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Operetta 3 (Tempo2.0・sunny)

「そして、俺に捕まって」
「はい??????」

敦賀蓮の言う事は実に難解だった。
「全力で逃げろ」と言った次の瞬間「捕まって」とはまるで意味が分からない。
キョーコは疑問符を思いっきり浮かべた間抜けな顔で、瞬きもせずに目の前の男を見ていた。

「最上さん」
「はい」
「君はどんな表情でも可愛いけど、さすがに女優としてその顔を維持するのはどうかと思うよ?」
「だ、誰のせいだと?」

蓮のキョーコに言う様子はどこか楽しそうで、先ほどの言葉の真意はまるで見えない。
ただ、そこには馬鹿にしているという雰囲気も感じられず、キョーコは困惑したままだ。
視線を外さず「捕まって」という様子からは、むしろ「捕まえる」という強い意思さえも感じられるのだから。
蓮はくすくすと笑いながら口を開く。

「とりあえず朝食終わったら、仕事の時間まで少し散歩でもしようか?支度しておいで」


そして、キョーコが部屋で支度を整える間、蓮はロビーのソファで待つ事になった。
「別に部屋で待っていても良いんですよ?」と、キョーコは言ったのだが「いや、ちょっと自信がないからここで待つよ」と、これまた意味不明な言葉が返ってきた結果だ。

「いったい、何なのよ!?」

先輩を待たせてはいけないとテキパキと猛スピードで支度を整えながら、本人がいないのを良いことにキョーコは声に出してそれを言う。
少し気持ちを落ち着かせようと窓を開けて外を見ると、確かに散歩にはよさそうな天気だった。

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エレベーターから降りたキョーコは、そろ~っと息を潜めてソファに座っている蓮の様子を伺う。
不振な点は見られない。場所は違ってもいつもの彼だ。
ソファに座って足を組む様は、その長さをより強調させる様で周囲の目を引き付ける。
柔らかそうな漆黒の髪、身に纏っている服の上からも分かるその整った肉体。
髪の毛の先から視線でなぞり、つま先まで……

――やっぱり、敦賀さんに相応しいのは『芸術』じゃないかしら?

それほどまでにこの人は美しい。
『アムール』を語る姿だってもちろんお似合いだけど、当事者という事になると話は別なのだ。

――だって、きっと、私の心臓がもたないもの


「……最上さん?」
「うわっ!?」

自分の思考を支配していた男の声が、すぐそばで聞こえる。
顔を覗き込まれて睫毛の1本1本まで鮮明に、吐息さえも感じられるその距離の近さ。
キョーコはそれに激しく動揺する。

「どうしたの?ぼ~っとして」
「キ……」
「き?」
「いえ!?な、なんでもございません!!」

――キ…

「キスされるかも……と思った?」
「な!?」

見事に当てられて慌てふためくキョーコの様子を、蓮は目を細めて嬉しそうに見ながら言う。

「うん。それも良いなというか凄く魅力的なんだけどね」
「けど……なんでしょうか!?」
「さっきの話じゃないけど、やっぱりそれだけで止められる自信が無いから駄目……かな?」
「え?????」
「魅力的過ぎるのも罪だよね?」

――さっきの「自信が無い」って言ってたのは、そういう意味だったのですか!?というか、

「そ、そのセリフそっくりお返しします!」
「ん?キスしたいって話?」
「それじゃないです!」

魅力的過ぎるのが罪だというのなら、目の前の男はその権化みたいなものだ。
きっと誰もが思う。目が離せなくて、近寄りたくて、触れたくて……
そう考えてみると「全力で逃げて」はかなり難解だと思う。
自分ももはや、抗えないほどに蓮の魅力の虜になっているのだから。

そんな事を考えているキョーコの手を、蓮はそっと自分の手で包み込むように繋ぐ。

「最上さん、そろそろ行こうか?」

そして、扉へと導いた。
その声は本当にやさしくて、何故いま自分の手を繋いだのかとか、そんな事はすぐにどうでもよくなった。
蓮の体温の分だけ、幸せな温かさが胸の奥にプラスされたかの様で……
それはもう、ずっと離さないで欲しいとさえ思えた。

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とりあえず今回はキリが良いのでここまで。

コメント

コメントどうもありがとうございます!(もちろん拍手だけの方にも感謝☆)
さにーはこれでまた頑張って連載を続けられそうです^^

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>ちなぞさん

いつもコメントありがとうです^^
分かります!美味しいものはいくらでも入るものですよ!(←食いしん坊)
さあ、た~んと召し上がれ?(←Operetta 4増量中)
ちなみにこのお話の敦賀さんは『え?敦賀さんなのにヘタレてないの?』という感じで書いておりますw
但し、当サイト比なのが残念なところですw

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>りかさん

わ~い!コメントどうもありがとうございます!
そうそう、この話の敦賀さんはやる気十分ですよ~。
もちろん、セクハラ的な意味も含めてでございますw
写真も楽しんで頂けて良かったです。
まだ続きますのでお付き合いよろしくお願いしますね^^

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>水助さん

コーヒーのお供に私の文章どうもありがとうございます♪
やり取りが二人らしいと言って頂けて嬉しいなあ。
最高のほめ言葉です^^
空気は本当に違うよ。
街というより、現地の空港の匂いを嗅ぐと異国に来た!と感じます。
二人の今後の行動もお楽しみで~す。