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お客様は神様です。 6 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

「予約していた、敦賀です」


「お待ちしておりました・・お部屋へご案内いたしますね?」


プレオープンのパーティーが開かれる1時間前になってようやく蓮はLME hotelにやってきた。

簡単な宿泊用のカバンを、受け付けたキョーコが笑顔と共に持ち部屋のカードキーを片手にエレベーターホールに向かった。


「今日の宿泊名簿を見て驚きました・・パーティーにだけご出席なさるのかと思っていたので」


「紹介するには実際に泊まった方が実感を伝えられるだろ?」


降りてきたエレベーターに乗り込み、会話を弾ませる。


「なにか足りないものや追加して欲しいものなどございましたら、是非ご意見を下さいね」


「もちろん・・・あ、明日の打ち合わせは・・」


「え!?お仕事でご宿泊されるのに・・明日直ぐにお仕事されるんですか?!」


目を丸くするキョーコに、蓮も驚いた顔を見せた。


「仕事・・詰まってるし・・・・・そんなに変?」


「・・・・いえ・・私もお仕事好きなので同じようなものですが・・・今日のパーティーも遅くまであるのに、すごいな・・って」


「そうかな・・・最上さんはパティーには出ないの?」


「出る・・というか・・・接客の方で会場にはいます・・今日は夜勤もしますので・・・なので・・・明日は昼からお休みなんです」


申し訳なさそうにそう伝え蓮を見上げてくるキョーコに、蓮は口元が緩んだ。


「ぷ・・・謝らなくていいのに・・・そういうことなら明後日打ち合わせをしようか・・・最上階のプレミアムスイートを限定価格で出してみたいんだけど」


「はいっ、日付などをお調べしておきますね・・・あ、こちらのお部屋です・・・」


「ありがとう・・」


話しているうちに着いた部屋の扉を、先にキョーコが開けると蓮は礼を言いながら中に足を踏み入れた。

一般客が一番利用しやすいジュニアスイートの部屋は、ツインベッドと小さなテーブルに二人掛けソファーが置かれているが狭さを感じさせない少し広めの設計となっていた。


「うん・・落ち着く・・・調度品も配置がいいね」


蓮はすぐさま、部屋のチェックをし始めた。
その様子に、キョーコは思わず笑みを溢した。


「・・なに?・・なんか可笑しかった?」


蓮は少しスネ気味にそう訊ねると、キョーコは楽しそうに首を振った。


「いえ・・本当にお仕事が好きなんだなって」


ほわっ・・と微笑んだキョーコに蓮は、顔を少し赤くして逸らすように外の眺めをチェックし始めた。
その様子にも笑顔を溢し、キョーコは蓮の荷物をクローゼット横ある荷物置き場に下ろした。


「それでは、なにか御用がございましたらそちらのお電話で内線010におかけ下さい・・こちらに館内の案内などもありますので・・・ではまた後ほど・・」


キョーコは流れるように案内を終え、頭を深々下げると部屋を出ようとした。


「あ・・まって」


蓮が何か言いたそうにキョーコを引きとめようとした瞬間、キョーコの片耳に付けられていたイヤホンから何か音が漏れた。


「!?・・・直ぐに行きます」


キョーコは、胸に着けていたピンマイクに向かって小さく返事をするともう一度蓮に頭を下げた。


「待って・・・何かあったの?」


「・・・・ちょっと・・すみません、なにかありましたら私の代わりの者が対応しますので・・・失礼します」


ちょっと・・にしては険しい顔つきになって部屋を出て行ったキョーコが気になり、蓮はその後を慌てて追ったのだった。




*************



「あっ!最上チーフっ」


今にも泣きそうな表情でフロント係の青年が、到着したキョーコに縋りついた。


「すみません!!俺がうかつに口を滑らしたばかりに・・・」


「謝るのは私じゃなくてお客様によ・・説明して?」


冷静にパニックになっている従業員を嗜めたキョーコは、今の状況の確認をした。

今回の招待客の男性が、女性と同伴で宿泊されていたのだがフロントにその妻と名乗る女性が現われ旦那の宿泊している部屋の鍵を所望してきた。
フロント係の青年は、同伴されていた女性だと思いその鍵を渡してしまった。

同伴していたのは、その妻ではなく愛人だったとは知らずに・・・・。

愛人との時間を楽しんでいた男性の部屋に妻が乗り込んできて、ただいま修羅場状態になっているという・・・。


「・・・とにかく、直ぐにもう二つ別の部屋を用意しましょう」


「ですが・・満室では・・」


「大丈夫、空き部屋はちゃんと作ってあるから・・・そこの用意をして・・・お客様には私から謝罪するから・・一緒に来て」


「は・・・はいっ・・」


背筋を正し、前を見る凛々しいキョーコの姿に青年だけでなく付いて来た蓮も目を見張った。


(本当に・・・さっきまであんな笑顔を見せていた子とは思えないな・・・)


