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お客様は神様です。 4 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

「・・・・そんなに・・笑わなくてもいいじゃないですか・・」


「ごめん・・だって・・あんまりにもカワイイ音・・・っ・・ぶっふ・・・」


「!!またっ」


レストランフロアに来ても蓮の笑いが収まらずに、キョーコはぶうっとむくれた。


あのお腹の音により、二人の間にあった壁が薄らいだような気がして蓮は少し安心した。


(・・なんで安心してるんだ?)


自分の感情の変化に、蓮が首を傾げているとコーヒーしかなかったテーブルに突如大皿に乗った海鮮サラダやサバの味噌煮、五穀米にお味噌汁が次々と運ばれてきた。


「え・・俺、何も頼んでないけど・・・」


「もしかして、お昼食べてしまいましたか?」


皿を運んできたキョーコは、慌てた表情をすると困ったように蓮を伺った。


「い・・や・・・・食べては・・・無いけど・・・」


「よかった!このホテル自慢の和食です・・・大将!ありがとうございます!!」


遠目に見ても厳つい表情をしている割烹着に身を包んだ年配の男性にキョーコが大きく手を振りながら礼を言うと、小さく頷いて厨房の方へと姿を消してしまった。


「・・・もう、稼動しているの?」


「ええ、賄い程度だったんですが今日から仕入先のチェックも兼ねて通常メニューも作り始めているみたいです」


それでも、まだ限られたメニューですけど・・と言いながらキョーコは海鮮サラダをさっと小さな小鉢によそって蓮に手渡した。


「味見も兼ねてどうぞ」


笑顔で渡されると、嫌とは言えず蓮は渋々受け取った。


「・・・うん・・美味しい・・これなら海外のお客様でも問題なく食べられる」


カルパッチョに近い風味の和風ドレッシングの感想を述べると、キョーコは嬉しそうに次々に料理をよそって蓮に渡した。


「・・・敦賀さんって・・私の事嫌いですよね?」


しばらく、料理の評価をしながら共に食事を進めた時キョーコから何気なくそう聞かれ蓮は思いっきりむせた。


「っごっほ!・・・な・・んで?」


「だって・・・最初からあんまりいい雰囲気じゃなかったですし・・・今日だって・・」


少し恨みがましく軽く眉根を寄せるキョーコに、蓮は咳をし終え一息ついてサバを口に運びながら返した。


「それは、君の方だろ?会った途端にピリピリしてたし・・」


「そんなこと・・・だって・・・敦賀さん・・・なんだか怖いんですもの・・」


キョーコは、申し訳なさそうに身をすくめながら上目遣いで蓮を伺った。


「怖い?」


「・・完璧主義者だって・・聞いていたし・・・」


「誰に?」


「社長さんに・・・あと、椹さんにも・・・」


「・・・・・・」


蓮は大きくため息をついた。


「ああ!すみませんっ、本人を知りもしないで勝手に決め付けて・・」


そのため息が、怒りからよるものだと感じたキョーコは慌てて立ち上がり頭を下げた。


「やっ・・・君に怒ったわけじゃなくて・・・まあ・・俺も君を初対面の印象だけで決めてかかっていたから、おあいこってことで」


今までとは違う柔らかな笑顔を見せた蓮に、キョーコは目を見張ったあと直ぐにほにゃリと顔を崩した。


「では、改めて・・これから、よろしくお願い致します!」


「・・こちらこそ、よろしく」


差し出された手を、蓮はぎゅっと握り二人の間に出来ていた小さな壁を本当に取り払った。

まさか、この一週間後にあんなことが起こるなどこの時は二人共予想だにしないのだった。




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