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お客様は神様です。 7 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

部屋に押し込められるように投げ入れられたキョーコは、扉を閉めた蓮に威圧され部屋の中に後ずさりながら奥に進んでしまった。


「つ・・つつつつつ敦賀さんっ・・なにをなさるんですか!?」


「ん?ナニ、して欲しいの?最上さん?」


笑っているのに怒りのオーラが、キョーコの肌をチクチクと刺した。

クイッとネクタイの結び目に指をかけながら笑う蓮は、初めて会ったときのようなピリピリとしたオーラを纏いキョーコの体を震わせた。


「違うか・・・最上さんがナニかしてくれるんだろう?お客様の要望を何でも聞いてくれる・・・優秀なコンシュルジュだからね?・・・あの男の要求にも答えるなら、今日は客で来た俺にも同様のことをしてくれるんだろう?」


「な、なにを仰られているのか・・・私はっ」


「『お客様は、神様』・・・なんでしょう?最上さん」



「っつ!!」


後ずさりした拍子に、倒れた先にあったベッドの上でキョーコは逃げ出そうともがいてみたがそれをあっという間に迫ってきた男に押さえ込まれてしまった。


「や、やめてください!!敦賀さん!!何か誤解されています!」


目を瞑り、心の底から抵抗の声を上げキョーコは蓮がすごく尊敬に値する人だと思い始めていたことを後悔しはじめた。


(この人が・・こんな人だったなんてっ)


悔しいのか哀しいのかわからないまま涙を溢して、圧し掛かってくる蓮の肩をぎゅうーっと押し返した。


「きっと、先ほどのお客様は私にお茶を立ててもらいたいと願い出るつもりだったんだと思います!!」


キョーコのすらっとした足に手を伸ばしかけていた蓮の動きが、その叫び声で止まった。


「・・・・・・お茶?」


「私が以前いた『松乃園』では、お客様に女将がお茶を立てもてなしする習慣がございますっ私のことも知っていたのできっとお茶を立てて奥様の気を落ち着かせたかったのだと思いますっ」


完全に仲居時代の口調に戻っていることなど気づかずに、キョーコは必死に抵抗しながら叫んだ。


「お・・・ちゃ・・・」


蓮はその言葉に毒気を抜かれたように、力なくキョーコから体を離した。


「・・・先ほどの方・・確か、婿養子でいらしたはずです・・・奥様と離縁されることは不本意でしょうし・・ご自分の立場がこれ以上悪くなるのを避けたいとのことだと思います・・・お部屋には奥様がいらっしゃっていますから・・・」


ご同伴されていた方は、一応事務所にて部屋がご用意出来次第ご案内するようにしておりましたから・・・。


「な・・んだ・・・・俺、てっきり・・・」


「・・・・敦賀さんは、私がそんな人間だと思われたということですよね?」


乱れた服装を直しながら、気丈にそう強めの声を上げると蓮は申し訳なさそうに髪をくしゃりと掻き乱した。


「違う・・ただ・・・急に頭に血が上って・・・君がアイツの言うなりになっているように見えたから・・」


「・・いいんです・・ただ・・・敦賀さんは、そんな風に見ないと思っていた私の勘違いです」


初めて会ったときのような壁が、二人の間に冷たくそびえ立った。
なんと言っていいかわからず、蓮はすまなさそうにキョーコを伺うとはずみで取れてしまったボタンを留めようとしていた。
しかし、指先は震えていて思うように出来ていなかった。


「・・ごめん・・・本当にごめん・・・」


蓮は居ても立っても居られず、その細い指を両手で包み込んだ。


「・・・っひく・・敦賀さんっ・・はっ・・・私のこと・・認めてくれていると・・思ったからっ」


その蓮の手の甲に、キョーコの頬を伝って降りてきた涙が一つ・・二つ三つと零れてきた。


「認めてるよ!・・それどころか・・君を尊敬している・・・自分のことだけで一杯だった俺よりもずっと周囲を見て、人を育て気を配って・・・それなのに・・俺が勘違いしたから・・本当にごめん」


ぐずっと鼻を鳴らしながら、キョーコは何度も謝ってくれた蓮を見上げた。
真剣な表情の蓮と視線が絡み合って、二人は言葉をなくした。

考えるより先に体が二人を引き寄せた。


『キョーコ!茶室の用意できたわよ!!早く支度して!?』


「「!!」」


キョーコのイヤホンから女性の大絶叫が聞こえ、あと数十ミリのところで唇を重ねそうだった二人は勢い良く離れた。


「う、うん!!直ぐ行くっ」


先ほどとは違う震えが襲う指先は、冷たかったのに火を付けられそうなほど熱くなっていてキョーコは現実に引き戻った途端バクンバクンと鳴る心臓に目を回しながらも蓮に一礼した。


「そ、それではっしっ失礼シマスっ!」


よたつく足を何とか動かし、壁に激突しながらもキョーコは蓮の部屋を飛び出していった。

部屋に残された蓮は、自分の行動に目を丸くして口元を片手で覆っていた。


「・・・うそだろ・・・俺・・・」



***************


その後、茶室では和装に着替えたキョーコが見事なお手前で騒ぎの男とその妻にお茶を振る舞いホテル内の騒ぎは一件落着したように思えた。

茶室を出たキョーコが、見学に来ていた蓮の姿を見て頭を噴火させなにやら人外の言葉で謝って逃げ出すということを除いては・・・。




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コメント

ヘタ蓮様どじりましたね。
邪なやきもち?が出たため、キョコちゃんを襲いかけてしまって。信用度0になってしまったのではないでしょうか?汚名挽回できると良いです。

ドジりました(笑)
先回りしちゃいましたね~

信用度は限りなく0ですね(;_;)

それ以外にも障害があるため困難を極めそうですが・・・