Top  Information   Gallery   Blog   Link

My sleepnig beauty From KYOKO (こぶたのヒトリゴト。・マックちゃん)

自分を絡め取る馴染んだ温もりが微かに動く気配がして、キョーコの意識はゆるりと浮上した。

薄暗いが、目の前が肌色の何かでいっぱいなのは大体わかる。
そして自分たちが何一つ身にまとっていない状況である事も・・・

部屋が薄暗いのは、視界をふさいでいる犯人がきっとあのあと遮光カーテンをしっかり閉めなおしたに違いない、とキョーコは思った。


(もう・・・っ!これじゃいつもと変わらないじゃない・・・)


せっかくの恋人の誕生日、自分がサプライズで色々としてあげたかったのにこれでは意味がないじゃないのっ!とぶちぶち心の中で呟いてみるが、目の前の男はまだぐっすりと夢の住人らしい。
今はピクリとも動かない。

先程感じた「動く気配」はどうやら自分を抱え直しただけだったらしい事を感じたキョーコは、ベッドからそっと上体を起こし、逞しい腕の拘束から抜け出した。





今年のアンケートで、ついに「抱かれたい男No.1」の殿堂入りを果たした若手人気俳優、『敦賀蓮』。
ハリウッドへも進出し、映画・ドラマへも引っ張りだこ。
毎日のスケジュールを分単位でこなす、そんな忙しい大先輩が『京子』・・・最上キョーコの恋人だった。

「もう二度と『恋』なんて愚かなものはしない」と言い張り、自分への想いをなかなか認めなかったキョーコに対し、蓮は辛抱強かった。

ひとつひとつ障害となるものを排除していき、キョーコの心の闇を晴らす手伝いをしてくれた蓮。
それでも認めようとしないキョーコの隣でそっと寄り添って、2年近くも自分を恋人にするのを待ち続けてくれていたのだ。

勿論、ただ寄り添うだけにはとどまらず、色々と周りの異性への威嚇は怠らなかったのが・・・


(もう・・・他の人とお付き合いするって言う選択肢が残されていなかったじゃないのよねえ・・・)


気が付いた時には心の中にも、現実世界にも蓮の居場所はキョーコの隣が当たり前になっていて。
一般人までもが「敦賀蓮と京子って、どうしてあれで付き合ってないの?」と疑問に思うくらい、二人はいつも一緒にいた。

最終的には蓮が素性を明かし、婚約を前提にと話をだるまやにまで持って行き、外堀を完全に埋めたところでキョーコが高校を卒業した年めでたくお付き合いする事になったのだ。


(関係者(みんな)は「キョーコがついに折れた!」って、口々に言ったわね・・・)


当時を思い出しながら、キョーコは蓮の顔を覗き込む。
今年で25歳になった蓮は、出会った頃と全く変わらない美貌をそのまま寝顔と言う形でキョーコに披露し、すうすうと健やかな寝息を立てていた。


シャープな印象を与える、スッとした逆三角形の輪郭。
白いシーツに広がる、黒檀の艶やかな髪。
意志の強さをそのまま表現したかのような、綺麗なアーチを描く眉。
薄暗い部屋の中にあってもなお、影を頬に作る長い睫毛。
その下に隠されているのは、誰もを魅了する黒曜石の瞳。


(その下にさらに綺麗な翡翠が隠れているなんて、みんな想像つかないだろうなあ・・・)


そんな事を思いながら、キョーコはさらに「観察」を続ける。

すっと通った鼻筋に、唇はぽてりと厚め。
男の人の中でも、蓮の唇は特に柔らかいと思う。
・・・と言っても、キョーコは余所での経験が殆どないけれど。

高校を卒業するまでラブシーン付の役が回ってこなかったものだから、まだそれほど多く経験しているわけではない。
しかも、卒業すると同時に蓮とオープンな交際が始まり蓮の激しい独占欲が世間に隠される事がなくなってしまった為に、濃いめの恋愛ドラマの主役はまだ未経験なのだ。

「キョーコが女優として成長する事は、勿論誰よりも願っているよ?でもね・・・納得する方も大変なんだ。」

(・・・あなたが私に『役者の心の法則』を教えたんじゃないですか・・・)


蓮に一度文句を言った時の事を思いだす。
あの後は、拗ねた蓮が寝室に引きこもってしまって大変だった・・・
結局なし崩し的にそういう流れに持っていかれてしまい、翌日あやうく遅刻しそうだった事を思いだすと、自然とキョーコの頬はぷくうっと膨れる。


(もうもうもう・・・っ!なんだか色々と思いだしてきちゃったわ・・・!)


