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君に酔う (Tempo2.0・sunny)

暗めの店内。
カウンターに在るのは、植物をモチーフにしたアール・ヌーヴォー様式の照明。
曲線が柔らかで艶やかな印象のそれは、この場の雰囲気を演出してくれるものの一つ。
そして、ズラリと目の前に並んだ様々な瓶達は、それぞれの個性を主張し人を誘惑する。
何故なら、中に入っているものは人々を酔わせるものなのだから。





「凄く雰囲気のいいバーですね」
「気に入った?」
「はい!」

店内を見渡しながら、好奇心を隠しきれない声色でキョーコが言う。

「私、お酒を飲む場所ってもっと賑やかなイメージでした」

二人のいる場所は落ち着いた時間の流れるバー。
ドラマの撮影の関係で滞在しているホテルの最上階にあり、キョーコは蓮に誘われてその場所に来た。
キョーコの思うお酒を飲む場所のイメージといえば『だるまや』で、慣れ親しんだあの場所の温かさも大好きだけれど、この高い場所から見える夜景は宝石箱を覗き込んだみたいにとても美しく、キラキラとしたものが大好きなキョーコの趣味にもとてもよく合う。
そして……いつもと違う大人びた場所の雰囲気がキョーコの心を高揚させ、同時に緊張もさせる。

――それは、隣にいる人のせいもあるんだけど

隣にいる蓮に目を向けると、彼は目の前のバーテンに何か話している。
キョーコには聞こえない程度の小さな声でひっそりと。

――大人の内緒話って感じで、なんだかドキドキしちゃう

自分なんてつい最近大人になったばかりなんだもの。と、キョーコは思う。
拗ねている訳ではない。
いつもと違う場所では、横にいる男の魅力に当てられて仕方がないというだけ。

――落ち着かない

これはきっと予感だ。
逃げ出さないのは何かを期待しているから。

――でも、何を?

答えを探すことは、暗い穴を覗き込むことに似ている。
底が見え無くて怖いのに、何があるのか気になるし知りたいと思う。
好奇心とは本能だ。


「さあ、どうぞ?」


蓮のその声にキョーコは我に返る。
自分の前にはグラスに入った綺麗な液体。
これにはきっと魔法がかけられていて、
飲み干したら捕らわれて後戻りできない。
でも、

――今更、きっと手遅れ

キョーコがコクリと一口飲んだとき、蓮が口元に弧を描いたのを目の端にふっと見た気がした。





「すごく綺麗ですね……」

二人のグラスは数度目の空。
酔いが回り柔らかくなったキョーコは、頬杖をつきバーテンの鮮やかな動きをじっと眺めている。
無駄のない洗練された仕草は、確かに誰の目から見ても美しい。

「凄く美味しかったし、綺麗だし、作っているところも素敵だなんて…」

良いところに連れて来てくれてありがとうございました。と……フニャリと可愛らしく笑うが、キョーコの視線はそのままバーテンに注がれている。
そこにはすでに緊張の欠片も見つからず、アルコールのせいで潤んだ瞳は目にしたものを蕩かせるほどに色っぽい。
そんなキョーコの様子を、酔いの足りない蓮は先ほどからじっと見ている。

――これは、少し面白くないよね?

そう思いながら気づかれぬようにクスリと笑い、キョーコに意識を集中して静かに言う。

「ねえ、最上さん?」
「はい」

思惑通り、返事と共にキョーコは視線を蓮に。
そして、慎重に罠を張るかの様に言葉を続ける。

「俺もね…カクテルを作るのは得意なんだよ」
「そうなんですか?」
「飲みたい?」
「ぜひ!」

――ああ、疑うことを知らないってなんて可愛いんだろうね

「じゃあ、これから俺の部屋においで」
「今からですか?」
「そう」
「でも、道具とか材料は?」

そんなもの蓮がわざわざ持ち歩いているとは思えない。
バーテンの操っていたものを頭に描きながら、不思議そうに問うキョーコ。
蓮はそれに対して意味ありげな妖艶な表情を浮かべる。

――道具なんて

「今日は必要ないよ」
「え?」

「君と俺が居ればそれで十分だから」

――君のためだけの極上のカクテルを飲ませてあげる

夜はまだ長い。
その長さの分だけ、二人で酔いを楽しむ事ができる。

蓮はそんな気持ちを込め、キョーコの手をそっと捕らえて店を後にした。

コメント

LME HOTEL オープンおめでとうございます(*^o^*)
皆さんのお話どれも素敵で、まるでロビーのゆったりソファに座って
目の前で繰り広げられるドラマを見ている感じです。
これからも楽しみです(≧∇≦)

ああ、大人になったキョコさんw
酔った彼女は色っぽいんでしょうねぇ。

部屋に誘い込んだ蓮さんのいうカクテル。
飲み終わった翌朝まで、酔いが冷めないことを祈るばかりです。
(冷めてたら、絶叫スタート?)

このお話、とても素敵なので、続きも読めると嬉しいです。

なんというお洒落な情景…!
敦賀氏にはもちろん、美人度二倍増しに成長したであろうキョコさんにぴったりです(*´ω`*)あー!バーにいきたーい!←

しかしなんですか、もう、夜の帝王全開なその危険な発言w
堂々尻出しても許されてしまう(←)彼は最強だと再確認です(`・ω・´)

艶っぽい大人なお話、ご馳走様でしたー!(∩´∀`)∩

バーテンダーさんにヤキモチ妬く蓮さんがw
お部屋にお持ち帰りされて、どんなカクテルが待ってるんでしょうかね~?
是非しっかり、たっぷり酔っぱらって2人きりのお部屋で色気を振りまいて欲しいものです♪(蓮さん大喜び!)

みなさまコメントどうもありがとうございます^^

>起承転結さん

ありがとうございます^^
企画を楽しんで下さっている様で私も嬉しいです。
これからも頑張りますね♪


>魔人さん

カクテルってなんでしょうね?w
深読みしていただいてもOKですよ。
続きはどう考えても桃色一色です。
書けそうだったら書きますね。(でも、予定は未定状態w)


>えみりさん

ありがとうございます。(というか、いつもありがとうございます^^)
私も書きながらバーに行きたくなりましたw (酒のみたい~)
夜の帝王の発言はやばいですよ~。
カクテルの意味は複数考えました。
ええ…どれもそっち方面ばかりです。
さすが世の読者様に尻を見せつける男w(ちょっと違う?)


>霜月さうらさん

さあ、どんなカクテルが待ってるのでしょうねえ?(とぼけてみるw)
夜の帝王、狙った獲物を捕まえるのは全力でw
お部屋ではたっぷりの桃色展開が待っていることでしょうね。
でも、キョコちゃんが途中で寝ちゃって、お預けという展開も捨てがたいですw