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Operetta 12 (Tempo2.0・sunny)

※曖昧にしておりますが、一部性描写を含みますのでご注意ください



華やかなファッションショーは終わり、人の波が次の場所を求めて移動をする。
キョーコたちはその流れに逆らうかの様に、バックステージへ急ぐ。
しかし、結局は番組としてのインタビューのみで、個人的に蓮と話す時間を取る事は出来なかった。
仕事を終えたキョーコが出て行こうとすると、既に次の取材を受けていた蓮に代わって、社がひっそりと近づき耳打ちする。

「『あとで』キョーコちゃんにそれだけ言えば分かるって、蓮に言われたんだけど……」

キョーコは察し、真っ直ぐに前を見たまま社に答える。

「はい。では、分かりましたと」


そして、キョーコはホテルに戻り夜を待つ。


部屋のドアが来客を告げたのは、ファッションショー終了時間を考えると少し遅めの時間だった。
キョーコは相手を確認する間も惜しみ、急いでドアをあける。
言いたい事や聞きたい事なら沢山あったはずだ。
なのに、顔を見たら喉の奥に感情が塞き止められているかの様に、上手く言葉にする事が出来ない。
そんなキョーコに、蓮は穏やかで懐かしむ表情を浮かべたかと思うと口を開いた。

「キョーコちゃん、相手を確認して開けないと駄目だよ?」

その普段とは違う呼び方が答えだった。
堪らない気持ちを抱えてキョーコが蓮の胸に飛び込むと、それ以上の力でギュッと抱きしめられた。
互いの背中にまわされた手に力がこもる。
暫くそうした後、二人は顔を確認するかの様に見合わせると、途端にキョーコの目から涙が零れた。
綺麗な真珠の様なそれは溢れて止まらず、蓮がそっとキョーコの両瞼に口づけると、その場所から感じる柔らかさと体温は、言葉に出さなくても更に次をと相手に求めた。


そして、ごく自然な流れで唇を合わせる。


感情を伝えるには一度では足りず、二度、三度でも全く足りず、何度も啄ばむ様に重ねた後、更に深くなる。
呼吸も侭ならず、縋る様にぎゅっとキョーコが蓮にしがみ付くと、バランスを崩した二人は重力に逆らわずに、そのまま縺れ合うようにベッドに倒れこんだ。
組み敷かれた形になったキョーコは、天井を背景に見える蓮の顔に手を伸ばし、その両頬を包み込むようにしてまた涙を零す。


「本当に……会いたかった……」


キョーコが言葉に出来たのはそれが精一杯。
あとは激情にのまれながら、互いに愛しさを記憶する。




直接触れる滑らかな肌と息遣い。
短く発せられる艶を含んだ声と視線。
熱い液体と粘膜の感触。

瞬間の切ない表情を……。




快楽を味わった後の気だるさに身を委ねながら、蓮は目を細め何度もキョーコの髪をすく。
キョーコは少しの間放心状態の中に居たが、ゆっくりと視線を合わせて口を開いた。

「ねえ……敦賀さん……いえ、コーン?」
「何?キョーコちゃん」
「少しあなたが指定した期限には間がありますけど、お返事しても良いですよね?」
「うん」
「もう……我慢できないんです」
「うん」
「あなたが好きです。私と……ずっと一緒にいてくれますか?」
「もちろん、君が嫌だと言っても」

そして、素肌のままの二人はもう一度互いを味わう。
la petite mort(小さな死)が共に訪れるまで……。





「あ……」

キョーコが目を覚ましてた時、まだ蓮の腕の中にいた。
抱え込まれた状態からなんとか抜け出そうとするのだけど、どうにも腕の力は緩まない。
モゾモゾしてる様子に蓮も気づいたのか、ゆっくりと目を開けてから、やや寝ぼけた風な声を出す。

「ん……、おはよう最上さん」
「お、おはようございます!あ、あの……腕が……」
「ん?あ、これ?駄目だよ」
「え!?なんでですか?は、離してくれないと起きれないじゃないですか!?」
「いやだ。俺、君が嫌だと言っても離さないって言ったよね?」

それは少し違う様な気がするのだが、駄々っ子の様に拗ねた口調で言う蓮に対して、こっそりキョーコの表情が緩む。

――これはちょっと可愛いかも?

