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お客様は神様です。 28 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

 「じゃあ・・・行ってきます!」


翌朝、ホテルの従業員一同と蓮や社・百瀬らに見送られキョーコは尚と共に松乃園に向かった。

最後まで少し心配そうな蓮に視線を向けていると、尚から機嫌の悪そうな声がかけられた。


「ここに泊まったのかよ・・」


「そうよ?最後ぐらいお客様を味わっておかないとね?」


「・・・・まさかアイツと!?」


噛み付くように叫んだ尚に、キョーコは静かに口を開いた。


「・・・・・・ショーちゃん・・・婚約のこと、ちゃんと女将さんに言おうね?」


「!・・・・・おう・・・・」


尚はバツが悪そうに、真っ直ぐ前を向くキョーコを見つめ大きく息をつくのだった。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


一ヶ月という日々は、あっという間だった。


新社長に主任した蓮の元、LME hotelはキョーコが目指した『お客様は神様です』という理念の接客を軸にさらなる顧客の収得を進めていった。
それは海外にまで及び、蓮は海外と日本を行ったり来たりする忙しい日々だった。

キョーコは、松乃園の古い体制を一新するため教育の再編に手を入れていた。
尚との婚約は白紙に戻っていたが、キョーコは女将に頭を下げて尚との婚約を願い出ていた。


「お願いします!認めてください!!」


「キョーコちゃん・・・・あのバカ息子のために・・・・・」


女将はキョーコが頭を下げたことと、尚が心を入れ替えて真摯に旅館の事務職をこなしている事を考慮してキョーコの願いを受け入れた。

キョーコはこれでやっと肩の荷が下りた気がした。


「う~~んっ!!」


キョーコは両手を組んで、大きく伸びをしていると尚がやってきた。


「・・・悪かったな・・・何から何まで・・・・」


「その台詞、もっと早くに聞きたかったわ」


この旅館の売りである、立派な日本庭園で二人は微笑み合った。


「・・・戻るのか?」


「うん・・・私がここまでお膳立てしてあげたんだからちゃんと幸せになってよね?」


「・・・わかってるよ・・・・キョーコっ」


「なに?」


尚は深々とキョーコに頭を下げた。


「すまなかった・・・今までお前をここに縛り付けてきて・・・・・・」


キョーコは尚の頭を見下ろしていたが、一陣の風が通り抜けたことで大きく息を吸って気持ちを入れ替えることが出来た。


「もう、過ぎたことだもの・・・それに・・・私はこれでよかったと思っているの・・・今回のことがあって、自分が今までしてきたことを見直すことも出来たし・・・彼に・・出会って恋をすることが出来た・・」


ふわりと微笑むキョーコの顔は、見慣れた幼馴染の顔じゃなく知らない女性に思えた尚は目を細めた。


「ショーちゃん、明日ここを出るね?」


「結婚式までいるんじゃないのか!?」


「誤解が解けたとはいえ・・・彼女だって元婚約者が側にいるなんて嫌でしょ?」


「・・・・・・悪い・・・」


尚の呟きに、キョーコは苦笑いを零した。
その時、旅館の母屋の方がなんだか騒がしくなってきていることに気づいた二人は顔を見合わせて首を捻った。


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


「蓮!蓮!!待ってって!!」


社は前を猛烈な速さで歩く、我が社のトップを必死に引き止めた。


「何かの間違いだって!松乃園の息子が結婚式をここでしたいって言ってきたって相手は誰かなんてまだ・・」


「だったら、俺に一言ぐらい言ってくるでしょう?!」


先日もメールをやり取りしたばかりだったが、もう少しで全てが終わりそうだとしか聞かされていなかった。

先日・・といっても間に海外に行っていたため、もう5日前のことなのだが・・・。


「約束の一ヶ月を過ぎても帰ってこれないどころかこんなことに・・・・きっとキョーコは騙されたんですよ!俺が助けに行かないとっ」


会社の玄関口に来てしまい、社は大慌てで蓮を止めるため持っていた書類を振り回し叫んだ。


「今日中に上げなきゃいけない書類はどうするんだ!!?ほら!ヒズリコーポレーションからの通達・・・も・・・・・」


しかし蓮の後ろを必死に付いてきていた社は、一枚の紙を見て急に動きを止めた。


「・・・・蓮・・・・これ・・・・・」


社の擦れた声に、ただ事ではない気配がして振り返ってその紙を見ようとした瞬間蓮は社の表情に驚いた。


「れ・・・れんっ・・・」


目を見開いている社の表情と、微かに見れた書類の内容とで自分の背後で何が起こっているのか想像できて蓮はゆっくりと振り返った。

そこには今、まさしく会いに行こうとしていた人物が立っていて蓮は息を止め目を見開いた。


「本日付けで、ヒズリコーポレーションから参りました・・最上 キョーコです。LME hotelの接客教育係として配属されました。よろしくお願いします!・・・!?敦賀社ちょ!?」


