Top  Information   Gallery   Blog   Link

森シリーズ第三弾、映画 『深遠の森』 只今撮影中  (Tempo2.0・sunny)

男の指は小さな星型にも似た粒を摘むと、少女の口元に静かに近づけた。
少女がそっと開きそれを受け入れると、指先に感じていた固い感触は消え、変わりに唇の柔らかさを得る。

――カリッ

小さな噛み砕く音。

「甘い……」

零れ落ちた言葉。
しかし、その唇の方がもっと……





「くっそ甘いなあ……」

撮影したものをモニターでチェックしていると、横からウンザリした様子の投げやりな声が聞こえる。

「世の中は健康志向、甘さ控えめな方が受けがいいのにね」
「監督、それは食べ物の話でしょ?」
「食べ物の話だね」

会話をするのは二人の男。一人は監督、一人は俳優。
古い洋館での撮影は順調で、雑談をする余裕もある。

「まあ、確かに女の子は古今東西甘くて美味しいものって決まってますけどね」

この俳優、貴島にとって女の子は食べ物と同列だ。
摂取しないとある意味生命の維持が危ぶまれ、その姿勢はいっそ清々しく、むしろ好感さえ持てると巷では評判である。

「でも、これって新開監督の指示通りでしょ?」

貴島が指差すモニターには蓮と京子。
アンティークな雰囲気のソファに二人で座り、長い腕で囲うように抱きしめる。
蓮が演じる男からの蕩けるような視線の色香。
そして、モニター越しからも伝わる、アンバランスで危うい少女の甘い香り。

「まあ、そうなんだけどね」
「なんていうか、甘いだけじゃなく犯罪の匂いがしますよね」
「まあ、そういった映画だからね」
「閉じ込めて外に出さずに二人だけの世界で生きていこうとか、今にも言い出しそうですよね……敦賀君が」
「まあ、実際セリフにあるからねえ。言い出すよね……蓮が」

モニターの中の男は常に少女を見ている。
彼女が決して離れないように、与えるのは自分の毒をたっぷり染み込ませた、甘くて美味しい金平糖。
その毒の甘さに狂わされているのはどちらだろうか?
京子が演じる少女は大層魅力的だ。
少女の視線も男を見ているが、愛らしい口元にはまだ冷静な笑みを残している。
愛らしさの隙間に見える、冷たい花の様な一瞬の表情。
それはとても美しく、完全に自分の手に堕ちない少女に対し、男は足掻き、もがく。

「これは観ている側もきっと狂わされるよね」
「ですよね。でも、これってそういう映画なんでしょ?」
「うん。そうだね」

これを観た観客は、甘美な毒に抗う事無く映像に縛り付けられる事だろう。
スクリーンを通して観るもの達を魅了する男と少女。
男は少女の虜となるが、彼女だけは誰の手にも捕まる事無く、幻の中の蝶の様にひらりひらり。

「監督知ってますか?」
「何を?」
「この森シリーズ、演じた役者から影で樹海シリーズって言われてますよ」
「それはまた興味深い。で、理由は?」
「森と言うよりも遭難率が高そうなイメージだから。抜けだせずに出口を探しているうちに迷い込んでさらに深みにはまる」
「あ~、あの二人のせいか」

魅了されるのは観客だけではない。
当然より近くで接したものなら、さらにその効果は絶大だ。

「あと、その樹海には綺麗で恐ろしい魔獣が居るそうです。まあ、これを言ってるのは男だけですけど」
「そうか、魔獣ね。それはさぞかし怖かっただろうね」
「そりゃあもう、半端無く怖いですよ」
「貴島くんは見た事があるの?」
「……ありますよ。何度か」

苦虫を噛み潰した様な表情の貴島は、目線をモニターから他に移す。
新開がその方向をみると、そこには撮影を終えた件の二人。


   「ねえ、この金平糖は最上さんに似てるね」
   「え?なんでですか?」
   「この甘さも、小さくてほんのりピンクな可愛らしさも」
   「でも、トゲトゲだってありますよ?」
   「それだって丸みを帯びていて、
    ああ、ちょっと怒った君も可愛いからそれによく似ているね」  
   「もう、敦賀さんはすぐそんな事ばっかり」