密かにそんな事を思っていると、蓮は真顔でキョーコに尋ねた。

「ねえ、最上さん。それよりも君、ひとりで起きれるの?」
「へ!?なんでですか?」

自分は寝起きは良い方だし、朝にも強い。
むしろ一人で起きれなかった事が今まであっただろうか?
妙な質問をしてくるものだとキョーコが不思議そうな顔をすると、それに対して蓮は不満そうにボソリと呟いた。

「なんだ……それなら、もうちょっとやっておけばよかった」
「!!!!!」

その言葉で昨夜の事を思い出す。
キョーコは記憶力も想像力も豊かな方だ。
蓮にされたあんな事やこんな事は明確に脳内に再現され、『もうちょっと』の意味に恥ずかしさはピークに達する。

「は、破廉恥です!」
「うん。大丈夫、大丈夫。すぐに慣れるから」
「そんな事絶対にありえませんよ!?」
「じゃあ、早く俺に慣れてもらえる様にしっかり頑張るから」
「あれ以上、どう頑張るんですか!?」
「う~ん、とりあえず今からでも?」

這い回り始めた不埒な手が柔らかな場所をそっと包み込むと、ピクリと敏感に反応をする可愛らしい身体。
それとは別の箇所で触れた蓮の一部に、キョーコは慌てて阻止をする。

「し、仕事!今日は朝から仕事です!時計!時計を見てください!」

キョーコが指差した先を確認すると、アラームが鳴る15分前。
確かに時間があるとは言いがたい。
蓮は不貞腐れた様子でしぶしぶ分かったと言い、キョーコは安堵の表情を浮かべた。
……が、瞬間口を塞がれる。

「!?」
「心配しなくてもこれ以上の事はしないよ。朝の挨拶みたいなもの……でも、駄目かな?」

控えめに遠慮がちに、そして可愛らしく言う蓮を拒む理由などキョーコには無く、

「……いいですよ?」
「じゃあ、キスだけ」

結局、アラームが鳴るまで、朝にしては濃厚すぎる時間を過ごす事になったのだ。


そして……


「破廉恥だわ」

朝食を取る為に、二人は例のブレックファーストルームに居た。
キョーコは自分と蓮の皿に、テキパキと食べ物をのせながらプリプリしている。

「そう?でも、約束は守ったよ?」
「確かにそうですけど、全く……私のコーンがこんな破廉恥さんになるなんて……」
「うん、俺もびっくりだよ」
「な!?自分で言いますか!?」
「やっぱり好きなコ相手だと、歯止めが利かなくなるって説は本当だったんだね」
「……」
「聞いてる?」
「……いや、もう、分かりました」

気持ちの良い朝からこんな話題を続けてたまるものですかと、キョーコはそこで話を切り、二人向かい合わせで席に着く。

今朝の食事は、少しの照れくささと嬉しさと、呆れのスパイスが混じった味がした。

食後の紅茶を飲みながら、キョコは目の前の端正な顔を改めてじっと見る。
随分と大人になってしまったけど面影はそこかしこにあり、なんで今までこの人がコーンだと気づかなかったのかしら?と不思議に思うほどだ。
事実を知ってしまうという事は、案外そんなものかもしれない。
蓮はキョーコの視線に気づくと神々しい笑顔を浮かべた。

――うわ~、これは本気で朝日より眩しいかも

こんな人から逃げ切れるなんてそもそも不可能だったんだわ。と、キョーコは過去の悪あがきを含めて思う。
そこで、ふと疑問が浮かんだ。

「そういえば……」
「ん?」
「例の『全力で逃げて』ってあれはどういった意味だったのでしょうか?」

結果を見ると、どうにも無意味だった様にしか思えないのだから、その疑問は当然だった。

「ああ…あれね」
「はい」
「正直、追いかけっことかどうでも良かったんだよね」
「はい!?」

答えは実に拍子抜けするもので、まさか「どうでもいい」という答えが返ってくるだなんて思いもしなかったキョーコは、思わず間抜けな声を返してしまった。

「いや、ちゃんと重要な意味はあるんだよ?今回の事で俺がいかに最上さんの事が好きで、君といるとどんなに俺が幸せかを世間にある程度アピールできたと思うんだ」
「へ!?ちょっと、敦賀さん、何を仰って?」
「ん~と、つまりね……」

蓮は席を立ち、ちょいちょいとキョーコを呼ぶと、同じフロアの隅っこにあるインターネットスペースに連れて行く。

――そういえば、こんなスペースがあったのね

そしてカタカタとキーボードを叩き、日本のサイトにアクセスをすると、そこに表示されていたのは……

「な、なんですかこれは!!!!!?????」

目に飛び込んだのは芸能ニュースの見出し、キョーコは顎が外れそうに驚く。

「な、なぜこの様な事に!?」
「最上さん、パリにどれだけの日本人が観光に来てると思ってるの?今がシーズンオフだとしても結構な数だよ」

確かに日本人の観光客はキョーコの視界に入っていた……はずだ。
が、意識を向けるところが多すぎて、というよりも、何より目の前の男に集中しすぎてほとんど気にしていなかった。