にっこりと笑顔を作っていたキョーコに、蓮が駈け寄り全力で抱きしめたためその細い体がエビゾリになったのを社は心配しながらもその場からそっと立ち去った。


「つ、敦賀しゃちょっ・・・くるしっ」


「どうしてっ・・・何にも聞いてない!」


ぎゅうぎゅうと抱きしめる蓮は、キョーコの抗議の声にさらなる抗議を返した。


「・・・クーパパが・・・黙ってろって・・・」


「・・・・・なんであの人は・・・・・」


ようやく開放したキョーコから、ことの経緯を聞くことにした蓮はキョーコの手を握り締め不安に潰されそうだった胸元へと引き寄せた。


「実は、クーパパが旅館の方に来まして・・・」


「・・・え?」


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


あの日母屋の方で騒ぎを起こしていたのはクーだった。


「キョーコおおおお!!」


「!?クー・ヒズリさん!?」


「そんな他人行儀なっ・・・パパと呼んでくれ!」


「・・・あの・・・・一体?」


半泣きで迫ってくるクーに驚きながら、周りを取り囲む旅館の者たちに事情を聞こうとしたのだが突然現れて最初っからこの状態のため皆困惑していた。


「お・・落ち着いて・・・・」


「これが落ち着いていられるか!?キョーコ、あの日から一ヶ月以上ここにいるそうじゃないか!?」


「へ?」


そういえば・・・あの時、クーはローリィ邸に行ってしまいLME hotelを辞めることしか知らなかったのを今頃思い出した。


(・・・しまった・・・つい、事情を全部話したかと思っていた・・・・)


「キョーコがうちの会社に来てくれるのを今か今かと楽しみにしていたのにっ!ボスに聞いても一ヶ月間待ってろの一点張りだったから大人しくしてたのにっ」


「す、すみません・・・・今日、ここでのお仕事が終わりましたので明日にでもご連絡をさせていただこうかと・・・」


「なに!?終わったのか!!?じゃあ今すぐ行こう!!娘と働けるなんてこんな幸せな時間一分たりとも無駄には出来ないからな!?」


「え!?ちょ、ちょっと待って・・」


「ところでキョーコはここで何してたんだ?」


「・・・・・・・・・・・・・」


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


「・・・・・・・・・・・・・ごめん・・・」


恥ずかしいやら情けないやら、聞かされた父の言動に蓮が謝るとキョーコは苦笑いを零した。


「でも、きてくださって嬉しかったです・・・敦賀さんも来てくれようとしてくれたみたいですし・・」


破天荒な父の血が自分の中にも流れている事を指摘されたようで、気恥ずかしい蓮は顔を赤くしながら話題を別のものに摩り替えた。


「そ、それはっ・・・そうだ!松乃園の・・・彼がうちのホテルで結婚式を挙げたいって連絡が来たって琴南さんから教えてもらったんだけど・・・」


「あ・・それはですね?・・・以前、私と仲の良かった仲居の子の話をしましたよね?」


以前キョーコが泣きながら話してくれた様子を思い出した蓮は、眉間に深く皺を刻んで頷いた。


「・・・ああ・・・あの?」


「はい、実は・・・彼女、ショーちゃんと付き合っていたらしくて・・・」


「え!?」


「彼女があんな風に私の事を言っていたのは嫉妬からだったって・・・戻ったときに謝ってくれました」


「・・・・・・・・・・・」


「でも、私がいなくなってから、自分との事を明かさないばかりか私との婚約を取り直そうとする女将さんに・・・・お腹に赤ちゃんがいるって・・・」


「えっ!?」


「あ!そ、それは彼女の必死の狂言だったらしいんですけど・・・・・それで、彼女から全てを話したと連絡をもらったショーちゃんが旅館に戻って女将さんたちを説得したんだけど聞いてくれなかったらしくて・・・そんな時に私がここにいる事をあの時の常連さんから聞いてここに来たみたいで・・」


「・・・・・で?」


蓮がだんだん機嫌が悪くなっていくのをキョーコは、ヒシヒシと感じ顔を引きつらせつつ話を続けた。


「でっ・・・あの・・・私が取り持って、女将さんを説得して正式に私との婚約を解消して・・二人の結婚を承諾してもらって・・・・・・・あ、あと!元々私が戻るつもりだったのは旅館の古い体制を少しでも解消して、従業員にもお客様にも楽しく過ごせる旅館に少しでも近づけたかったからで・・・なんとか地盤を作ることが出来たから私の役目は終わったわけで・・・・・」


