Operetta 4 (Tempo2.0・sunny)
キョーコがパリに来た目的は、特別番組のナビゲーターを務める為だ。
敦賀蓮のパリコレの話題を中心に観光地を彼と一緒に巡るという内容で、本日最初の撮影場所はルーブル美術館。
その後、チュイルリー公園特設テントで行われているパリコレの模様を取材する。
ちなみにパリコレの会場は別の場所にも存在しており、蓮の所属しているアールマンディも公園内ではない。
ルーブルに向かって歩いていると、朝という事もあり出勤中の人と多くすれ違う。
旅行者にとっての特別な時間は、彼らにとっては繰り返される日常だ。
この辺りは所謂華やかな街並みでは無いが、少し古さを感じさせる落ち着きがありそれが良い。
二人はそんな風景を見ながら色々話をした。
この街の事だったり仕事の事だったり、何てことない会話にも時にクスクスと笑いながら、それは朝の小鳥のさえずりにも似ている。
蓮はこの街へは仕事で何度も来たことがあり、キョーコに比べると地理的な意味で詳しい。
初めて歩く道をくるくると表情を変えながら楽しむキョーコ、その手を引きながら迷うことなく導く。
しばらく歩くと、道路を挟んで目の前にはパリを象徴するセーヌ川。
そして、対岸にはルーブルが見えた。
「大きいんですね!それにもの凄く立派です!」
キョーコは思わず感嘆の声を上げる。
二人で横断歩道を渡るとさらにそれは近づいた。
「ルーブル美術館っていうけど元々は宮殿だからね。中に入ったらもっと凄いよ」
「え!本当ですか?敦賀さんは入った事があるんですか?」
「もちろん。今回は違うけど、会場がチュイルリー公園の時は時間があれば直ぐに行けるし。最上さんは好きだと思うよ?それこそ、お姫様がいてもおかしくない場所だし」
「うわ~!凄く楽しみです!」
そう言って目をキラキラさせる様子を可愛いなあと思いつつも、蓮はワザとらしく釘をさす。
「こら、そんなにはしゃがない。分かっていると思うけど、今日は仕事だからね?」
「もう、そんな事は敦賀さんに言われなくても分かってますよ」
頬を若干膨らませて不満げに言うキョーコ。
蓮は拗ねる様も愛おしくて、握ったままの手に少し力をギュっとこめる。
するとピクリと反応するものだから楽しくて仕方がない。
「ちょ、ちょっと敦賀さん!?なんで笑ってるんですか?それに手!いったいいつまで手を!?」
「ん?だって君、離すと逃げるでしょ?」
「逃げろって言ったのは敦賀さんじゃないですか!?」
「お嬢さん?人というのはとても矛盾した感情を持つ生き物なんですよ?」
「な!?た、確かにそういった面はありますけど……」
そう言いながら、キョーコはこの会話の中に先程の難解な言葉の意図が見つかるかもしれないと、その『矛盾』の糸を手繰ろうとする。
……が、考える前に蓮は答えらしきものを出してきた。
「どんな君も愛おしくて大好きで、その上俺は結構欲張りで、色んな君を見たいし欲しいと思う……つまりはそういった理由なんだよ」
「へ!?」
「大丈夫。君が全力疾走で地の果てまで逃げても、俺は先回りして待ち構える。だから君は安心して逃げると良いよ」
「敦賀さん……」
『敦賀蓮』としての穏やかさとは、また別の性質の笑顔をキョーコに向ける。
言葉の通り、自分が不安に思う事はきっと何一つ無いのだろう。
輪郭はなんだかボンヤリしているけれど、きっとこれは二人で楽しむべきゲームの様に感じた。
――さっきからの傾向から考えて、この追いかけっこのルールは敦賀さんの攻撃(?)をかわして逃げるって事でいいのよね?