聞こえてきた会話。
視線はそのままに、心底気の毒そうな声色で新開が貴島に言う。

「ああ、貴島くんとは短い付き合いだったなあ」
「え!?ちょ、ちょっと監督!?縁起でもない!」

そう、この後のシーンで貴島は少女(京子)を口説くのだ。
そして、少女は気まぐれにその誘いにのる。
目撃者は蓮演じる男。
たちの悪い女の様に、遊びを楽しむ子供の様に、少女は男の反応を試し悦ぶ。

「いや、風の噂で貴島くんがキョーコちゃんのこと口説いてるって聞いたからさぁ、今回の配役はピッタリだと思ったんだけどね?」
「役者としては選んで頂き大変光栄ですが、ある意味役がピッタリすぎて敦賀君に視線で殺されそうですよ」
「それはいえてる」

今はカメラは無いというのに、蓮の目に映っているのはキョーコだけだ。
愛情が伴う演技のかなりの部分が素である事を物語る。
文字通りの溢れんばかりの愛。
いや、溢れんばかりではなく、例えば愛情を入れるものが器であったなら、あっという間に限界を超えて周りのものを近寄らせない。
そんな雰囲気なのだが、今のところ二人が付き合っているという話は噂の域を出てはいない。

だが真実は……

「ところで貴島くん、あの二人は付き合ってるの?あれで付き合っていないのなら俺はキョーコちゃんに同情する。ちょっと重い」
「……どうやら一緒にお住まいだそうです」
「あ、そうなんだ?」
「最近みたいなんですが……いや、はっきりは言わないんですけど、京子ちゃんに言い寄ってくる野郎にはさりげなくその辺りを匂わせて牽制してくるんですよ。ていうか、監督はなんで知らないんですか?監督も京子ちゃんに惚れてるって噂がかなりあったじゃないですか?」

世間の人々は噂好きだ。
指名する回数が増えれば、事実でなくてもその数は増える。

「ああ、あれねえ……俺のはあくまで役者としてってオマケがついてるからいいんだよ。あと、シリーズで役に指名するときは蓮とセットだから、魔獣に牙を剥かれる心配もない」
「ああ、なるほど」

思えば京子との出会いは衝撃的だった。
京子はまだキョーコのままでその道を目指してはいなかったが、彼女の持っていた素質は本物だった。
才能の片鱗を目にし、思わず心奪われてしまったというのは職業柄当然の事。
あの瞬間の原石である彼女を目にすることが出来たのは、本当に幸運であったといえるかもしれない。

惚れるね――

あの時そう感じた気持ちに偽りは無く、役者である京子には確実に惚れている。
揺り動かされる感情の違いだけで、立場は違うが貴島の気持ちだって分からなくも無い。
それは見た目であったり演技力であったり、彼女の新たな一面を目にするたびにきっと誰もが心惹かれてしまうことだろう。

「で、君は本気なの?」
「貴島という男は女が大好きで楽しい事と気持ちのいい事が大好き。だから真剣にならない。今までもこれからもそんなイメージでいいじゃないですか?」
「ああ、かなり本気だったのね」
「気づかないほうが演じきれるからはっきり言わないでくださいよ。あと、俺は命が惜しい」

その物騒な言葉の響きに、新開は呆れつつ笑いながら言葉を出す。

「そんな、いくらなんでも大げさな」
「これが大げさじゃないから恐ろしいんですよ」
「そうか。よし!失恋記念に貴島くんと京子のラブシーンを増やしてあげよう!」
「絶対にやめてください」


次のシーンの撮影時間まではあと少し。
クランクアップまであと数日。





-----------------------------------------

ポスターはまた後ほど(←今、描いてる)


コメント

森シリーズのお話!わー!!ヾ(@°▽°@)ノ
さに様ありがとうございます!

第三者目線なのになんでこんなに甘いんでしょう。
金平糖☆素敵アイテムですね!
この映画観たいです!確実にどっぷり深みにはまって出てこれませんが、はまりたいー!
2人の会話楽しすぎて、ますます新開監督が好きになってしまいました(≧▽≦*)
ポスターも楽しみにしております☆

キタ━ヽ(゚∀゚)人(゚∀゚)人(゚∀゚)ノ━!!

わーい!森シリーズばんざーい!
さにさん、とっても甘美な毒を注入してくださり(←)ありがとうございます!
朝から乾いた心が潤いました!すっかり樹海入りです(`・ω・´)キリ←

最初の硬さと柔らかさの対比も素敵ですねぇ(*´ω`*)
個人的には新開監督と貴島氏というあたりもツボでございました!

