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spicy for you 後編 (こぶたのヒトリゴト。・マックちゃんさん / Tempo2.0・sunny)

まるでアロマオイルを炊いたかのように、スタジオ内は香水の臭いが充満していた。
この手の撮影ではよくある事だ。
最近では店舗の中でもこんな風に香水をぶちまけておいて、そいつがどこの店に入ったのか一発でわかるようにしているブランドもあるくらいだからな。

だが、俺はこの手法を好きになれない。
香水は人の体温や体臭と混ざり合って、その人の醸し出す空気と同調して。そこで初めて本領を発揮できると思っている。
こんなルームフレグランスみたいな安っぽい使われ方、人間の為に作られた香水が可哀想だ。
だから撮影を始める前に空気の入れ替えをさせて、俺はパブリックスペースへ逃げていた。

しかし逃げていたお蔭で、撮影前からとても面白いモノを発見できたと思う。


女性誌で「抱かれたい男性」に例年選ばれる人気俳優の、一方通行な初々しい恋心。
その男に想いを寄せられるも恋愛方面の感覚が壊死しているのか、鈍感を通り越した女の見事なフルスイング。
しかし演技に紛れ込ませた男への思慕は、カメラのレンズを通して俺に強く訴えかけてくる。

“叶う事はないけれど、でもそれでもいいの。傍にいられる今が倖せ。”
―――本当に、それでいいのか?

俺はこの娘がどんな風に成長していくのかを、もっともっと見ていきたいんだ。
身体的な成長も、演技力も、恋も。
その総てが女優「京子」を作る糧だ、勝手に天井など決めてかからないで欲しい。

それに、今はバラバラな方向を向いているこの二人の想いが重なる時、そこに一体どんな作品が生まれるのか見てみたい。

二人への野次馬的な好奇心と、クリエイターとしての純粋な欲求。
ふたつの大きな欲がこの胸を予想以上に熱くさせ、拡声器を取る手も震えさせた。


「よし、始めるぞ!!」



『spicy for you』 後編



黒崎のその一言でスタッフ達もまた慌ただしく動き出す。
キョーコの事を考えて最少人数で撮影する為に、大半のスタッフ達はスタジオの外へ出て行った。
蓮と一緒にセットへ上がろうとしたキョーコは黒崎に呼び止められ、スタイリストと共に黒崎の元へといったん戻る。
先にセットへ上がった蓮は黒崎と何かを喋るキョーコの後ろ姿をチラリと盗み見、スタイリストのチェックを受けながら先程の黒崎の言葉を反芻していた。

「次のシーン、君も自分の素直な感情で京子に接しろ。」
「え、しかし・・・」
「敦賀くんがそんなんだから、あの子も素直に「好き」って気持ちを表現できないんだよ。あの子の感情を殺してんのは君だぜ?フラれた時の事とか考えるな、男だろ!」

(フラれ・・・って、別に俺はそんな事を考えて言わないわけじゃ・・・)

今までキョーコに自分の想いを伝えなかったのは、あくまで彼女の気持ちが恋愛方面に向いていないと思っていたからだ。
決して自分可愛さ故に言わないわけではない・・・と、信じている。
だが、黒崎にはそうは映らなかったのだろうか?

考え込む蓮に、数十センチ程低くなったセットの下から社が声を掛ける。

「大丈夫か?蓮・・・監督に何か言われたのか?」
「いえ、俺は大丈夫です。」
「そうか?お前が大丈夫ならいいんだけど・・・監督の言葉のせいでうまく集中出来ないとかだったら、俺抗議しに行ってもいいからな?」
「それは頼もしいですね。でも本当に大丈夫ですよ、ありがとうございます。」

耳打ちされた言葉は社には聞こえていない。自分を心配してくれる兄貴分が頼もしくて、蓮の頬は自然と緩んだ。

「あー・・・後はあれだな、理性飛ばしてキョーコちゃん襲うなよ?」
「・・・演技中ですから、それは大丈夫ですよ。」
「まあ、二人っきりの妖しい兄妹生活でも恋人にならなかったくらいのニブニブカップルだから、俺も大丈夫だとは思ってるけどさ。

「何ですかそれは・・・」
「すみません、お待たせしました。」

そこへ、黒崎との話を終えスタイリストと共に戻ってきた上がったキョーコが、社の隣まで来る。
「キョーコちゃん頑張ってね~」とニコニコ手を振って、社はそそくさとその場を離れた。
二人の事務所関係者である社は監督以外で唯一スタジオ内に残る男性なのだが、キョーコへの配慮の為、いくつも並ぶモニター越しでしか見ない事にしているのだ。