「・・・君はバカが付くほどのお人よしだな?」


深い深いため息をつく蓮に、キョーコは困った顔をした。


「だって・・・・私ばかり幸せだと・・・申し訳・・・ないような・・・・・」


その返答に、蓮は目を丸くした。


「・・・幸せ・・・・なの?」


「はい」


「今?」


「は・・・い・・・・」


真っ赤になりながらも、少し怒って軽く睨んでくるキョーコに思わず蓮は失言をぽろりと零した。


「それって・・・俺が絡んでる?」


「・・・もう!当たり前です!!敦賀さんがくれた思い出で今まで頑張ってこれたんですよ!?でも・・・もう・・・使い切っちゃいました・・・新しい思い出を私にください」


キョーコの涙目で訴える懇願に、蓮はこれまで堪えていた感情を爆発させるように笑みを崩した。


「もちろん!」


キョーコを一気に抱き上げてその場で半回転した蓮に、キョーコは驚いて必死にしがみついた。


「きゃああ!・・・・っぷ・・・あはははは!」


まだ社員も少ない新会社のロビーに二人の笑い声が響いた。

一頻り笑ったキョーコは、蓮の首にかじりつくようにぎゅうっとしがみついた。


「・・・・・蓮さん・・・大好き」


それは蓮が初めてキョーコから直接聞けた言葉だった。


「!!・・・・うん!キョーコ・・愛している」


蓮もキョーコを抱きしめ返すと、ストンとその場にキョーコを下ろし片膝をついてキョーコの手を取った。


「キョーコ・・・俺と・・・一生一緒にいて、ずっと新しい思い出を作っていってくれませんか?」


「!・・・・・・はいっ!!」


蓮からのプロポーズをキョーコが受けてから半月後・・・・。


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


「キョーコ!こっちのチェックもお願い!」


「モー子さん!私は教育係で・・」


「もー!そのあだ名止めて!それと、こんな人手不足の時に帰ってきたんだから馬車馬のように働かされるって覚悟ぐらい出来てたんでしょ!?」


本日、松乃園の名前を掲げた結婚式はLME hotelにて豪華に行われていた。
その中を、キョーコは慌しく働いていた。


「キョーコ、こっちはいいから・・・あそこで松乃園の皆さんが呼んでいるよ?」


「蓮さん・・・はい!行ってきます!!」


穏やかな笑顔で見送った蓮は、すぐさま会場の統率のため先人を斬って従業員の指示に向かっていった。


「お待たせしました!本日はおめでとうございます!!」


笑顔で皆の前に現れたキョーコは、旅館の時のような和服姿ではなくスーツを着こなし颯爽としていた。
そして、その指には蓮からもらった婚約指輪が光輝いていた。


「何から何まで・・・ありがとう!キョーコちゃん!!」


皆を代表して、女将がそういうとキョーコは小さく頭を振った。
そして、弾ける笑顔を見せた。


「私共も、皆さんの晴れの日にご一緒できて大変嬉しいです」


一通りの挨拶と準備が終わったキョーコは、結婚式が開かれているガーデンスペースからホテルのロービーに戻るとフロント係りの一人がお客様と話をしていた。


「どうかしたの?」


「あ、最上主任・・・あの・・・・」


お客様から少し難しいお願いをされて困惑している従業員に、キョーコは笑顔を向けお客様の前に立った。


「よろしければお話しを詳しくお聞かせください、我がホテルで出来うる限り協力させていただきます」


キョーコの言葉に、一縷の光を掴んだ表情になったお客様の話をまとめて了承したキョーコに何度も礼を言った。


「ありがとう!・・・でも、俺が言うのも変だけど・・・どうしてそこまで・・・・」


お客様の言葉に、キョーコは満面の笑みを見せた。


「このホテルで一生に残る思い出を作っていただきたいからです」


だって・・・・お客様は神様ですから!





end

コメント

ユンまんま様

コメントでははじめまして^^
えみりと申しますm(_ _)m

素敵なお話、ありがとうございました!
ワクワクしながら拝読しておりました(*´ω`*)

パキパキ働くかっこいいキョーコがとにかく素敵で…!
惚れた弱みでバタバタしちゃう敦賀氏も可愛くて大好きですー!

みんなが幸せになる心温まるラストで本当に良かった…!
こんなホテルに私もいつか泊まってみたいなと妄想してしまいました♪
ありがとうございましたー!!!

完結おめでとうございます!
コンスタントに長期連載…毎回楽しませていただいてたのにコメントも残さず失礼いたしました。
ホテルの開業に合わせてキョコさんも蓮さんも成長して、全てが丸く、幸せに締めくくられて素敵なお話でした!

えみり様

コメントありがとうございます!!
そしてかなりな長期連載にもお付き合いいただいてありがとうございました!!

最後は、尚の結婚のあたり以外は最初に決めていたのですがそこにくるまで長々とかかってしまいました。
蓮さんの社長も予定外でしたが・・・。

泊まってみたいと言っていただけて本当に嬉しいです!
ラスト喜んでいただけてよかった!!

こちらこそ、本当にありがとうございました!!

さうら様

いえいえ、長期に渡って読んでいただいてありがとうございます!

なんとか丸く収まりました!(笑)
楽しんでいただけて、最後までかけて本当に良かったと思っています。

最後まで本当にありがとうございました!!

最終回まで本当に楽しく全て拝読できました。
とてもはっぴーな終わりかたで感動です。
ウザかった馬鹿尚もまっとうな人間で締めくくれて良かったです。
キョコちゃんには蓮様以外の相手なんかありえませんもの。

美音様
こちらこそ、最後までありがとうございました!!
楽しんでいただいて嬉しいです♪
そうです!!キョコちゃんには蓮さん以外には久遠しかいないかと!(笑)
やっぱりハピエン最高ですよね。

長々と続きましたが最後までありがとうございました!