寝ても美しく整った顔をしている目の前の恋人に、再び文句を言ってやりたくなってきた。
今すぐ叩き起こしてもいいかも・・・なんて考えも、一瞬キョーコの頭を掠める。
だけど、今日のこの時間を作り出す為に、蓮とそのマネージャーである社がどれだけ苦労してきたかを知っているだけに、その気持ちをぐっと我慢する。

代わりに、珊瑚色をした唇を、つん・・・と指で押してみた。

ふに・・・とキョーコの指を柔らかく押し返すその弾力は、一度知ってしまったらもう引き返せない。
優しくて、甘くて。時々激しくて。
気が付くと蕩けて何も考えられなくなってしまう。


(ずるいなあ・・・)


ふにっともう一度押してから、指をそっと離す。
そのままするりと頬を撫でた。
蓮はまだすうすうと規則正しい寝息をたてている。


(よっぽど疲れていたんだわ・・・)


普段であれば、ここまでいたずらさせてはくれない。
自分が腕から抜け出そうとした段階で「もう起きるの?もうちょっとだけ・・・」と言って、再びベッドの中へと引きずり込まれてしまう。

これだけ触れても起きないという事は、今日この時間をのんびり過ごす為に相当無茶をしたという事だ。

「いいんだ、キョーコが俺の為に色々考えてやってくれる事はなんでも嬉しいからね。」

昨夜そうは言ってくれたものの・・・
キョーコは少々申し訳なくなってきた。


「・・・ありがとうございます。」


頬を撫でながら、小さな声でそっと蓮の耳元に囁く。
蓮は身じろいだものの、まだその瞼が開く気配はない。
少し開いた唇が、寝顔を少しだけ幼く、少年のような印象に変えた。


(・・・かわいい、かも・・・)


「例え休憩中の仮眠でも、近寄ると蓮は絶対に起きちゃうんだよ~!」

ふと、社が言っていた事を思い出す。

あれだけ蓮の側にいる社ですら見た事のない、蓮の寝顔。
これだけ無防備に晒してくれるのは、自分が蓮の安らげる場所になり得ていると思えて嬉しい。

キョーコの心は、ほわりと温かい何かで満たされた。


出来るのなら。
これからもずっと、蓮の安らげる場所でありたい。


( ―――あ   そうか )


突然、キョーコの心に一筋の光が射し込んだ。

それは日の光のように暖かで、雷のように衝撃的で・・・
いとおしさを溢れさせる。


(ああ、どうしよう・・・早く伝えたいのに)


こんなにも溢れる愛が勿体無いと焦る気持ちなど初めてで、キョーコはどうしていいのかわからない。
ひとまず、目の前にある艶やかな睫毛にキスを贈った。

その昔、憧れていたおとぎ話にあったように、目の前のお姫様が目覚めるよう祈りを込めて・・・


「・・・早く起きてください、私のお姫様・・・」


すると、唇を離した瞬間キョーコの視界は突然ぐるりと回転し、気が付くとシーツの中で蓮に覆い被さられる体勢になっていた。


「・・・『お姫様』はないんじゃない?」
「つるがさんっ!いっ、い、いつから起きて・・・」
「キョーコが唇を押して遊んでた頃からかな?珍しく大胆だなって思ったし、穴が開きそうな程『視姦』されてたしね・・・」
「だからそこは『観察』と言ってくださいっ!!」


先程まで可愛らしい寝顔を披露していた『お姫様』はどこへやら。
目の前にいるのは、昨夜の情事の妖艶な空気をまだ纏ったままの夜の帝王。

寝起きでいきなりこれですか!と少々驚きながらも、キョーコは流されまいと慌てて応戦する。


「まあ、それは可愛いキョーコだからいいんだけど・・・『お姫様』はいただけないよ?俺は君の『王子様』でいたいのに。」


艶やかな笑みを浮かべ、蓮はキョーコの頬を撫でる。
そして唇がそっと降りてきて―――

キスをしようとしたところを、キョーコの両の掌がブロックする。


「・・・何かな、この手は。」
「だって・・・このまま朝からって事、多いじゃないですか!私、その前にお伝えしたい事があるんです!
お願いです、私と結婚してください・・・っ!!」


