spicy for you 後編 (こぶたのヒトリゴト。・マックちゃんさん / Tempo2.0・sunny)
まるでアロマオイルを炊いたかのように、スタジオ内は香水の臭いが充満していた。
この手の撮影ではよくある事だ。
最近では店舗の中でもこんな風に香水をぶちまけておいて、そいつがどこの店に入ったのか一発でわかるようにしているブランドもあるくらいだからな。
だが、俺はこの手法を好きになれない。
香水は人の体温や体臭と混ざり合って、その人の醸し出す空気と同調して。そこで初めて本領を発揮できると思っている。
こんなルームフレグランスみたいな安っぽい使われ方、人間の為に作られた香水が可哀想だ。
だから撮影を始める前に空気の入れ替えをさせて、俺はパブリックスペースへ逃げていた。
しかし逃げていたお蔭で、撮影前からとても面白いモノを発見できたと思う。
女性誌で「抱かれたい男性」に例年選ばれる人気俳優の、一方通行な初々しい恋心。
その男に想いを寄せられるも恋愛方面の感覚が壊死しているのか、鈍感を通り越した女の見事なフルスイング。
しかし演技に紛れ込ませた男への思慕は、カメラのレンズを通して俺に強く訴えかけてくる。
“叶う事はないけれど、でもそれでもいいの。傍にいられる今が倖せ。”
―――本当に、それでいいのか?
俺はこの娘がどんな風に成長していくのかを、もっともっと見ていきたいんだ。
身体的な成長も、演技力も、恋も。
その総てが女優「京子」を作る糧だ、勝手に天井など決めてかからないで欲しい。
それに、今はバラバラな方向を向いているこの二人の想いが重なる時、そこに一体どんな作品が生まれるのか見てみたい。
二人への野次馬的な好奇心と、クリエイターとしての純粋な欲求。
ふたつの大きな欲がこの胸を予想以上に熱くさせ、拡声器を取る手も震えさせた。
「よし、始めるぞ!!」