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Operetta 2 (Tempo2.0・sunny)

「おはよう、最上さん」

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翌朝の7時、ホテルのブレックファーストルームにキョーコはいた。
品数の多さにテンションがあがったのか、実は農業国であるフランスの肉類と乳製品の美味しさにやられたのか、普段よりも多めの食事をとっていた。
朝食は一日のエネルギー源。腹が減っては戦は出来ぬと言うではないか。
特にレバーパテは美味しくて「自分で作れないかしら?」と、何処ともなく空を見ながら頭の中で調理手順を考えていた時に、先ほどの声は正面から不意に聞こえてきたのだ。

そして現在、キョーコは目の前の人物をロックオンしたまま絶句し停止している。

「最上さん?」
「……」

なぜこの時間にこの男が自分の目の前にいるのだろうか?
昨日の女性は「明日また迎えに来ますから」とは言っていたが、確かに本人が迎えに行くとは言っていなかった。
そうだとしても、まさか今回の仕事の共演者である敦賀蓮ともあろう人が、自ら迎えに来るという事態はどう考えてもおかしいにも程があるし、時間だって早すぎる。
『最上さん』となおも呼びかけるその声にキョーコはすっかり現実逃避したくなったが、自分の事をパリで『最上さん』と呼ぶ者は、朝から無駄に色気を垂れ流しどんな朝日よりもキラキラしている者は、美の女神さえも裸足で逃げ出すどころか勢い余って恋に落ちそうな者は、目の前のこの人以外に全くもって心当たりが無い。

という事は……

「すみません。私、まだ実は寝てるのかもしれません。敦賀さんが目の前にいるなんて……」
「いや、俺だけど?」
「いえ、いくらなんでも、こんな時間にわざわざホテルにまで来るだなんておかしいですよ?敦賀さんは確かにたまに想像もつかない行動をする事がありますけど……」
「それを君が言うのか?」
「私、きっと時差ぼけとか寝不足だとかそんな感じで、本当はまだ寝ていて夢でも? きっとそうだわ、昨夜はたくさん敦賀さんの事を考えちゃったし……」
「へ~、そんなに俺のことを?」
「そうですよ。……あ、そうだ。仕事にはまだ時間があるから、もう少し部屋のベッドで寝てきま……


「じゃあ、一緒に寝ようか?」


その言葉を聞き、キョーコは今度こそ本当の意味で明確に視線をばちっと声の主に合わせる。

「つ……つる……敦賀さん?」
「ん?何?」
「何故にここにいらっしゃるのですか?」
「君が昨晩、俺の事を沢山考えてくれたからかな?」
「何故その事を!?」
「う~ん、なんでだろうね?きっと俺も君の事ばかり考えてたから伝わったのかもしれないね」

もちろん今しがた、キョーコが自らうっかり白状したから得た情報だ。
そう言って蓮が極上の笑顔を向けるものだから、キョーコの頬は一気に染まる。
恥ずかしくて、視線をはずして、それでもどうしても蓮の事が気になって、チラりとこちらを見ているその様子に、蓮は愛おしさを隠しきれずに思わず視線が蕩ける。

「そ、そんな目で見ないでください……」
「君を愛おしいという気持ちを隠せと?」
「は、恥ずかしいですし、他に人がいます……ので……」
「ふ~ん。ねえ、最上さん。フランスってどんな国か知ってる?」
「はい!?」

この会話の流れでどうして質問なのか?と、キョーコは少し拍子抜けしたように顔色を戻す。
しかし、逃げ出してしまいたいほどの恥ずかしさを味わったキョーコは、内心ありがたいと胸をなでおろし、先ほどに食事をしながら自分が考えていた事を蓮に言った。

「えっと、農業国ですよね?西欧最大の。それに芸術の国でしょ?それから……」
「違うよ」
「へ!?」

間違いようが無い自分の答えを否定されて、キョーコはやや間抜けは声を出して驚くが、蓮はかまわずニッコリと笑い言葉を続けた。


「アムールの国だよ、最上さん」


そのなんという意味深な響き。
自分が蓮に強く望まれている事柄の輪郭が浮き彫りになり、キョーコは今度は湯気が出るんじゃないかという程に赤くなった。

「ア、アムールって!」
「うん。ウチの社長が永住しそうな国だよね」
「いや!そうなんですけど!そうじゃなくって!」

蓮は日本を経つ前にその想いをキョーコに伝えていた。
理由は色々あったかもしれないけど、自分の中の入れ物が溢れてしまい、素直に言葉が出たというのが真実だ。
そして、それを受けたキョーコは以前の様に拒絶反応を示すわけでなく、ちゃんと告白を受けた乙女の表情で戸惑いを見せてくれた。
彼女の中に恋をする準備が芽生えている事に喜びを得た蓮は、我慢できずにそれでもそれ以上はギリギリのところで堪えて、ギュッと抱きしめた後にあのセリフをキョーコに言ったのだ。

「大丈夫だよ」
「え!?」

キョーコと視線が合う。

「答えを聞きに来たわけじゃないから」
「で、でも……」
「ただ、君に一秒でも早く会いたかったんだ。答えは君が帰国するまでに聞かせてくれたら良い」
「敦賀さん……」

その言葉にキョーコは少し冷静さを取り戻す。
しかし、最大出力の笑顔で発せられた次の言葉に、またしても坩堝に叩き込まれるのであった。

「だからね、最上さん。俺から全力で逃げてね?」
「はい??????」


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敦賀さんが勝手にそんな事いうから私も大混乱ですよw
という訳で、まだ続きます。

コメント

初めまして、最近こちらにお邪魔させていただいてます
ナポリタンMAXと申します。
写真も文章もとても素敵ですね。
テンポが良くて、キョーコがキョーコぽっくて最高です。
「それを君が言うのか?」
は、思いっきり吹き出してしまいました。

素敵な作品をありがとうございます。
続き楽しみにしていますね。

>ナポリタンMAXさん

はじめまして。コメントどうもありがとうございます。
素敵と言って頂けてとても嬉しいです^^
キョーコっぽいとのお言葉を聞けてホッとしております。
だって、書きながらいつも不安だったりする点なのですものw
今後の展開でも二人をノリよく楽しませてあげたいな♪

それでは、これからもよろしくお願いしますね^^

お二人ともコメントありがとうございます^^

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>ちなぞさん

フランスからイタリアwww
いや!すっごく分かります!
イタリアの方がドストレートに愛を語る感じですよね?
ちなみに若いころに初めてイタリアに行ったとき、現地の親父に口説かれた事を思い出しました。
「君は僕の太陽の様だ」とか……まさか、本当にそんな言葉を言う人がいるだなんて、ある意味衝撃的でしたともw(←しかも会ったばかり)
おっと、脱線しました!
とりあえず、敦賀さんには是非愛を大いに語ってもらいたいな~という事でw

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>水助さん

ほろ酔いでいらっしゃいませ~♪
会話を楽しんでいただけて良かったです。
あの辺りは考えるの楽しかったのですよ~。
「逃げてね?」とか言ってるけど、あの人逃がす気ゼロですからね?www
まったく不思議な事を言うものですよw(←いやいや、自分で書いたんだよね?)
続きもお楽しみです♪