さわらぬ蓮キョに祟りなしとはまさにこのこと…!
ギラッギラに牙を剥く魔獣さんも観てみたいものです♪

ポスター、正座待機しております!

コメントどうもありがとうございます^^

---------------------
♪ゆりぽぽさん

うふふ♪書いちゃいましたよ^^
金平糖、先日と~っても美味しいものを食べたので、ついうっかり文章に入れたくなりました(笑)
映画の内容はザックリとしたイメージで書いたのですが、観たいと言って頂けて嬉しいです。
てういか、本当にどんな映画なんだよw
2人の会話を考えるのは楽しかったです。
ポスターも頑張りますね~!

---------------------
♪えみりさん

わ~い!ばんざ~いです^^
大丈夫だった?ちゃんとシリーズに入れたかしら?
なぜか共演者の皆様が樹海入りしていますが(笑)
この二人の会話、私自身なんだか聞いてみたくて思わず文章書いてしまいました。
潤いになったのなら幸いです。
魔獣さんは、カイン的な『気やすく懐くとブチ殺すぞ』モードだったのでしょうか?
敦賀蓮姿でそれを……(ゴクリ)

ポスターも頑張ります!

お邪魔いたします。
出だしの雰囲気と、新開監督と貴島さんの会話と、堪能させていただきました。
すみません、こういう感じの貴島さんが大好きで、コメントせずにはおれずでてきてしまいました。
ラブシーン増やされて、ピンチな貴島さんを見てみたいような。
どんな素敵なポスターなのでしょう、ドキドキしてます。

♪mokaさん

いらっしゃいませ~!コメントどうもありがとうございます。
気に入って下さり嬉しいです♪
うふふ♪貴島さんお好きですか?彼はかなりいいキャラクターですよね。
蓮キョのとっても素敵なスパイスになってくれると楽しいです。
えっと、ラブシーン増やされたら、今度は貴島さんだけじゃなく監督のところにももれなく魔獣さんがw

ポスターは出来る限り来週にUPしますね^^

二人を知る、私たちも性格を知ってる監督や貴島さんの甘々駄々漏れの二人を観察しての会話ってどうしてこんなにも楽しいのでしょう~~~

しかも森シリーズが樹海って・・・言い得て妙!納得なネーミング!

ああもう、この企画楽しすぎます~~!
こんないい思いばかりさせていただいてsunnyさんありがとうございますー!!!

金平糖って、キラキラしててカラフルで、そしてとっても甘くて美味しいんですよね~…
何て蓮キョな!そして素敵文章がここに!
きょこたんが金平糖って言ってる敦賀氏も、十二分に甘いですわ~!
そして甘いだけじゃない、魔獣な一面ももつ敦賀さん、最高です( ´艸`)
きじまんったら、何度も召喚しちゃってるのねw
あま~い二人の砂吐くやり取りと、大人な新開監督と貴島さんのビターなややり取りが絶妙にマッチしていて、本当に満腹指数200%な森シリーズの作品公開が楽しみです♪
素敵なお話しを拝読できた幸せを噛み締めて、いい夢が見られそうです^^♪

ポスターも楽しみにお待ちしております!

コメントどうもありがとうございます^^

---------------------
♪霜月さうらさん

ですよね!二人の事を知っている人の会話って楽しいのです♪
樹海は……大変ですよ?
もう、二人とも魅力的ですからね。
森とかじゃなくてあくまで共演者的には樹海です(笑)

企画、楽しんでくださり嬉しいです。
引き続き最後までよろしくです^^

---------------------
♪マックちゃん

そうなの!そうなの!金平糖ってとっても素敵な食べ物なのですよね。
先日超久々に食べて思いました。
しかし、さすが食いしん坊の私。
食べた瞬間この文章が浮かんだというw
うふふ……キョコがどれだけ甘いか知っているのは敦賀さんだけですよ。
羨ましいやつめ(笑)
きじまん、是非懲りずにうっかり何度も召還して欲しいです。

ポスターもがんばりますね~!

YES !!

私の中でも、尚ちゃんより・・・
貴島さんの方が樹海に入ってしまう程、
大人だからこそっ!、、、の恋を
期待してしまいます。

ポスターも、うわぁ〜〜!
妖精〜!

森の妖精みたいです。o(^▽^)o

>美海さん

コメントありがとうございます。
貴島さん、好きなので登場していただきました。
彼がキョーコちゃんに真剣に惚れてるところ、ちょっと見てみたいんですよね(笑)

ポスターの感想も嬉しいです^^