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夏前線、恋華火  後編 (ROSE IN THE SKY・EMIRIさん)

空と海を従えた小高い丘の中央。
裸足で大地を強く踏みしめるようにして、少女は静かに佇んでいた。

強い陽光を受けて、シンプルなワンピースの白がクッキリと浮き立つ。
風をつかまえては大きく膨らむ布地の動きが、良くできた絵画ではなく現実の生きた画だと教えてくれる。

(本当は海外で――例えばグアムとかで撮影したかったんだけどな)

スケジュール管理の難しい俳優を起用した時点で、ある程度の妥協は必要になる。
特に今回はメーカー側が敦賀蓮出演映画のスポンサーであり、更には社運を賭けた商品の新作を売り出すタイミングでもあるわけだから、大人の事情として制約が付きまとうのは仕方がない。

(まぁ、日本の夏もいいもんだからな)

決められた範囲の中で、実力を最大限に発揮できるのがプロだ。

撮影場所は、日帰り出来る場所として候補があがった関東圏内の公園。
都心にほど近いとはいえ、新作キュララをイメージするには十分の緑に囲まれ、広大な海が隣接している。

(よし。いい表情(かお)だ――)

大きく天を仰ぎ、そっと目を伏せた少女。
手にしていたペットボトルを口元へと運び、一つ吐息を零してから嚥下する。

こくん、と小さく動く喉、ほわりと紅潮する、まるい頬。
息遣いさえ感じるほどにリアルなのに、不思議と生々しさを感じさせない透明感。

彼女というアートが、華麗に花開く。

「――OK。それじゃ、敦賀君スタンバって」

先程のように揺れることはない。すっかり演技の中に入り込んでいるのだろう、彼女の空気は緊張を保ったままだ。

只者ではない――そんな印象を受けたのは、ちょうど一年前。
当時まだまだ荒削りだった演技は、時を重ねて順調に磨かれたらしい。

「よーい、スタート!」

創り出された彼女の世界へ、一切の違和感なく悠然と降り立った俳優。
恵まれた容姿や体躯に負けることのない高い演技力は、既に日本中が認めるレベルにまで達している。

(いつか、一緒に仕事をしたいと思ってた)

DARK MOON以降、より真に迫った演技をするようになったということは勿論チェック済だった。
どこか澄ました感のあるかつての演技よりも、ずっと人間臭い。
佳麗でありながらも時に猛々しく、見るものの心を強くかき乱す。

(ラッキーだったな)

修練度の相違があるとはいえ、今後も十分に伸びしろのある、未知なる可能性を秘めた二人。
旬の彼らを同時にフィルムに閉じ込める機会に恵まれた俺は、どこまでもツイているらしい。

「ストーップ!そのまま静止画もくれ」

出来上がりの画では、彼女がボトルに口をつけた瞬間、キュララ自体が彼の姿へと具現化される設定だ。
合成処理や大幅な加工が施されるとはいえ、互いの唇の熱を感じることのできる距離が必要素材になる。

(しかも、だ)

彼らにしたら、演技に没頭している意識しかないだろう。

けれど、無意識下でも‘素の部分’の色香がダダ漏れている。
その正体を、俺の目ははっきりととらえている。

(ギリギリなのがまたそそるねぇ…)

新しいボトルパッケージに映えるように施された、薄ピンクのグロス。
紙一枚分の距離で、それを今にもとらえんとする貪欲な唇の艶。

まさに‘おあずけ状態’なこの距離が、彼らの間に生まれた‘恋’を加速させる――。

「はい、オッケー!ご苦労さん」

俺の経験上、CM撮りで一発OKを出した俳優は片手に収まる程度だ。
脳裏に描いた画を再現できる俳優には、滅多にお目にかかることなどできない。

(いや、今回は俺の脳内アートを超える出来だったかもしれないな)

目の前で展開された、動く芸術。
パッと一気に咲き誇る花火のようなあでやかさと、いつまでも消えることのない余韻。
どこか切なさすら帯びたその空気感に浮かされていた部分があったのかもしれない。
二人が織り上げた魔法に、いつの間にかとらわれていたのかもしれない――。


「俺のこと嫌い?」

公園脇につけられた、機材車兼ロケバスの入り口。

「グアム以来、俺のことずっと避けてるだろう?」
「そ、そんなことっ!滅相もありませんっ!誤解です!敦賀さんの勘違いですっ!」
「……勘違いって……酷いな……」

出歯亀になるつもりなんて、毛頭なかった。
一発OKで時間にゆとりがあったし、メイキング用ショットなんかもメーカー側にプレゼントして恩を売っとこうかと、ハンドカメラを取りに来ただけだったのに――。

「単刀直入に聞くけど。最上さん、君今、好きな人いる?」
「はいぃいっ?!!!!」

(おいおいおい……。口説くんなら現場ハケてからにしてくれよ……)