それならばと、キョーコはそれに乗ってみることにした。
「敦賀さん。それは、つまり……俺の脚はすごく長いから、君ごときが逃げ切れるわけ無いだろ? と、いう意味合いでしょうか?」
「そんな訳ないだろ?」
「それともこづき回して遊ぶような狩玩具(こうさぎ)的な意味で?」
「君は村雨か!?」
「うふふ。敦賀さんって、案外イイつっ込みをしますね。私、ちょっと誤解していました。てっきりお色気担当かと」
「お色気担当って、君ねえ……。じゃあ、俺がつっ込みなら最上さんがボケ担当かな?」
「誰がボケやねん!」
「お、さすが元関西人。イントネーションが良いね。……ねえ、最上さん。そのうち夫婦漫才でもやろうか?」
最後のセリフは何故か耳元で熱を込めて。
考え方によっては未来まで視野に入れた意味深な言葉。
キョーコは自分の耳に手をあてて、真っ赤になりながら後ずさろうとするが……結果、繋がれた手によってそれは不可能となる。
それでもめいっぱい腕を伸ばして遠ざかる様を、蓮は楽しそうに見ていた。
――ぜ、前言撤回~~~~!!私には無理です!!なんであなたはそんなセリフまで艶っぽいんですか!?
「つ、つ、敦賀さんのばか~~!」
「うん。照れながら怒る君もやっぱり可愛いよね」
「手を離してくれないから、逃げることもできないじゃないですか~~!」
「いやだ。だって、俺は逃がす気が全く無いから」
――あああ~~!!!この人、一体どうしたらいいんですか~~~~!?
「し、仕事がどうのって言ってたのはあなたじゃないですか!?そんな事言っても仕事中は手を離さなきゃ駄目なんですからね!?」
「それぐらいちゃんと分かってるよ。でも、使うのは手だけとは限らないよね?」
「はい?え?ちょ、ちょっと敦賀さん?やっ……」
蓮はキョーコを熱のこもった視線で捕らえる。
着ている服よりも下に触れる様に、さらに胸の奥まで届くように。
――ちょ……ちょっと、待って!?
体温が上昇するような感覚に思わずキョーコの頬は色づき、「ふぅ……」と色っぽく小さな息を漏らしながら、蓮を横目で睨み付けて抗議する。
「人の事、そんな風に見るの……は、破廉恥です……よ……」
「そんな顔をする君こそ破廉恥だと思うけど……。まったく、どっちがお色気担当だ」
「な!?自分の事を棚に上げて!」
「それに視姦なら最上さんの方が得意だろ?」
「私のは観察だと何度も言ったじゃないですか。……あ、……あの、でも、本当に現場でそれは皆さんの前ではやめてくださいね?恥ずかしいですから……」
そこにいるのは、今すぐもぎ取って噛り付きたくなるほどに美味しそうなキョーコ。
冬の装いで露出が少ない分、見えている素肌の部分が強調される。
チラリとそれを見て少し気まずそうに目を逸らし、蓮は言う。
「君がそんな風になるのなら……絶対にしない。こんなの誰にも見せたくないからね」
「へ!?」
この時に彼の見せた表情は独占欲の欠片と可愛らしさ。
蓮の少しすねて困った様な表情に、赤くなった耳に、キョーコの心臓がこっそりはねた。
――ああ…さっきのセリフは自分も同じ。 どんなあなたでもきっと私は……
「えっと……最上さん。この橋、渡るから」
「あ!はい!」
そして、二人は橋に差し掛かる。
渡る橋はポン・デ・ザール。名前の通り芸術に繋がる橋。
パリ初の鉄製の橋で、芸術学校の学生が通う橋として ナポレオンの命令により建設された。
今ではすっかり様変わりしているのだけれど。
「うわ~!すっごい数の南京錠ですね!」
「うん、そうだね。ちなみにこれらの鍵はセーヌ川の中らしいよ」
「え!?そんなの捨てたらだめじゃないですか!?」
驚いた表情で真面目に答えるキョーコに、蓮はクスクスと笑って答える。
「うん。でも、これはただの南京錠じゃ無くて『愛の南京錠』だからね」
「また『愛』ですか。さすが『アムールの国』。今度の事務所のイベントで社長が喜んで取り入れそうなアイテムで……あ!でも、これ日本でもやってるところ見ますよね?」
「そうだね。ただ、大抵の場所は景観を損ねるからという理由で、禁止されているし撤去作業もされている。ここも前に全部撤去されたみたいだよ」
「そうなんですか!?でも、今はこんなに沢山……」
それは隙間が無いほどに……
物理的な重さだけではなく、愛の重みで橋がどうにかなってしまうのでは無いかと思うほどに……
「きっと『愛』は止められないってことだろうね。二人を阻むどんな障害があっても、永遠の愛を誓う者の前には無いに等しい」
