに撫でた。

兜を被らずに腕に抱え、反対の兵が跪いたまま、シーザーの剣を手渡した。

両手に兵が剣を持っていると、シーザーは剣だけ抜いた。



_________ シャリン


金属の鞘に当たった音が響いて、シーザーは剣を頭の上に上げそこから一気に跪いて鞘だけを持っている兵に刃を振り翳した。

その剣の刃は、跪いたままの兵の頬を掠りそうであったが、振り下ろした速さが早かった為、刃先からの微々たる風がその場の空気を切り抜き、ヒュッという風音と共に、跪いていた兵の兜の中でキーンと金属が共鳴しその音は兵の兜中に響き渡っていた。

顔をしかめたその兵に、シーザーは冷たい無表情のまま


「 何の為の装備なんだ?
その様に、死ぬのが怖いのであれば・・・

此処に残れ。邪魔だっ! 」


怒鳴ったシーザーの前を歩く物はもちろん居らず、振り下ろした剣を下向きで持ち歩いて、
ヒュッと音がしたと思い兵がそちらを ちらと見れば、シーザーの刃先はそこに咲くクレオパトラが大好きな花、大輪の美しい夜露に濡れる紅薔薇の寸是で止まっていた。

愛するクレオパトラと床を共にしていた所を邪魔されて、イライラしていた。
剣を渡された時に、何かを切りたい衝動に無償に駆られていたシーザー。

自分の兵士を斬るなどと云う身勝手な行為は、最高司令官としての自分が抑えていた。

ならば・・・そう思うも、敵の命を奪う事など何とも思わない自分でも、自然に自力で生きる植物や生物には、蟻も蚊も殺した事は無く・・・
花にいたっては部屋に自分の為に飾るのであれば、切る事すら躊躇う心の持ち主。

後ろから追いかけてきた兵に鞘を腰のベルトに付けられると、紅薔薇の花を見詰めたまま刃先を花に振り下ろした。
薔薇は揺れる事も無く・・・夜露の一玉だけをその刃先で見事に半分に切り、水滴が光の中に舞い散った。


紅薔薇の夜露の一滴をそのまま刃先に残して、剣を鞘に収め入れると・・・

真っ直ぐに前を向いて足早に歩き出し、途中一度横を向いた。


________ コン、コン


シーザーの甲冑の音が響いたのは、シーザーが横を向いて拳で自分の胸を叩いたからだった。

心の中の存在であるクレオパトラを胸の中に、女神である彼女に護って欲しいとの祈りではなく、皇帝として王女に勝利を約束したいが為だった。

この人を斬りたい衝動を敵に向けるため・・・

足早に歩くシーザーはそのまま船の舫やる港の小さな明かりを目指し、闇夜の中にその姿を消して行った。 _____________





_____「 カット。 」


「 敦賀君。いいんじゃない?そのアドリブ。
とてもいいと思いながら回し続けましたよ。 」



ありがとうございます。と言いながら、兜を小道具さんに手渡していた。


モニターチェックで、台詞は・・・入ってますよね。

ん~・・・・

じゃぁぁ・・・



考え出してしまった監督は、本来台詞のないシーン。
シーザーの戦いに行く前の後姿を、クレオパトラが窓から見詰めているだけのクレオパトラのシーンに使うものだったから。


どうしようかな・・・
紅薔薇を切らないでの雫も、器用な敦賀君が実際 綺麗にできてたし・・・
横を向いたとこを・・・神殿なんだよな・・・きっと・・・

ブツブツモニターを見ながら、腕を組んで考え出してしまった監督。


「 すみません。余計な事をしました。 」


申しわけなく思い監督に、もう一度取り直しさせて下さいと、他の俳優さん達にも・・・
すみません。もう一度お願いします。と謝っていた。


「 いや・・・敦賀君。このままCG足します。 
だから、いいです。いや、このままがいいです。 」


_____ はい、OKで~す。

じゃ、次の・・・
クレオパトラが出来ていたらイシス神殿の場面、このセットのまま行きましょう。


は~い。と聞こえても、肝心のクレオパトラはお色直し中。
さっきの日焼け風、砂嵐にまみれた風味、農婦の気まぐれ料理。みたいな風貌から女王に変化するのだから時間も掛かるだろうなとは、誰もが思うことだった。


じゃぁ、今のちょっとCG入れてみようか。クレオパトラが見る引きの方だけ。
シーザーの方は、そうだな・・・画像をデザイン画から創らないと・・・


モニターに重ねられて行く、元々用意されていた引きの画面。

思わず、うわーっと声を演者さん達と出してしまった。
しかも全員 男だと云うのに・・・。モニターを見ていた全員の目がキラキラしていた。




________ シーザーが王宮を出る。

それは・・・カメラが3階ぐらいの高さから下を見下ろす感じだった。



輝く満天の星月夜。
無数の星がキラキラ煌き瞬いて、金銀砂子とはよく言ったもんだと思うような、輝く天の上に星でできた砂漠がひらけて居る様で、足元は星の砂漠で埋め尽くされていた。