スタイリストに先導されてセット上へ上がったキョーコは、スタンバイの為にバスローブを脱ぎシーツを女性スタッフに掛けてもらう。
が、そのやり取りの隙間から見えたキョーコの肌は照明を浴びて白く透き通っていた。
若々しさを体現するその健康的な白さは蓮には毒そのもので、思わず蓮は目を逸らす。

(これはとんだ羞恥プレイだ・・・)

撮影中はどんなにキョーコの顔だけを見ようとしても、目に入ってしまうであろうキョーコの素肌。
更に愛おしさを込めて抱きしめなどしたら―――蓮の想いなど隠す術もない。
キョーコへの思慕の念も欲望も、総ての想いをレンズは映し出すだろう。

それで本音を彼女に打ち明けるなど、公開処刑もいいところだ。

「じゃあここに横になって」と指示を受けたキョーコは、スタッフに「待ってください」と手を上げて、頭を抱えて悩む蓮の名を呼んだ。

「敦賀さん、よろしくお願いします。」
「うん、よろしくね?最上さん。」
「はい・・・あの・・・」
「?・・・どうかした?」

シーツに包まりながら恥ずかしそうにもごもごと口ごもるその姿は、本当に恋人同士になったような錯覚を蓮に与えて早くも理性を大いにぐらつかせる。
しかし今理性を手放してしまえば、色々と問題が発生して一発本番をぶち壊す事は必至。
なるべく平静を装って、まだ何かを蓮に伝えたがっているキョーコに優しく問いかけた。

「いえ、その・・・今だけ、敦賀さんの恋人になる事を許してください。・・・れん。」

そこで黒崎の「おーい、早く準備してくれー!」という大きな声が拡声器で届けられ、キョーコは女性スタッフ達に急かされてベッドに横になる。
しかし、キョーコの態度と言葉は蓮の心に大きな衝撃を与えた。

まるで一時でも自分の恋人になれる事を喜んでいるかのような表情。
ずっとそう呼んでみたかったかのように、口にした後嬉しそうに上がる口角。
紡がれた言葉は純粋にこの共演を喜び、既に役に入っているようにも聞こえるが―――

(本当に、これは演技・・・?)

キョーコの想い人が本当に自分であるかのような錯覚を覚えて、蓮は驚いた。
演技ではない、素のキョーコの言葉であるのなら嬉しい。むしろ、キョーコの本音であって欲しいと思う。
それを確かめるには・・・黒崎の言葉が頭を過ぎる。

「敦賀くんがそんなんだから―――」
キョーコの素直な「好き」と言う感情は、本当に自分に向いているのか?
彼女は監督から何を言われたのかはわからないが・・・何故か、自分が正直に心の内を吐露すれば、今ならキョーコも話を曲解せずに素直に受け入れてくれる。そんな気がした。

キョーコのスタンバイが終わりスタッフが最後に蓮からバスローブを受け取ると、さっとセットから降り、蓮とキョーコの二人だけが残された。

「よし!じゃぁみんな気合い入れて行けよ!!」
「「はいっ!!」」

黒崎の言葉でスタジオ内の空気が一気にピリリと張りつめる。
気合いの入った返事の後しんと静まり返り、しばらく経ってもアクションの掛け声はないがそれは先に説明が合った通り。自然体な「恋人」を「敦賀蓮」のまま演じていればいい。
既にカメラが回り始めているのを感じ取った蓮は、その場に立ったまま手に持っていた透明で細身な瓶を持ち上げた。

今先程起きたばかりという緩慢な動きで、ワンプッシュだけ自分に吹きかける。
優しいウッディの香りがトップで強く香ると同時に、爽やかなグリーンのミドルが徐々に主張してくる。

「・・・蓮?」

すう、と一呼吸深く吸い込むと、下から甘い声が自分の名を呼ぶ。
視線を落とすとシーツの海の中からキョーコが顔を出し、柔らかく微笑んでいた。

「身体は大丈夫?」
「そ、それは破廉恥な質問です・・・」
「そう?恋人同士なら相手の身体を労わるのは普通でしょ?」

恥ずかしがるキョーコに、蓮は笑いながらひと吹き香水を振りまく。
ゆっくりとした動きで上体を起こすキョーコの栗色の髪に、霧状にまで細かくなった香りの粒が降り注いだ。

