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近衛監督の懊悩 (自家中毒・みねさん)

※Act.198つづき妄想ネタです

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 僕は今、ヒールさんが滞在してるホテルに来ている。

 前に来た時から10日も経ってないけど、訊いておかないと……

 そう…

 首スジのアレについて。←彼は今、顔面蒼白です


 開いたドアの隙間から白とピンクの頭が見えた。

「誰?」


 この毒々しさ…雪花さんのほうか
(※彼女の切り替わりにはもう動じません)

「こんばんは 近衛だけど…お兄さんはいるかな?」


 ドアごしの目が細くなると同時に険が深くなった。

 ロックを外す音がして、雪花さんの足音が小さくなる。

 ……勝手に入れってことかな?


「おじゃまします」

 まあ、意味が違うにしても、二人の正体を知っている僕にキレる演技までしないだろう。


 雪花さんはもうカイン・ヒールのいる窓際まで歩を進めていた。
 室内に入ってきた僕のことを咎めるどころか、こっちには見向きもしない。

 お兄さんにしか関心がない雪花さんらしいっていえばらしいけど。


"兄さん xxxx come xxxx"

"xxx xxx xxx it's fxckin' xxx xxxx xxxx"
(※一部は英国紳士にあるまじき単語のための伏字)

"Yeah..."


 僕は英語ができないから正確にはよくわからないけど……

 雪花さんが窓際でタバコをふかしていたと思われるヒールさんに話しかけた。

 彼は、彼女が近づいてきたのに気づいてタバコを消したけど、立ち去ると同時に新しいのに火をつけた。←副流煙防止

 そして聞き取れた単語からして、こんな感じのことを言っていたに違いない。


"兄さん 監督が来てる"

"放っておけ どうせ仕事に関係ないクソな話だろう"


 雪花さんによる通訳はこの一言だった。

「一服してるから待ってろって」

 うん…「リラックスしてるところを邪魔しやがって」ってカイン・ヒールの不快感抜きで内容を言えばそうなるよね。


「あの…今日はこの部屋でもヒール兄妹のままなのかな?」

 今までは、敦賀君と京子さんに戻ってくれていたのに。彼らのままではコミュニケーションが取りにくい。
 カイン・ヒールにいたっては言葉もほとんど発しないし。


「アタシ達は、生まれたときからアタシ達だけど?」

 侮蔑を隠そうともしない様子で答える雪花さん。


 僕と一緒に座って待つこともなく、クローゼットのほうへ戻っていった。
(※素なら、彼の話相手をしているところです)

 どうやら明日着る服を選んでいるみたいだ。


「京子さーん できたらいつもの状態で話したいんだけど」

 素に戻ってほしいという意味もこめて呼びかけても無視。


 どうやら今日は雪花・ヒールで通すつもりらしい。

 なんで?と訊いても今は答えてくれなさそうだ。

 僕はいたたまれない気分を味わいながらカイン・ヒールを待った。
(※ひきつった表情でソファーに背中を丸めて座っている状態です)

 ※

「今回来たのは、あの、やっぱり確認しておかないとまずいかなって……」

 彼は酒缶をいくつか持ってきた。そして僕に勧めることもなく一人だけで飲んでいる。

 やっぱりそうか。敦賀君も今日はカイン・ヒールのままだ。


 回りくどい言い方をすると律儀に怒る演技をされそうなので、単刀直入に本題に入る。

「首スジのことなんだけど…誰が付けたの?」


 相手が京子さんでも困るけど、カイン・ヒールを演じるあまりに、ゆきずりの女性と火遊びをしたなんてことだったらもっと困る。

 だから、一応訊いておくことにした。

 敦賀君に戻って「マネージャーにでも付けてもらったんですよ」とか笑いながら言ってくれないかなと思いながら。
(↑それ、読者が笑えないです近衛さん)


 いつの間にか雪花さんも側に来ていた。僕に向かって不敵な笑みを向けると、ベッドに座っていたお兄さんの問題のアレを撫でる。

「や、やっぱり…ソレ…雪花さんが付けたの?」


 答える言葉はなかった。

 けれども、同じように笑ったカイン・ヒールがその細い腰へと腕を伸ばすと、彼女も座った。
 彼の脚の上に。そこが当然の場所であるような自然さで。

 服を選んでいる最中だった彼女はラメがかった黒のベビードール姿。
 座った時点で脚が目立って、うっかり目がいく。


「あの…雪花さん…言いにくいんだけど……そこまでリラックスされると、その、目のやり場に困るんだけど……」

 努めて彼女の顔のほうに目線を向けながら今の際どい状態を指摘する途中で、なにやら温度が下がった。

 冷気がするほうへ何気なく視線を上げる。


「ヒッ…!」

 人って本当に怖いときは悲鳴なんてあげられないというのは演出家として知っている。

 けど、彼の瞳を見て初めてそれを体感した。


 こっ…こここ殺される?!