可愛らしい笑顔を見せたかと思えば、精悍な表情に変化させて周りを取り仕切る有能なチーフになる。
一瞬でも目が離せない。

そんな感情が湧いて出てきていることに、蓮は途惑いながらも事の成り行きを見守った。


「一体、どういう教育をしているんだ!!!!」


先ほどまで真っ青になっていた男と同一人物とは思えないほど、妻と愛人との対決で逃げるように出てきた廊下で顔を真っ赤にして男は怒号を上げた。


「招待されたから来てみればこんな恥をかかされてっ・・宿泊客の情報を漏らすのがこのホテルの売りなのか!!!??」


元はといえば、仕事絡みのホテル宿泊の招待で愛人を連れてくる男の方に非があるような気がするのだがそんな怒りをキョーコは平身低頭で心の底から詫びた。


「私どもの不手際でお客様には、多大なご不興を買ってしまい申し訳ありません」


「そんな下っ端ばかりに謝ってもらったってこっちの怒りは収まらないんだよ!上役を呼べ!!」


「・・申し訳ありません・・上司の椹は本日のパーティーの準備のために、こちらに来るのは8時過ぎになると受けております」


「だからっアンタじゃ話しにならないっコンシュルジュだかチーフだか知らんがっ早く上役を呼べ!!!」


呼びに行ってはいるが、なかなか連絡が取れないため客はさらに怒りを増して頭を下げているキョーコの肩を掴んで顔を上げさせた。


「!」


キョーコの体がぐいっと無理やりそり返されたのを見て、蓮は咄嗟にその体を後ろから支えた。


「!?・・・敦賀・・さん?」


キョーコが男を睨みつけながら自分の体を転ばないように抱きとめてくれた蓮に驚いていると、キョーコを突き飛ばした男は蓮の眼光に怯んで少し冷静さを取り戻しキョーコの顔をマジマジと見つめた。


「・・・・アンタ・・・もしかして・・・『松乃園』の若女将・・・か?」


漏れるように訊ねられた男の言葉にキョーコは、びくりと体を震わせた。


「やっぱりそうか!一度お披露目の時に見たことがある!・・・あそこの接客のモットーは確か・・・『お客様は神様です』・・・だったな?」


きゅ・・っと唇を噛み締めているキョーコの表情を見て、男はにやりと笑った。


「ちょうどいい、上役がダメならアンタに相手してもらおう・・今すぐ部屋に来てもらおうか」


口元をにやりと曲げた男の言葉にキョーコは小さく頷いた。

その途端、キョーコの体を支えていた蓮が抑えていた怒りを顕にした。


「重役にどうしても話しがあるなら・・・俺が聞きます」


「・・・・・・ああ?・・誰だアンタ」


「敦賀さんっ、私は大丈夫ですから・・例え本社の方でも・・・」


キョーコはフルフルと首を振ったが、蓮はキョーコの体から手をそっと離し前に立った。


「LMEコーポレーション社長の宝田は俺の叔父です」


「・・・・え?・・」


蓮の言葉にキョーコも、男も目を丸くした。


「もちろん、共同経営のヒズリ・グループの総帥は俺の親父です・・こちらの不手際です、俺から上に直接申し伝えます」


突然現われた重役に男は顔を引きつらせた。


「い・・いやっ・・・」


「じゃ、話はないんですね?君、部屋が用意できたらご案内して」


「は、はいっ」


フロント係りの青年に指示を出し、呆然としているキョーコの腕を掴んで蓮は引きずりながらその場を後にしようとした。
しかし、キョーコは意識を浮上させると蓮の手を振りほどいた。


「いえっ、私がお部屋へ伺います!直ぐ支度しますのでっ」


男に駆け寄って、キョーコは頭を下げた。
その行動に蓮は、言いようのない怒りが込み上げた。


「最上さん、来て」


「へ?!ちょっ」


キョーコが強引に連れて行かれた先は、先ほど案内した蓮の部屋だった。




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コメント

お仕置きされるにはまだまだ親しくは無い様ですが、危険を感じた蓮様がキョコちゃんを使いたくなくて自分の部屋に呼び出ししたのですよね。
これはこれで、危険な気もします。

美音さん

コメントお返しが遅くなり申し訳ありません!

まだ、ちょっと他人行儀ですが最初に比べれば随分とよくなった・・かな?

確かに、お仕置きでは親しすぎますもんね・・・でも、強制ラ☆チしちゃうほど気にかけてきてはいますね。

うふw危険・・・かもしれません。きゃw

またもや長くなりそうですが、チマチマ進めますのでお付き合いいただけると嬉です♪

ユンまんまでした。