「それなら、蓮・・は、大丈夫なの?」
「男は大丈夫なモノですよ。」
「・・・やっぱりはれんち・・・」

恥ずかしがりながらもキョーコは絵コンテの通りに立ち上がり、シーツを肩から落とす。
すると、近くなった彼女の髪と身体から立ち上がるのは、同じウッディでも果実の柔らかい甘さを含んだトップノート。
瑞々しい肌は光を浴びて「少女」が「女性」へと成長した事を告げ、それが蓮の手腕によるもののようにカメラに語りかける。

「俺の恋人になってくれてありがとう。」
「・・・私の方こそ。貴方の恋人になれて幸せです。」

束の間の夢でも―――
そうキョーコの唇が小さく動いたのを、蓮は見逃さなかった。

夢?この時間を夢のようだと思ってくれる?
という事は、本当に自分の恋人になりたいと彼女は願っているのだろうか?
願ってくれるのなら・・・その願いは、自分の想いとぴたりと重なる。

蓮は香水の瓶を持たない方の手を差し出した。

「その言葉が本当なら、明日も俺の恋人でいてくれませんか?」
「え・・・?」
「明日だけじゃない、この先ずっと。俺の傍にいて欲しい。」
「それ、は・・・」

自分に向けて差し出された手に、そして言葉に。激しい動揺が見て取れる。
しかし、もう蓮も引き下がれない。引き下がろうとも思わない。
愛しい娘の心がすぐそこにあるのだから。

中途半端な位置で止めてしまったキョーコの手を優しく掴むと、絵コンテの通り抱き締める為にゆっくりと立ち上がらせた。
彼女は背中しか映らないからいいが、あまり口元を動かしてしまうと自分の方は何を言っているのかバレてしまう。
短くとも、キョーコの心に届く言葉を、自分の本気を・・・!と必死で頭を働かせる。

「「また冗談を」って言うかもしれないけど・・・今までだって、ずっと本気だったよ。」
「・・・ほんとに・・・?」
「うん。―――君がずっと、好きだった。」

本当かと問うその瞳にはうっすらと涙の幕が盛り上がって来ていて、蓮の言葉を否定するような色は見られない。
優しく包み込むようにゆっくりと腕を回してそっとその耳元で囁けば、その肩がふるりと震えてほんのりピンクに染まった。

「・・・・・・すき。」

抱き締めた身体から力が抜けて蓮の身体にぴたりと寄り添う瞬間、蓮の耳に届いたキョーコの告白は、とてもとても小さな声だった。
けれど、自分に寄せられた華奢で柔らかな身体から伝わる激しい鼓動と熱い素肌が、その言葉が決して聞き間違いなどではないと伝えてくる。
それだけで、蓮の心は十分だった。

(ああ―――君は本当に、俺の妖精だよ・・・)

嬉しさのあまり、自分にも羽根が生えて飛べるかもしれない。
そんな気までしてくる。
ぎゅうと少し強めに抱き締めて栗色の頭頂部に口付けを落とせば、触れ合うキョーコの肌が更に熱を帯びる。
今触れ合っているのが肌だけではなく、二人の心も裸の状態で寄り添っている。その事が幸せで、自然と蓮の口元は緩む。
そして―――

(やっと、手に入れた。もう離さないから―――)

カメラに向けた視線は、妖しくもどこか嬉しげで、本当に願った女性(ヒト)を手に入れた喜びをそのまま映していた。


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ピアノの穏やかな調べに乗せて、そのCMは始まった。

蓮が自身の身体にシンプルな香水瓶からを掛けると、ベッドに横たわる女性の頭がゆっくりと動く。
起き上がるシーンはスローモーションで、その合間に遠くから彼を見つめる金色の髪の妖精が、その想いを叶える為に自身の羽根を捨て去るまでがフラッシュバックで入る。

虹色に輝き散る羽根。長い髪が金から栗色に変化して消滅していく様。
彼女は間違いなく、今蓮の目の前にいる女性。人間になって恋を叶えたのだ。

今は長めのショートカットの髪に蓮が笑いかけながら同じ香水をかけてやると、肩からするりと落ちたシーツの中から現れたのは、美しく光る肌と、彼女が失くしたはずの虹色に輝く羽根。
蓮が何かを口にすると、その羽根はぽうっとピンク色に染まって震えた。
手を掴まれてゆっくり立ち上がると、その羽根は消えてしまう。
だけど、彼に愛おしそうに大事に包まれた華奢な身体からは、再び虹色に輝く羽根が薄く透け、ひとつふわりと羽ばたかせた。
その美しさに満足した蓮は、ゆっくりと正面へ視線を向け―――