「わ、わざと!?」

蓮はにっこり笑って話を続ける。

「海外だと意識の置き方が日本にいる時と変わるからね。うん、油断したよね?」
「ゆ、油断というか……」
「最上さんが逃げてくれたお陰で、日本に帰ってから交際宣言をしても、俺の溢れんばかりの愛を君がついに受けてくれたと思われるだろうし、まあ実際疑いようも無くその通りだし。そこのところ、間違った認識を世間に持たれたくはないからね」
「つ、敦賀さん?」
「まあ、ちょっと俺の周囲に探りを入れたら、元々俺が君の事を必要以上に気にかけていた事は、仕事で関わった人なら知っているだろうし」
「えっと……」
「ところで、俺はこういった内容で大きな話題になった事が無いんだよね」
「それは……よく、存じ上げております」
「どうせ初めて載るなら、派手な方が良いかな?と思って」
「派手って……」
「ちなみに、事務所も全力でバックアップしてくれる事になってるから」

自分たちの事務所のトップはあの人だ。
派手好きで愛が大好物。
両方が揃った今回の件、お咎めがあるどころかきっとお祭り騒ぎになる事は想像に難くない。

――それは心強いというか何というか

そんなキョーコの心の声を察してか、蓮は言う。

「大丈夫。君の事は俺が守るよ」
「え!?」
「何があっても」

蓮の不可解な行動は、恐らくは世間の目から守るため。
あらぬ疑いで大事なキョーコが傷つかないように。

「日本についたら、精一杯惚気るから覚悟しておいてね?」

h_21.jpg

その日の仕事はノートルダム寺院から。
集合場所から少し外れたところに蓮の案内で行くと、既に社がその場に居た。
キョーコが少し不安げにそっと蓮の方を見上げると、彼女の頭をひと撫でしてから社に報告を始める。
目の前の社はまるで自分の事の様に喜ぶのだが、その喜び方がそれはもう半端なく、逆に見ている側が恥ずかしくなるぐらいだった。
そして、キョーコに向かって「蓮の事をよろしく頼むね!」と言うので、キョーコの胸は嬉しい気持ちで一杯になり笑顔で「はい!」と答えた。


ノートルダムの建物は外観も内観も素晴らしい。
裏側に回ればフライング・バットレス(空中にアーチを架けた飛梁)が美しく、中に入ればバラ窓の美しさが人の目を引く。
入り口の手前からカメラが回り、彫刻を見ながら二人は中に入る。
グルッと見て回り、途中でパイプオルガンについて関係者の人に話を聞くと、世界最大級のパイプオルガンの調べはこの時間に聴く事は出来ないけれど、今日の夜にコンサートがあるとの事。
聴けなくて少し残念がるキョーコに、蓮は「夜なら撮影も終わってるし、一緒に来ようか?」と、そっと約束をする。

サント・シャペル教会のステンドグラスは、ノートルダムとはまた違った美しさだったし、途中で寄ったカフェも素敵だった。
市場では日本とは違う食材にキョーコは目を輝かせ、それを見た蓮は彼女らしさに笑った。

パリでの全ての撮影が終了し、テレビクルーとはお疲れ様と言ってそこで解散となる。
社は「これから忙しくなるな」と言いつつもその表情は妙に張り切っており、二人とはしばらく話をした後に滞在先のホテルに戻っていった。

日はすっかり落ち、二人は再度ノートルダムの中でコンサートの始まりを静かに待つ。
やがてコンサートは始まり、パイプオルガンの音に包まれた空間は荘厳な雰囲気に包まれた。
演奏されているのはバッハの有名な曲で、音は天にも届きそうで……。

暫くしてふと蓮の方を見ると、祈るかのような表情で目を瞑っている。
キョーコは黙ってその横顔を見た。
決して平坦では無かったであろう彼のこれまでの事を、キョーコは詳しくは知らない。
願わくばこれからが幸せでありますようにとそっと祈る。

コンサートが終了すると、蓮がキョーコの手をそっと包み込んだ。
二人はそのままそっと寺院を後にすると、暫く歩きセーヌ川に架かる橋に差し掛かる。
黒い水面に写る街の明かりがとてもキラキラとしていて、思わず立ち止まりじっと見る。

「綺麗……ですね」

蓮は、そんな周りの風景を写しこんだキョーコの瞳を見て言う。

「うん……とても綺麗だ」

自分の目に映るのは、キョーコだけという気持ちを込めて。

そして、少し静かな時間が流れてから、キョーコは蓮に聞く。

「ねえ、敦賀さん。そういえば、あなたの『願い事』はなんですか?」
「ん?ああ、君がもし真実に辿り着いたら、俺のお願いを一つ聞いてくれるって話の事?」
「はい。私で叶える事が出来るのなら喜んで」