「この一つ一つに想いが篭っているという意味かしら。離れたくない誰かが一緒だなんて幸せな事なんでしょうね」
「景観を壊すのは感心しませんが」と笑顔で言うキョーコの表情はとても優しくて、それこそ愛し愛される事を知っている者の顔。
蓮は思わず眩しそうに目を細める。
「なんだかラブミー部員の君とは思えない発言だよね?」
「うふふ。そうですね。ラブミー部としての私なら南京錠を引きちぎらんばかりでしょうね。永遠の愛を信じるだなんて愚かだと」
「今は知ってる?」
「そんなの知りませんよ。だって私はまだその扉を開いてないし、卒業だってまだなんですよ?」
繋がれた手はその先の幸せな道を予感させるけど、こんなに近くにいてもまだ二人は扉の前に立っている。
「どうせなら俺は物じゃなくて、君自身と鎖で繋がれていたいと思うけどね」
「じゃあ、今度こそ買いに行きましょか?」
思い出すのはいつかの兄妹ごっこ。
あの時も一緒に出かけるときは手を繋いでいた。
気づいた蓮はニヤリと怪しげに笑って答える。
「……いいね。だったら今度こそ一緒にお風呂に入ろうか?」
「け、結構です!!!!」
――朝だというのに、あなたは何度夜の帝王を召還するんですか!?
キョーコは堪らないと言わんばかりに、あわてて話題を変えようとする。
「と、ところで敦賀さん。そんなに『愛』の言葉ばかり語るだなんて社長みたいですよ?」
「君は……そのうち俺がサンバでも踊りだすと?」
「うっ……それは出来れば見たくないです」
「こら、変な想像しないの」
姿を想像したのか、心底ウンザリとした表情になるキョーコに蓮は言う。
「……これはね、きっと遺伝だよ」
笑って言うその横顔は、キョーコが知っている誰かにとてもよく似ていた。
「ちなみに、君ならここに誰と錠をかけたい?」
「モー子さんです!」(←握りこぶしで即答)
「……いや、うん……君はそうだよね」(←一瞬でも期待した人)
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あなた達、なんでまだルーブルにも辿り着いて無いのよ?
文章が長くなっちゃう~~~!ここはホテル企画よ~!
くそう、いちゃいちゃカップルめ…… orz
コメント
デートですね。ラブラブのお二人.次はルーブルでしょうか?それともパリコレ?
凄く楽しみです!
Posted by ナポリタンMAX at 2013年3月27日 00:26
>ナポリタンMAX
次はルーブルから……なんですけど、うふふ♪どんな角度から入っていこうかしら?
ちょっとモヤモヤと考え中です^^
こちらからも、コメントどうもありがとうございました♪
Posted by sunny at 2013年3月28日 20:55
拍手からのコメント、どうもありがとうございます♪
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>3/26 20:52 の方
お名前が無かったのですが、たぶんあの辺りの方かな?
コメントありがとうございます。
うふふ♪ニヤニヤしちゃいました?嬉しいです^^
そして、なんと!サンバな敦賀さんをご覧になりたいと!?
いや、勝手な想像なんですけど、敦賀さんは実は踊れるんじゃないかと思うんですよw
パリの色んな場所、私も二人には行って欲しい所が沢山あるんですけど、ホテルから飛び出しすぎはちょっとなあ~。と、今は出来るだけ我慢しておりますw
ところで、ナンパ橋(男性×男性)ってどれですか!? めっちゃ気になる情報!w
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>吟千代さん
コメントありがとうございます♪
暑苦しいコメント、むしろウェルカムですぞ☆
敦賀さん、もうちょっと時間とか色々考えなきゃだめですよねえ?
まったく、とんだ破廉恥ヤローですよw
挙句、お色気対決(?)で敗北です。きっとむしろ喜んで敗北に違いないですw
敦賀さんには、今後もどんどんアムールな方になって頂く予定でございます。
イチャイチャしたっていいんです!だって、アムールの国なんだもん♪
ちなみに私は、あちらでイチャイチャカップルを発見する度に、蓮キョ変換しておりました。
今こそそれを生かすときでございますw
Posted by さにー at 2013年3月28日 20:58