『その香りは 魅了する』

―――アール・マンディ 新作香水発売―――



「きゃ~~っ!!ま、また特集なんてやってるのぉ~~~っ!!」
「?キョーコ、どうしたの?」

ダイニングキッチンから居間へとサラダを運んできたキョーコが突如悲鳴を上げて、続いてトーストを運んできていた蓮が居間へと入ってくる。
今朝は居間でゆっくり食べようとつけっぱなしにしていたテレビのワイドショーでは、自分達が共演したアルマンディのCMが流され、スタジオの女性陣達が黄色い悲鳴を上げていた。

『もうもう!この敦賀さんの色気と言ったら何でしょうね!?』
『私、何度見ても腰が砕けちゃいそう!』
『さすが敦賀さんですよね!本当に相手役が羨ましい!!』

「仕方がないよ、キョーコ。だって今日はプレスの日だよ?これだけ先行フィルムが話題に上ってるんだから、それはワイドショーでも取り上げられるって。」
「うう、そうかもしれませんけど・・・でも、やっぱり何度見ても恥ずかしいものは恥ずかしいですし・・・」
「そう?キョーコが綺麗に映ってて俺は嬉しいけどな?」
「もう・・・またそんな事仰って・・・」

テレビの中の騒ぎなど何のその。恋人同士になったばかりの蓮とキョーコは限られた二人の時間を甘く紡ぎ出す。
流れるテレビの中ではまだ女性陣が騒いでいて、このコーナーの進行役である男性キャスターに制されていた。

『これ、敦賀さんが途中で何か言ってるみたいですけど何でしょうね?』
『女性陣、落ち着いてくださいね。実は本日、敦賀さんがここで何と言っているかを監督から聞いてきたVTRがあります!』
『『きゃーっ!!』』

「「えっ!!??」」

そんな事を今バラすのか!?と思わず固まる蓮とキョーコ。
ひと月程前から流れ始めたCMと店頭のポスターのおかげで、情報番組で色々取り上げられているのは蓮も知っていたが、相手役を務めた人物だけは今日の午後まで秘密になっているはずだった。
勿論、蓮とキョーコもこの朝食を食べた後迎えに来てくれる予定の社を乗せて、一緒に記者発表が行われるホテルへと向かう。
黒崎が事前に取材を受けていたなど、そんな話は聞いていなかった。

このVTR、共演のキョーコの事に限らず何を言われるか解らなさすぎる!と、蓮は慌ててガラスのローテーブルにトーストの皿を置き、真っ青な顔で入り口で止まっているキョーコの手からサラダボウルを奪うとその手を取り、二人でソファーへと移動する。
黒崎は蓮がセット内で発した言葉のほとんどを、相手がキョーコであるという事を伏せて言ってしまった。

『―――という事は、敦賀さんとこのモデルさんはこの現場で恋人になったという事ですか!?』
『そうですね。本当に恋を叶える香水って事で、俺とこの香水がキューピッドなんですよ。』
『何て凄い!黒崎さんも凄いですけど、あの敦賀さんの恋を叶える香水とは!これは世の女性陣が大枚はたいてでも欲しがりますね!?』

(音声は使わないって言ったじゃないか!!!)

例えCMで使われなかったとしても、暴露されては同じ事だ。
TVの中でにやりと笑いながらインタビューに答える黒崎に、若干殺意らしきものまで湧いて来た。

しかし隣で頭を抱えるキョーコの顔はデッドブルーに染まっていて、まずはそれを何とかしなくてはと慌てて背中をさすってやる。

「キョーコ・・・大丈夫?」
「もう、これって・・・今日私の名前が公表されたら、イコール敦賀さんの恋人だって発表されちゃうようなものじゃないですか!?
ああーっ!!どうしよう!私、敦賀さんのファンに殺されちゃう~っ!!」
「まさか・・・そんな事にはならないよ。俺が絶対にキョーコを守るからね。」
「敦賀さんはオンナの怖さをご存じないから!ああもう、どうしよう・・・!」

あわあわと頬を押えてブツブツ呟くキョーコに、蓮ははぁと溜息を一つ吐き、その華奢な身体をひょいと抱き上げて自分の脚の間に座らせた。
後ろから腕を強めに回されれば、蓮との恋人らしい接触にいまだ慣れないキョーコは瞬時にその頬を青から赤に変える。