ほんの少しだけ開いたドアの隙間から見えたのは、凄絶な色気を纏った男の背中。

「俺のことはどう思ってる?……もちろん‘尊敬’とか‘崇拝’以外の言葉でね?」
「あ、ああああの……っ?!」

男の影から見え隠れする、先程の演技は微塵も残っていない、狼狽えまくった女。

「……さっきの撮影は、結構ストレスたまったよな」
「……は……?」

長椅子の上、半分押し倒される形になった彼女へと、躊躇なく伸ばされる長い指先。
色づいたままのリップを触れるか触れないかの位置で、空気ごとなぞるような仕草で親指を滑らせて。

「キスしたい。――いい?」

逃げることなど決して許されない。
男は、特大の仕掛け花火を華麗に打ち上げた。

(あー……。くそ、カメラ回したいな)

こと仕事に関しては几帳面と名高い、彼女の先輩俳優。
ドアがほんの少しでも開いているということは、彼のことだ、外堀から埋めますから皆さんどうぞ見てください、などという意図もそこにあるんだろう。

「キ、キ…ッ?!だだだだダメですっ!!無理ですっ!無茶です!!」
「なんで?」
「な、なんでって…っ!!そんなのっ!私の心臓が止まっちゃうからに決まっ…………むぐっ」

(……あんなに演技力ついたのにねぇ)

肝心な時に発揮できないんじゃ、あの彼から逃げるのは困難だろうなと少し同情もしつつ。

「…ふ、は…ぁっ、敦賀さ、んっ……んんん……っ」

(――まぁ、今日はいい画を撮らせてもらったからな)

指先をファインダーに模して、左の瞼だけでシャッターを切る。
車体に貼りつけられていたマグネットを‘着替え中’の面にひっくり返して、そっと扉を閉めて。

(邪魔モノが入らないようにだけは、しといてやるよ)

南国のようなカラッとした風に乗せるように、ふんふんと鼻歌を口ずさみながらその場を後にした。






FIN





*Special Thanks!*

ネタ提供:愛犬う○ち様

うんさーん!素敵なシチュをお貸しくださりありがとうございました!!
楽しく書かせていただきましたー!
攻め攻めチュウ、バンザーイ!!ヽ(*´Д`*)ノ




EMIRI


コメント

ぎゃああああああ!
いつも叫びから入ってすみません、でも叫ばずにいられましょうか!?いや無理!
黒崎監督を押しのけてありとあらゆるメディアでもって記録に残したいロケバス内での一部始終!
敦賀さんかっこいいですー!でかしたー!
ハアハアもうもうえみりさんサイコー!有難うございます!
そしてネタをご提供なさった愛犬う○ち様にも有難うございます!
暑苦しいコメント失礼いたしました。

きゃ~~~~~!!!!

うわー!!!いいわ~~!良すぎます!!!
潮さん視点の駄々漏れ蓮さんが良すぎてPCの前でゴロゴロ身悶えですよ!

しかもどうぞ見てくださいな、確信犯!!
それは偶然覗かれちゃった緒方監督の時から見れば、格段の腹黒成長(←ヒドイ)を感じさせます!外堀なんてウメウメしてしまえ!


この後、ニヤニヤしながら『好評だったからあの続き、撮ることになったけどどーする?』と蓮さんを煽って楽しむ潮さんが見えます――!

(さにさん、コメ欄お借りしますm(_ _)m)

*吟千代さん*
コメントありがとうございます!
わーい!叫んでいただき嬉しいです♪
もういっそロケバスにドッキリの仕掛けカメラとか仕込まれてればいいのに!とか私も思っております(*´Д`)
お預け状態が敦賀氏には理性切れるくらいの拷問だったようですw
うんさんの素敵設定、楽しんで書かせていただきましたヾ(´∀`)ノ

*霜月さうらさん*
コメントありがとうございます!
はい!敦賀氏の腹黒さはグアムを経て更にパワーアップしたもようです(`・ω・´)キリ←
キュララもですが、微妙に過去の出来事を絡めたくてロケバスとか南国系を入れてみましたw
うんうん、潮さん、大人の男ですからね!きっとうまーく敦賀氏を転がしてくれると信じています(*'ω'*)フフフ

私も前編の書き出しから心掴まれてしまいました(≧ω≦)
キョコちゃん撮影頑張った…!
撮影中のお話はドキドキしてそのまましてしまえばいいのに!と思っておりましたが…
キャー!やっぱり我慢の限界だったのですね!ですよね!
黒崎監督もカッコ良いー!
はわー、素敵なお話をありがとうございました(*^ω^*)

*ゆりぽぽさん*
お返事遅くなりました><
最後までご覧くださりありがとうございます!
わーい!情景描写も黒崎監督視点っぽくアート☆な感じに…!と思っていたので(や、そんなにいつもと変わらないですが^^;) 嬉しいです^^

個人的には寸止め大好きなのですがさすがに敦賀氏が不憫になりましてw
グアムで理性の紐がますますぺらっぺらなこよりになったかなと( ̄▽ ̄)ニヤリ
楽しんでいただけたようで良かったです♪
コメントありがとうございましたー!

(さにさん、コメ欄お借りしましたm(_ _)m)