心ほどいて。2 side ren (海は凪ぐのに。・honeyさん)
淡い桜色のスーツが君の肌の色を明るく見せる。
君は俺が贈ったハートシェイプのダイヤモンドのエンゲージリングを薬指にはめて、はにかんでいる。
時折それを眺めては触って頬を緩ませている。
「気に入ってくれて嬉しいよ。」
「だって、敦賀さんがくださったんですよ。それだけで私、嬉しくて。」
俺の秘密…。
結局今日までひとつも打ち明けられなかった。
俺がアメリカ生まれで父親が彼女もよく知ってる、あの男性だってことすら告げてない。
当然本名も言いそびれ…。
このことを打ち明けたらあのことにも触れないといけないだろうし。
少し、いや…かなり自信がなかった。
彼女は同情はしてくれるかもしれないが、darkな俺を受け入れてくれるだろうか。
せっかく俺の手の中に休んでくれるようになった小鳥が、怯えて飛び立って戻ってこなかったら…。
こう思うと心がちぎれそうになる。
-どうした、久遠…。何を弱気になっている?
このところ消耗することが多すぎて、いつもの余裕が保てない。
「敦賀さん?」
「ああ…ごめん。君に見とれてた。」
「!…また…さらっと…。いえ何でもないです。」
壊れ物に触れるように優しく肩を抱く。
「そろそろ時間だ。ラウンジに行こうか。」
俺たちは両親との待ち合わせをしているプライベートラウンジに向かうことにした。
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ラウンジでリザーブしたのは、高層階の窓際のプライベートルーム。
席は都心が見える所。
「はぁぁ…。」
君が大きなため息をつくから、俺の中の不安の種子も芽吹き出す。
「大丈夫だよ。」
自分にも言い聞かせるように囁く。
「緊張しちゃって…。ごめんなさい。敦賀さんのご両親だからと思うと余計…。」
ミルクティーを飲んだあと、自分の頭をぽかりと叩くしぐさが愛らしい。
「大丈夫…大丈夫だから。」
カチャリ。
「こちらでお待ちかねです。」
「Thank you.」
カツカツ、カタッ。
「久し振りだな、キョーコ!!」
「え!えーっ!!!」
ガタン!と席を立ち彼女が驚いて声を上げる。
「父さん…じゃなくて、先生?なんでこちらに…?」
ラウンジに射し込む柔らかな光の中でハリウッドスターは微笑んでいる。
「つまり…そういうことだ。」
父さん、クー・ヒズリはそう言うとチラリと俺に視線を送る。
彼女は目を見開いたまま、俺とヒズリ氏を見比べる。
「ゴメン。そぉなんだ。…紹介するよ。クー・ヒズリ。俺の父だ。」
「うそっ!!」
口に手を当てて俺と父さんをまだ何度も見比べている。
「そんな…でも…だからですね…何だか、身体のパーツの比率がお二人ともよく似ていて、筋肉量とか、鎖骨のカーブとか……。」
鎖骨のカーブ……嬉しいような、微妙なわかられ方だ。
それだけクー・ヒズリの鎖骨もよく見ていたってことじゃないか。
あ…いや…そうじゃなくて。
「Kuon…!!」
突然、波打つ金髪の女性が俺に飛びついて来た。
「あ…ジュリ…!?」
-忘れてた。
母さん(ジュリエナ)は、少しむくれて俺に飛びついて頬にキスをした。
「敦賀さん…!そちらのゴージャス美女は……」
う…二人とも、そんな責めるような瞳で見ないでくれ。
「最上さん、紹介するよ。彼女はジュリエナ。俺の…」
「えっと…、待ってくださいね。先生の息子さんが『敦賀さん』って…先生の息子さんは確か『クオンさん』で…
えっと…その…敦賀さんは『敦賀さん』じゃないんですか?」
ぶつぶつと彼女が混乱しはじめている。
-これは…はやく本当のことを話さないと…まずい気がする!
「ゴメン。『敦賀蓮』は本名じゃないんだよ。だから俺の本当の名前は…。」
ふるふると首を振り彼女が俺の言葉を遮る。
「あの…ごめんなさい。私、ひとりで舞い上がってました。」
「最上さん?」
「私…貴方がどんな形でもいいから…幸せになってさえくれればいいんです。」
「え…?」
何だか話の風向きがおかしくなってきた。
カタン。席から離れて君はうつむく。
-まずい!
「あの…ジュリエナさんとお幸せに。」
-そうじゃないだろ!
さっと、その場から逃げようとするから。
「…!」
俺は君をこの手の中に捕まえて、両親の前で恋人のキスをすることになった。