「俺って、頼りにならない?」
「いっ、いえ!決してそのような事は・・・」
「でも公表は嫌なの?」
「う〝っ、でもそれは別問題で・・・」
「俺は嬉しいけどな?キョーコは俺の恋人って思いっきり自慢出来て。」
「わ、私なんかでは自慢には・・・」
「あ、こら。「私なんか」はダメ。ペナルティだよキョーコ。」
「!!はぅ・・・」

ペナルティの言葉に、一気に体を固くするキョーコ。
卑下の言葉を使う度に、キョーコの方から蓮にキスをする。それが最近出来た二人の約束事とだった。

目を閉じて蓮が待っていると、身体の向きを変えたキョーコが一生懸命伸びをしてちゅ・・・と少しだけリップ音をさせて掠めるキスを贈る。
しかし、掠めたのは唇だけではない。

優しい風を思わせる、激しく主張をしない甘い香り。
自分と同じ香水を使っているはずなのに、甘さが際立つのはどうしてか。
だけど、その甘さがキョーコにぴったりと合っていて癖になる。
ぎゅうっと力いっぱいその身体を抱きしめると、小さな悲鳴が上がった。

「きゃっ・・・敦賀さん、少し痛いです。」
「ん、愛の痛みって事で許してね?・・・そう言えば、キョーコ。あの撮影の時、黒崎監督と何を話してたの?」
「撮影の時?―――あ。」
「何?」
「・・・ふふっ、それは内緒です。」

きっと今のキョーコなら内容を教えてくれると思っていたのだが、緩めてあげた腕の中で微笑む彼女は少しだけ大人の女性の顔をして、背を伸ばして蓮の首筋に軽く触れるだけのキスをする。
思いもしないキョーコの行動に蓮が固まっていると、キョーコは耳まで赤くなりながらソファーから飛び降り「さっ!ご飯早く食べちゃいましょう!」と残りのお皿を取りにキッチンへと駆けこんでいった。


「・・・・・・・それは反則だろう・・・」


逃げていったキョーコの耳も赤かったが、きっと今の自分の顔も負けないくらい赤いはず。
まるで恋を覚えたばかりの少年のように反応する自分が気恥ずかしくて、蓮は膝に肘を付いて顔を隠した。



がやがやと騒がしいTVの音などもう聞こえない。
蓮のもとに届くのは、自分の心臓が激しく刻む鼓動と、キョーコが残していった唇と首筋に残る柔らかな感触と熱。
そして、微かに残る、爽やかで甘いキョーコの香り―――――





*Fin.*




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挿絵は2013年4月にTempo2.0で公開した香水のポスターです。
マックちゃん、素敵な文章にしてくれて本当にありがとうね~! (コメント・sunny)


コメント

こんにちは!
ディスプレイの前で「ひゃああああ!」と叫びながらウゴウゴと身をよじらせております。
洗練された言い回しと情景描写で文章から香りが漂ってきそうです。
そんでもってCM撮影中にカップル成立とは!!ひょわわわーーー!
3回転半体をぐりょんぐりょんさせたいくらいに身もだえます!素敵です!
CMの情景描写もさにさんのイラストの雰囲気そのままです。このCMはどの局で見れますかね?
ラストで黒崎監督が爆弾投下しちゃったくだりで「ぷふー大人は一枚上手ですよ~」とニヤニヤしてしまいました。
前中後編と読みごたえのある作品を堪能させていただきました。個人的にはこのくらいの文章量が好きです。
ご馳走様でした~!!

うおーん!きゅんきゅんしましたーっ!!
マックちゃんとさにさんの素敵コラボ!ばんざーい!ヽ(*´Д`*)ノ

CMの中身と蓮キョの心情jのリンク、素敵です(≧ω≦)
妖精の羽とかキョコさんらしいですよね!
もうもう、敦賀さんの腕の中で色々脱皮ですね(*´Д`)←

出てくる香水の匂い、想像して欲しくなっちゃいました♪

吟千代さん同様、私もがつっと読みごたえあるお話大好きです!
マックちゃんのお話は読みやすいので夢中になって読んでしまいます!

潤いをありがとうございましたー!

きゃ~~
香水と妖精の羽根でsunnyさんのあのイラストを連想して読んでたらホントに出てきたー!!!!

