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お客様は神様です。 3 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

「おはようございます。敦賀さん」


「おはようございます・・・立て続けに打ち合わせでごめんね?」


「いえ・・・どうぞ、こちらに」


翌朝、蓮はスケジュール通りにLME hotelへ来ていた。

キョーコに通された受付前のロビーに足を進める。

ホテル内はほぼ完成しているようだった。


「内装も落ち着いたようですね?」


「ええ・・・たまに訳のわからないものが置いてあったりしますが・・」


キョーコは苦笑いをして、古代ヨーロピアンテイストの中になぜかエジプトチックな置物があるところを見た。


(・・・あれは・・・きっとその内、撤去されるな・・・)


蓮もミスマッチ感に同意見らしく、心の中でため息をついた。
だが、また直ぐに別のことでため息をつきたくなった。


「すみません!お話中にっ」


「どうしたの?」


「それが・・ボイラー室の方で・・・」


「最上チーフ!!お電話ですっ」


「キョーコ!こっちの指示もらっていいかしら!?」


ひっきりなしにキョーコのところにスタッフたちが指示を仰ぎにくるのだ。
打ち合わせどころか、目を合わせることも儘ならない状況だった。


「・・そうね・・・・あのっ」


困った様子で蓮を見てきたキョーコに、頷いて返した。


「お待ちしていますから、行って来て下さい」


「ありがとうございます!!5分お待ちください!!」


綺麗な姿勢で一礼すると、キョーコはスタッフ達を従えてクロークルームへと下がっていった。

その後姿を蓮はため息と共に見送った。


(・・・あと一週間でプレオープンだからな・・・・)


今が一番忙しいのだろう。
他の者たちもバタバタと走り回っている。

しかし、キョーコはきっかり5分で戻ってきた。


「もう・・・いいんですか?」


「はい!打ち合わせ始めましょう」


額に薄っすら汗をかいて、息を切らしながら頷くキョーコに驚きながらも蓮は言われたとおりプランの改定案を説明した。

小一時間ほど話を進めたところで、またキョーコのところにスタッフたちが集まりだした。


「・・・今日はここら辺にしておきましょう・・・」


蓮が書類を片付け出したのをキョーコは申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません!バタバタしてしまって・・」


「いや・・プレオープン直前に打ち合わせに来ているこちらが悪いので・・」


「そんなっ・・・あの!何か参考になるのでしたらホテル内を見ていただいて構いませんので」


キョーコは、プレオープン時に渡す館内案内を急いで持ってくると蓮に渡した。


「一緒に廻りたいところですが・・」


「いいよ、コレがあればわかると思うし」


蓮が館内パンフレットを受け取って、笑顔を見せるとキョーコは一応に安心した表情になった。


「では、これをつけてください・・・」


キョーコは関係者用のネームカードを蓮に渡した。


「もし、ご質問があればお帰りになる時にフロントの者に言って私を呼び出してください」


そうテキパキと指示すると、キョーコは風のようにスタッフルームへと駆けていった。

蓮は、ネームカードを摘んで眺めると徐にそれを首にかけた。


(まあ・・・収穫ゼロよりはましか・・・)


バタバタとスタッフたちが走り回るホテル内を、優雅に歩き始めるのだった。


わりと見る箇所が多いというか・・・本当にこのホテル内で何でも出来るというのはあながち嘘じゃないと、くたびれた足の重さを感じながら蓮はようやくロビーに戻ってきた。


(2時間以上も見ても・・・)


数箇所、確認しなければならないところが出てきたため当初言われたとおりにフロントに顔を出した。


「すみません・・・チーフコンシュルジュの最上さんは・・・」


そう訊ねながら中を覗きこむと、扉の隙間からスタッフ達に指示を出しているキョーコの姿があった。


(・・・あんなことぐらい自分でしてしまったほうが早いんじゃないのか?)


一つ一つ丁寧に指導しているキョーコの姿に、蓮はまどろっこしさを感じた。


「最上チーフですね?少々お待ちください」


フロントにいた女性が、キョーコに声をかけに行くと蓮の姿を確認してキョーコが慌てて飛び出してきた。


「お待たせいたしました!・・じゃあ、さっきのところをもう一度確認しておいて?」


スタッフ達のところを離れる前にそういい残しているキョーコからは、もう最初の時に感じた幼さは感じなかった。


「すみません・・ご質問があるところは何処ですか?」


「え?・・・・あっ、えっと・・スイートのチェックインは・・」


「はい、専用のフロントが35階に・・」


キョーコがそう受け答えをした瞬間。

きゅろきゅろきゅろきゅろきゅうううううう・・・

という音が二人の間に流れた。


「ん?・・・なんか鳴いた?」


「・・・・・・・・・・」


「社長の変な趣味の動物とかいるの?」


「・・・・・・・・です・・・」


「え?」


「今のは私のお腹の音です!!」


きょろきょろと辺りを見回して、本気でおかしな動物を探していた蓮にこれ以上ないほど真っ赤になったキョーコが涙目でそう叫んだ。


(え?・・・なぜ?・・)


蓮は、羞恥で打ち震えるキョーコの言葉で腕時計を確認した。


「え!?もう、2時!!?」


「・・・朝も忙しくて朝食を抜いてしまったので・・・あの・・ご迷惑でなければ昼食がてらに説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


キョーコの提案で、蓮はホテル内のレストランへ渋々向かうことになったのだった。



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