「どうです?わかっていても血の気が引けるでしょう?」

 怒気に満ちた絶対零度の視線に射抜かれてから数秒後、クスクス笑うのは紛れもなく敦賀君だった。


「うん 冷や汗が止まらなかったよ」

 僕はまだ残る恐怖に身震いしながらそう肯定した。
 武者震いってやつだ。

 なるほど。これが新しいカイン・ヒール…いや、ヒール兄妹か。


「兄妹の妖しさがアップしてるよね ラブラブすぎて、見てるのがいたたまれなくなるくらいだったよ」

 すると、僕の感想に敦賀君はにんまりと笑った後、口を開いた。

「全てが演技というわけでもないですから」


「え」

 僕が敦賀君の婉曲的な言葉の意味を理解するよりも先に、目の前で直接的な行為が展開される。

 横にいた雪花さんを抱きこんで首スジに吸い付くなんて濃厚なラブシーン。


「もうっ!いきなり跡つけるのはやめてよ」

「今の京子は雪花・ヒールだろう? 堂々としてて問題ない」

 ぷりぷりと怒る京子さんに妖艶な笑みで応じる敦賀君。


 僕、いるんだけど。見えてないのかな……

 ていうか、これは素?ヒール兄妹?どっちなの??


「ちゃんとコレが映える服、選び直さなくちゃいけなくなったじゃない!!」

 怒るトコそこなの?雪花さん!?
(※どうやらヒール兄妹らしいと認定しました)


「大丈夫だ お前は何着ても可愛いから」←真顔です

 うわあ…なんてキザなセリフ!

 カイン・ヒールって普段そんなこと言っちゃってる設定だったの!?
(※表現が直接的なのが敦賀蓮との違いです)


「嫌よ!勝手なことシたから、今夜はナシ!!」

 えええ!? 今のはもしかして、爆弾発言!?
 「今夜はナシ」が示すものが、首スジのアレ(←いまやおそろい)が付くようなアレ以外に思いつかないんだけど!!?


「嫌だ」

 そう言ってヒールさん?が雪花さん?を抱きかかえ、奥のほうのベッドへ向かって歩いていく。


「つ!つつつ、敦賀君?演技はもういいから!!」
(↑もう冷や汗なんて気にする余裕はありません)


 僕の言葉に敦賀君?は顔だけ半分振り返った。
(※ちなみに彼女はミャアミャア文句を言いながら腕のなかで暴れています)

 ……さすが役者。目線だけで「もう帰れ」って言ってるのが分かる。


 茫然とする僕の前で、彼が彼女をベッドの上へ乗せて自分もその上に乗る。

 その後にどんなシーンがあるのかなんて分かりきっている。


 It is ベッドなシーン


「やめてええ! そんな徹底ぶりは求めてないからあああああ!!!」

 叫ぶ僕の眼前に見えたのは暗闇と僕自身の腕。

 周りの静けさに冷静になって見てみれば、そこは見慣れた僕の寝室だった。


「ゆ…夢、だったんだ……」

 そうだよね。あの敦賀君がバレたら大スキャンダルに発展するようなこと実際にするはずはないよね。

 アレだってマネージャーじゃなくて京子さんが付けたにしても、ヒール兄妹としてのリアリティを出すために違いない。

 ※

 みんなが黙り込んだ。正確に言えば凍りついた。
 出演者、スタッフ、あの村雨君まで。


 そのなかを彼らは悠然と横切っていく。
(※ちなみに本日も40分ほどの遅刻をしています)

 彼らの首スジには跡が付いていた。
 それを堂々と衆目に曝しながら、二人は何くわぬ顔でいつもの控え室へ去った。

 しっかりと指を絡め合うようにして手を繋いだまま。


 今スタジオは、沈黙の反動で「妹にもついてるうぅぅ!」とか「もう嫌だあの兄妹!」とか悲鳴があがって大恐慌に陥っている。

 彼らの正体を知っている僕も、みんなと同じように顔を青くした。

(リアリティを出すために付けただけだよね?アレが正夢だとか、ないよね!?)


 スタジオの混乱冷めないなか、今日も控え室へ迎えに行くと二人が密着して座っていた。

 ここは控え室で、誰が聞いているかわからない場所。

「ヒール兄妹が見せつけるのはここまでで抑えてね!これ以上のことは困るよ!!」

 それでも僕はそう叫ばずにはいられなかった。

コメント

さすがみねさん!!
ACT198の望む展開を夢落ちで楽しませていただきました~!
リアルで妹についてたキスマーク、どうやってついたのか気になりますね。