ゴロゴロと身悶えですよ!甘くて可愛くって、妖精なキョコさんに蓮さん同様翻弄されております!

素敵なお話をありがとうございましたー!!!

マックさま、執筆お疲れさまでした!
2人の気持ちが通じ合う瞬間を映像に収めてしまうなんてさすが黒崎監督!
CM撮影中のやりとりとってもドキドキしながら読みました。
sunnyさんの美しいイラストにぴったりでわーん素敵!!
黒崎監督まさかバラしてしまうとは!
2人をくっつけたそれなりの報酬ですね♪
キョコちゃんの小さな声での告白は可愛くて可愛くてもう…!
素直に受け止められて良かったねーー!
最後の大人な女性に成長したキョコちゃんと、対照的な敦賀さんのやりとりにもキュンキュンでした。
素敵なお話ありがとうございましたーー!(≡^∇^≡)

(さに姉様、コメント欄お借りいたします。)

♪ 吟千代さん
こんばんはー!
ひょー!それはひとえにさに姉様の美麗絵マジックと言うやつですよ!
いかにして美麗絵の素敵さを皆様にお伝えしようかと、ない頭を捻りまくって4回転とか飛んじゃったくらいですから!←

うふふ、撮影本番中だったらきっときょこたんも逃げられないよね?と言う、黒崎氏&敦賀氏の計略です( ´艸`)
勿論逃げられないように二人がかりで網を張らないと、ラブミー部ラスボスは攻略が難しいですが…
そして最後はずる賢い大人な黒崎氏が更なる話題作りの為、そして二人の恋路を華々しく応援する為暴露してしまいましたが。
黒崎さん、プレスの後に交際会見開きたい社長とも何か裏取引してそうですw

今回、相当力入れ過ぎてドン引きレベルじゃないかと若干不安だったのですが…←
でも本当に姉様の素敵なイラストの世界観を壊さずに、王道蓮キョにマック味がほんの少しスパイス出来てたら本望です!
コメントありがとうございましたー(‐^▽^‐)


♪ えみりさん

うふふー!素敵な作品に煩悩が大爆発しちゃいまして!!
本当にコラボにさせていただいて感謝感激!バンザイなのです~!!ヽ(゚▽゚*)乂(*゚▽゚)ノ

妖精・羽根・恋を叶える為に人間に…と、ちょっと童話にありそうな展開、どれもきょこたんは好きそうですよね♪
(恋愛絡みは難しいラインかもですが、きっと人魚姫とかの叶わない話は泣きながら読んでそう^^;)
そして、自分が恋を成就させて敦賀さんの妖精になるとか!
コーンを妖精さんと思ってるきょこたんですが、実は君が敦賀さんにとっては妖精であって、天使であって、光りなんだよ~!←どれや
敦賀さんの腕の中で安心して脱皮しておしまいなさい、彼は全部受け止めてくれるから!

香水のイメージは、学生時代に出会った男の子がしていた香水を拝借しました。
水をイメージしたそれはとても爽やかだったのですが、同じものつけてるはずの彼女さんからは甘い香りを強く感じたんです。
これが蓮キョがお揃いでつけてる香水と言うのなら、間違いなく大枚はたいてでも即入手ですw

ほわわーん!読みやすいと仰っていただけて嬉しいですー!
ご覧いただきありがとうございます~!


♪ さうらさん

おおー!姉様の素敵イラストの世界を壊さずに済んでホッとしておりますー!!
きょこたんとしては、敦賀氏と恋人設定が控えてるって事を除けば結構ノリノリな撮影だったんじゃないかと思うのですよ。
だって、童話とかメルヘン大好きな子だし、妖精だし…
可愛い妖精を見事捕まえた蓮さん、バンザイです♪
コメントありがとうございましたー!


(さに姉様、再びコメント欄お借りいたします)

♪ ゆりぽぽさん

こんにちはー!
ご覧いただきありがとうございますー!
蓮キョ成立の瞬間をカメラに収める事すら、黒崎監督の計略だったのかもしれません。
キレ者な彼ならありえなくもない…バラして大人な社会のやり取りもこなしてしまう、蓮さんよりも上手な男の力ですね!
素直な気持ちをぶつけ合えば、即座にラブラブカップルの誕生です!
姉様の美麗絵は何度見ても素敵でキュンキュンしますよね~!
美麗絵の世界を壊す事なく、蓮キョの世界を広げる事が出来てホッとしています。
コメントどうもありがとうございました!^^