蓮はその言葉に少しだけ考える素振りを見せ、ポケットから何か取り出すと、それをキョーコの掌にそっと置く。

「これが俺の願い」
「これ……が?」

蓮は「お願いだから早すぎるとは言わないでね?」と言ったのだが、当然キョーコは驚き次の言葉も出ない。
そんな彼女に蓮は、質問を投げかける。

「ところで若い日本人がここに来る理由の一つを知ってる?」

最初に聞いたものにも似た質問を、なぜこのタイミングでと思いながらもキョーコは答える。

「え、えっと……、先日行ったルーブル美術館とか、さっきのノートルダム寺院に来たいとか?」
「違うよ。最上さん」
「え?」
「卒業旅行だよ」
「?」

そして、蓮はキョーコの手首を掴んで自分の方に引き寄せると、抱きしめてから耳元で言った。


「ラブミー部、卒業おめでとう」


キョーコの手にあるものは小さな箱。
それはきっと、
これからの二人の未来そのもの――。


(Fin)

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今回でなんとか完結です。
皆様、最後まで読んで頂きどうもありがとうございました^^

コメント

まずは、連載お疲れ様でしたー!!!ヾ(*´∀`*)ノ

蓮キョのパリ滞在記、一緒に行って陰からこっそり見ているような感覚で最後まで楽しませていただきました!

蓮とキョーコのテンポ良い掛け合いや(敦賀さんのすっとぼけっぷりとか振り回されまくるキョコがたまりません…!)
情景の美しさ(写真も文章も凄く凄く綺麗でした…!)
何より二人が少しずつ距離を縮めていく描写が丁寧で、とても読みやすかったです(*´ω`*)

個人的にはアールマンディ氏が出てきた時に妙にテンションあがりました!彼視点の蓮って新鮮でいいですよね!(そしておじさん好き♪←)
印象に残ってるのはニケの翼のあたりとか^^
ううーん!もう一度読み直したい!

「キョーコちゃん」呼びの蓮のコーンバレ、二人がついに一つになる時は感極まって思わず涙腺が緩みまくり、でも翌朝の蓮の落とした一言にブハっと吹き出しそうになり(笑)

最後、晴れ渡った空にノートルダムの写真が感動的で、その後のコンサートのパイプオルガンやセーヌ川が鮮やかに脳内再生されました♪

さすが敦賀氏、抜け目ないなぁ♪

キョーコ、ラブミー部卒業おめでとうー(∩´∀`)∩
そしてさにさん、素敵なお話ありがとうございましたー!

パリに行ってみたくなりました(*´ω`*)

うわ~!感想どうもありがとうございます!
嬉しさのあまり、マジで感極まって涙出ちゃいましたよ~!
実は最初はコーンばれの予定はなかったり、アールマンディ氏が出てくる予定も無かったりで、
いやいや、予定は未定というか、長めに書いてると自分でも思ってない方向に行っちゃって、その辺りちょっと面白かったです^^
ニケの翼のエピソードは、美術館の場面でいれたいエピソードだったので、そう言って頂けると本当に入れて良かったなと思います。
実のところ、読み返すのは自分では怖かったりするのですが(←なんか、もきゃ~!ってなりそうでw)楽しんで読んで頂けたのなら嬉しい気持ちでいっぱいです。
最後までお付き合いどうもありがとうございました!

最終話お疲れ様でした!

とっても素敵なお話に、写真と両方楽しめて幸せでした!!

ううっ・・日本に帰ってからのドタバタも見たいような気が・・・ついでに新婚旅行編とかっ><

サニさんのラブラブシーンは本当に癒されます♪
素敵な蓮キョを見せていただきありがとうございました!!!

>ユンまんまさん

どうもありがとうございます!
なんとか終わることが出来ましたよ^^
ラブラブが癒されると言ってくださり嬉しいです♪
もうね、二人には楽しく幸せな日々を送ってほしいんですよ……という私の願望なのですw

え!ドタバタに新婚旅行編ですと!?(ひいい~~~~!)
んとね、一応この後一日パリ滞在の後日本なのですが……
番外編があるとしたら、たぶん後からのんびり自サイトでやると思います。
でも、予定は未定だし、このお話みんな楽しんでくれたかしらと今でもドキドキなので、様子を見つつですw

以下、拍手返信です。パチパチしてくれた皆様にも感謝いたします。

>^v^さん

最後まで読んで頂きどうもありがとうございました^^
楽しかったと言って下さると、本当に嬉しいです。
それをエネルギーに、今後も頑張らせて頂きますね。