シーザーが王宮の外に出ると、真っ直ぐ先にとても大きな満月が水平線をイメージして、
3分の2ほど下はスパッと切れて、天の川の様に星が集まり煌いていた。

その星の煌きは、瞬く順に・・・
小さな光が同時に瞬き同時に消えての繰り返しで、光で出来た波の様だった。


シーザーが一歩ずつ足早に歩くその足元と先は、シーザーの視線に合わせて霧の様な雲海がカーペットを転がして敷いて行く様に、広がってゆく。

シーザーが一瞬止まり、溜息を付いたところも、剣を抜いたところも、その度に雲海の霧も、ただ靄り佇む。

今までクレオパトラ目線でカメラが上から固定されていた画面から、宙を飛ぶ様に画面が上から下に降りてゆく。

その画像は、自分がその窓から飛び立って上からシーザーを飛んで追いかける様な影像。
上から望む紅薔薇の飛び散る雫が、照明に当たってキラキラしていたのは、自分も演技の中に見ていた。

映像の中でも同じ様に光っていて・・・



「 ちょっと、止めて。 」


おぉ・ぉ・・と、残念な見ていた演者の俺も含むみんな。
監督が止めたのは、きっとそこに今の俺のアドリブ影像をそのまま入れたいと思ったのか。

ここで、敦賀君のアップに切り替えて・・・
カメラは、56かな、いや、46下・・・ん~~~・・・

「 その後ろ、背景創って無いから、ブルーバックのままちょっと足してみてくれる? 」


_____ 何の為の装備・・。・・・・此処に残れ。邪魔だっ!


「 その横の薔薇の雫を此処にアップで足してみて。 」


巻き戻して、足しているけれど・・・

ん~~~・・・なんか、違うな・・・。イメージ。
監督が両手を握って自分の顎をコツコツ叩きながら、目を瞑って、う~ん。と唸り出した。

しからば続きは見れないのか?と、俳優さん達は顔を見合わせて口には出さねど、皆思っているのだろう。


「 監督。後にしましょう。先に・・・」

そう言い出してくれた合成責任者。クリックしてクレオパトラ目線のままの画像を予定通り入れながら、話し出してくれた。


「 シーザーの場面も創ったらいいじゃないですか。 」

地面からこう、上を逆に見上げる感じで・・・とは、半分より下の寄りのカメラばかりをシーザー側にして、半分より上の引きのカメラをクレオパトラ側にすれば・・・と、提案されて、

「 ん~・・・そうだね・・・
クレオパトラ目線の方に、シーザーの厳しく強い言葉は入れたくないし・・・
そうだな、そうしよう。やっぱり。 」


急に振り返った監督に驚いたら、ね、敦賀君?とかわいらしく首を傾げて聞かれてしまった。


「 ねっ、そうだよね。奥さんには男の現場は見せたくないよね。 」


と、言われ・・・はぁ、まぁ・・・と、同じ職業で同じ現場の同じ作品に出ている俳優に向って言っても、貴方が現場を同じにしたんですよ。とは言えず・・・言葉を濁しておいた。

よしそうしよう。音響も変えてクレオパトラの愛しい感じの曲と、シーザーの荒っぽい感じのなんかと同じ曲でシーンを変えて・・・

・・・と監督は、また空中、な~んにも無い左斜め上を向いて腕を組んで考えて止まったので、CG責任者は、先に進んでますよ。いいですね。と半ば強引に早く自分の仕事をチェックしたいらしかった。


________ アレキサンドリアの美しい海に向かい続く、王宮からの道には・・・

クレオパトラの神官として勤めるイシス神殿の横を通る。
イシス神殿は海に向って建てられていて、港はそのすぐ先にあった。


自分がイメージしたとおり、その場所真横にぼやっと靄の中から魔法の様に神殿が
円柱と数段の階段と屋根が、抽象的な四角と円柱の容のものに、ホログラムで昔の花崗岩のままで雨風に曝されて落ちた角なんかも精巧に成っているイシス神殿が重ねられていた。

現在よりもまたあと300年経ったら、もう少し朽ち果てているのだろうと思わせる、2330年の状態をイメージされたイシス神殿のホログラムは、時々消えて映ってと繰り返す、バンバンと叩いたら直る昔のテレビの砂嵐と映像の繰り返しの様だった。


( ふ~ん。地上の2330年と、天に召された二人の空での永遠の世界の二つなんだ・・・)

なるほど、なるほど。と思いながら見ていて、自分がクレオパトラに・・・
君に勝利を誓う。は、ローマ皇帝として。
どうか守ってくれ。は、単なる夫婦として・・・
それらを、イシスの大祭司女神の彼女を思い描いて祈る様に心の中で言っていた事を思い出す。


( よしよし、雰囲気は出てる。)

自分でそう思いながら見ていると、大きな満月にぶつかるのか吸い込まれるのか、空を飛んだような影像のまま月の灯りに眩しくなった。

最後はその月の反対側なのか・・・

大きな満月の色が、後ろは青白く影の様になった。



「 ハイ、ここに後撮りの・・・
クレオパトラの月の反射で黄金に輝くシャドウだけを入れますよ、監督。 」


それでいいですね。と強引に終わらせたCG責任者だった。
そうこうしているとキョーコが着替え終わって、今の画像をいつの間にか一緒に混じって横で見ていた。




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To be my Grace No.12に続く