ずっと傍にあったもの 3 (Tempo2.0・sunny)
「そんな怖い顔したら、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?」
「なっ!綺麗って!?」
――そんな事をいう自分の方が綺麗なくせに!
そんな風に思いながらも、頬をなでる手がなんだかんだで気持ちよくて、キョーコは感情に任せて目を細めた。
感じる体温ががささくれ立った気持ちを癒していく。
触れることが出来る距離に、なんだか涙が出そうになった。
そんなキョーコを見ながら、目の前の男はやさしく浸透するように言葉を出す。
「ごめんね。怒らせて……」
「怒ってなんか……」
「急にこっちに帰ってごめんね?」
「酷いです……」
「本当は俺から迎えに行こうかと思ってたんだけど」
「……そんなの待ちきれませんでした」
心の中では100万回くらいバカと言ってやりたいと思う。
でも、同じぐらい100万回ぐらい好きといってやりたい。
置いていかれてショックだった。
そして、結局は我慢できずに自分からこっちに来てしまった事が悔しかった。
だから、
――悔しいから101万回ぐらいはヘタレって言ってやりたい!!
「確かな自信が欲しかった。だから、なかなか会いに行けなかった」
「心変わりするとは思わなかったんですか?」
「そうなったとしても、それが君の幸せなら……」
「……うそつき」
「うん。きっと、相手をぶっ潰すよね」
この男の独占欲は国境を越える。
その文字通り出来る限り手を回した結果、お年頃だというのにキョーコはいまだに綺麗な身体のままだ。
「でもね、俺以上に君を愛してるやつはいないと思うよ?」
「……知ってます。でも、あなたはそれを声に出して教えてはくれなかった」
「それは、君だってそうだろ?」
ポロポロとこぼれる涙。
悪態をつこうとしても身体が裏切る。
この手が勝手にこの人に縋り付く。
きっと会えたことを自分の全身で喜んでいるのだ。
「今度会えたら言おうと思ってたんだ…」
「……はい」
「ねえ?でも、とりあえず立ったままじゃ何だしここに座ろうか?」
「はい……。ん?あっ!ちょっと、待ってください!?」
座らせるというよりは押し倒されたに近く、背中にはベッドの柔らかな衝撃。
――あ、天井が見える
そして、視界に入る男の顔は色香溢れる夜の顔。
キョーコはしなやかな腕を思い切り伸ばした。
……が、
それは、絶対に近寄らせないという意思の鉄壁のガード。
男の顔はしかめっ面に変わる。
「キョーコ?久々に会ったのに、この仕打ちはちょっと酷いんじゃないか?」
「いきなり人のこと押し倒す人に言われたくありません!物事には順序とかあるでしょ!?」
「いや、そんなつもりは全然無かったんだけど……」
「けど?」
「身体が勝手に?」
その言葉にキョーコは脱力し、腕を下ろしながら心底あきれ返った視線を送る。
まるでそこにベッドがあるから当然の流れでうっかり押し倒した。……とでも言うのだろうか?
そう考えると、なんだかモヤモヤとした気持ちに侵食される。
「それは……随分と慣れてらっしゃいますね?」
「いや、それが全然?」
「嘘です!」
「今は演技以外では無いよ?」
「今……は?」
そう言われても、疑いたくなるほど鮮やかに押し倒されたのだ。
当然、疑いたくもなる。
「おモテになるでしょ?先日も噂があったじゃないですか?」
「あ!ちゃんと知ってるんだ?」
「当たり前です」
日本を離れたって、名前が変わったって『敦賀蓮』はあれほど人気があった俳優だ。
海の向こうの噂話だって、あっというまにお茶の間を独占である。
――なんか、凄くむかつく
キョーコは膨れっ面になるが、それを嬉しそうに男は見る。
その様子がキョーコのイライラをさらに煽る。
「なんで嬉しそうなんですか!?」
「いや、良かったなと思って。ちゃんと嫉妬してくれてたんだね」
「な!?」
指摘されると恥かしいのか、キョーコは頬を染めてそっぽを向いた。
「…一応、それなりに」
それはとても可愛らしい。
大きな手でキョーコの髪に触れながら頭から耳へ、そして頬に向けて柔らかく大切に何度も撫でながら優しく言う。
「ただの噂だからね」
「そんなの、分かりませんよ……」
「俺にはずっと君だけだよ?」
「……証拠は?」
男はその言葉に「うーん」と考え、綺麗な片方の手を見せながらニヤリと笑いこう言った。
「じゃあ、俺が君を好きになってからこの手でやった(ピ―――!)の回数でも聞かせようか?」
「いや――――――――――――っ!!!!!そんなの絶対に聞きたくないです――――っ!!」
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(2012/3/3、3/5『Tempo2.0』Blogに掲載・2013/3/21 加筆修正)