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Operetta 8 (Tempo2.0・sunny)

「そうだ。セーヌ川沿いを散歩しようか?」

川を散歩して橋を渡り、オペラ・ガルニエへは最寄の駅から地下鉄に乗ろうと蓮は言うのだが、さすがに散歩するほどの時間はないのでは?とキョーコが返すと、少し残念そうに「そうか…」と答えた。

「なんかね。今、君と川に行きたい気分だったんだよ」

頬杖をつき目を細めて、テーブルの上ある可愛らしい手に触れつつ意味ありげに言うものだから、キョーコは不思議そうな顔をする。
そんな彼女の様子をじっと見つめたまま、蓮からはポツリと独り言の様に言葉がこぼれた。

「場所は違うけど、君とは川で会ったなあ……って」

キョーコの記憶にある蓮との川の記憶は軽井沢だ。
撮影であの土地に行った時の出来事は沢山あったけど、川での思い出はそんな風に語る様なものだっただろうか?
いま語る蓮の目は、もうちょっと……いや、もっと遠いものを見ている目だ。
記憶の片隅に何かが少しだけ引っかかるのだが、どうにもパズルのピースが違う気がする。
自分は大切な何かを見落としているのだろうか?
記憶のどこを探しても古い過去に蓮はいないのに、なぜこんなにもこの一言が気になるのだろうか?
キョーコは我慢できず、問う。

「あの……敦賀さん」
「何?」
「私たちは、もしかして過去にお会いしている……のですか?」

蓮は目をパチリとさせて少しだけ驚いた仕草をみせたけれど、すぐにニコリと微笑み「そうだね」と答えた。
……が、それを聞いたキョーコは可愛さと間逆の顔で固まり、頭をガクンと垂れてブツブツ一人考え事を始めるのだ。

「も、最上さん?」

――な、なんということ!?いつ、どこで、何時何分何十秒!?(←混乱中)
  こんな目立つ人、一度会ったら忘れるわけないじゃない!?
  そうなると考えられるのは私が口に出すのも嫌だけど、ほにゃらら な感情をヤツに持っていたとき?
  いえいえ!例え当時の私が愚かだったとしても、この人は敦賀蓮よ!?
  どの角度から視界に入っても……ん?という事はもっと前……敦賀さんが芸能活動をする前なのかしら?
  東京でも無いという事は、場所は私が居た……

「……京都」
「へ!?」

ブツブツ言っていたキョーコの言葉がそこで止まる。
そして、ガバっと頭をあげて蓮を射抜くように見た。

「私たち、もしかして京都で会ってるんですか!?」

蓮はキョーコの言葉に驚く。
確かに正解だが、いきなりそこに辿り着いたキョーコの言葉に動揺したのだ。
しかし、キョーコの表情を見る限りは、完全に真実に辿り着いたという事では無いのが分かる。
考えてみれば彼女は頭がよく勘のいい子だ。自分の持っている情報を整理するだけで、場所ぐらいは特定出来るだろう。
蓮は思い出の地で見た木漏れ日の様な、出来る限りのやさしい表情でキョーコに答えた。

「会ってるよ。君が言うように場所は京都だ」
「いつ……と聞いても?」
「君の気持ちを決める切り札かもしれないのに?」
「それでもと言ったら?」

キョーコの表情は真剣そのものなのだけれど、蓮はここで急に少しおどけた様な表情でふ~っと息を吐いた。

「最上さん、俺はね……大変に嫉妬深い男なんですよ」
「はい!?」
「もし君が過去の俺の方が好きとか言い出したら、もう絶対に我慢できない」
「は???」
「だから今の俺を沢山好きになって貰える様に頑張らなきゃね」
「はあ……?」
「大丈夫……君が俺に落ちてくれたら、骨まで残さず愛してあげるから」

最後の部分は、どんな女も落ちるという言われる壮絶な色艶漂う表情で。
思わず「結構です!結構です!」と後ずさりたくなる気持ちを飲み込んで、我慢して、好奇心と天秤にかけて、ついでに持ち前の負けず嫌いも上乗せして、キョーコはぐっと堪えて蓮に立ち向かう。

「……要するに、俺は教える気が無いから自分で思い出せって事ですね?」
「いや、ちょっと違うんだけど…」
「いいですよ!受けてたちましょう!」
「だから、ちが…」

鼻息もあらく自分に挑む目の前の娘は最上キョーコ。
今も昔も変わらず自分にとっての愛しい娘だ。
負けず嫌いの彼女なら、真実を告げなくても辿り着いてしまうかもしれない。
蓮は少しだけ考える素振りを見せて、それから一人納得するように頷き口を開いた。

「じゃあ、最上さん。ここで賭けを一つしようか?」
「望むところですよ」
「君がもし真実に辿り着いたら、俺のお願いを一つ聞いてくれる?」
「へ?普通は逆では?」
「うん、そうだね。反対に最上さんが答えを導き出せなければ、俺が君のお願いを何でも聞いてあげる。別に不公平な話じゃないでしょ?」

確かに悪い話ではないだろう。
しかし、なぜそのような訳の分からぬ賭けを提示するのだろうか?
蓮の意図を探るべく、少し意地悪かもと思いながら質問を投げてみる。

「逆に言えば、私は敦賀さんのお願いを聞くために頑張るという話ですか?」
「そうなっちゃうけど更に別の言い方をするなら、君は自力で辿り着くもよし、真実に辿り着けなくても『お願い』として俺自身に聞くもよしとも言える。ね?君にとっても損じゃないでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
「それとも、君は勝負をする前から負けを認めるの?」
「な!?そんな事ありません!必ずや真実に辿り着いてみせますとも!敦賀さんは今からお願い事でも考えて待っていてください!」

なんとなくモヤモヤした気分だったキョーコだが、売り言葉に買い言葉。
うっかりきっぱり、蓮に啖呵を切ったのだから後戻りも出来ず、この瞬間から賭けは始まった。
昨日言われた全力で逃げてという言葉から何故かどんどん遠ざかり、どんどん目の前の男に絡めとられている様な気がする。
この賭けを受けるという事は、これまで以上に蓮について深く考えるという事なのだ。

――この人は、本当に逃がす気が無いのね

そして……真実に辿り着いた時、自分の深い場所にある彼を捕まえた時こそが、きっとこの追いかけっこのゴールなのだ。

h_15.jpg

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(以下、没ネタ「骨まで残さず愛してあげるから」の箇所)

「ほ、骨までというのなら私だって負けてませんからね!?」
「え!?も、最上さん!?」
「敦賀さんの素晴らしい黄金比率の骨格が(以下、賛辞が続く)」
「最上さん……orz」

骨格レベルで敦賀蓮を愛するマニアなキョコちゃんw

コメント

パリの写真とサニ様の文章w

2倍楽しいです!!

続きも楽しみにしてます。

ありがとうございます^^
出来るだけ話をサクサク進めますね。(←しかし、今が全力かもしれないw)