雰囲気に流される前に、何としてでもこの気持ちを伝えたい。
キョーコは思いきって一気に伝えた。


「・・・・・・・え?」
「以前、仰ってましたよね!?『私の気持ちを待ってくれる』って・・・」


「彼女にとって両親のような存在ですから
とだるまやへ挨拶に訪れた時、蓮は確かに言った。
「勿論彼女が女優として成功して、俺と『結婚してもいい』と思える時まできちんと待ちます。婚約は、この気持ちが決して一時の遊びではないと言う証です。」

「人気俳優だから、火遊び位いくらでもできるだろう?この子の事も『火遊びでした』で終わるんじゃないのか?」と、大将から厳しい言葉が浴びせられた時、確かにそう言ったのだ。
そしてプロポーズはされたものの、現在保留中。

本当にキョーコの気持ちを一番に、蓮は色々待ってくれているのだ。


「いや、言ったけど・・・どうしたの?突然。

「私なんて、まだまだ敦賀さんの足元にも及びませんけど・・・主演映画が高評価をもらえてるって新開監督にも褒めていただけましたし、お仕事も順調ですし・・・

「キョーコはすごい女優さんだよ?『なんて』って言葉はよくないな。」


キョーコの言葉を遮った蓮の指がデコピンの形を作り、キョーコはとっさにおでこを両手で隠して話を続ける。


「それにっ!もっともっと敦賀さんの寝顔をたくさん見たいって思っちゃったんです~~っ!」
「え、寝顔?」
「です!毎朝、敦賀さんの可愛い寝顔に会いたいんです。敦賀さんに『おはよう』って挨拶したいんです。敦賀さんに美味しい朝食を召し上がっていただきたいんです。えっと、えっと、それから・・・」


一生懸命に言葉を探すキョーコに、蓮は少々驚いた顔をしつつも、ただじっと待ってくれる。
それがキョーコにはとてもありがたかった。
伝えたい言葉はたくさんあるはずなのに、いざ言葉にしようとすると、手の中からするすると零れてしまう・・・そんな感じがするのだ。


「とにかく!私なんかでよろしければ、敦賀さんの一番安心できる場所になりたいんです!!

「・・・ぷっ、くくく・・・」


力いっぱい叫んだところで、蓮は突然崩れ落ち、キョーコのからだに覆いかぶさった。
そしてからだを震わせて笑い出したのだ。


「ちょっ・・!なんで笑ってるんですか!?人が精いっぱいの告白してるんですけど!?

「いや、キョーコらしくて・・・くくっ・・」
「もーお!!酷いです!どいてください~~~っ!!」


自分の上でふるふる震える大きなからだを必死でどかそうと、キョーコはうんうん唸りながら手で必死に押し返す。
しかし蓮は、そんなキョーコの力など意に介さず、ぎゅうっと力強く抱きしめた。


「嬉しいよ、キョーコ。キョーコなりに色々と考えてくれたんだよね?俺の事。」
「そうですよっ、告白され慣れてる敦賀さんには面白かったかもしれませんけどね!」


ぷりぷりと口を尖らせ怒るキョーコを、蓮はふふっと笑って覗き込んだ。


「面白いとか、そういうのじゃないんだ。本当に君は、俺にとってのびっくり箱だよ・・・この状況でプロポーズされるなんて思わなかったしね。」
「え・・・あ!」
「勿論、取り消させないよ?」


ふと思い出してみれば、薄暗い朝のホテルの一室。
ベッドの中でまだ二人とも一糸纏わぬ姿。
慌てて蓮から離れようと試みるも、蓮の腕の拘束は緩むことなくキョーコはしっかり抱きこまれている。


「俺にはキョーコじゃなきゃ駄目だし、キョーコが嫌って言ってももう離さない。今ここに指輪はないけど、後でゆっくりここにはめてあげるから。



そっとキョーコの左手をとると、蓮は薬指にちう・・と口付ける。
そうして薄暗い部屋でも光って見えるのではないかと思えるくらい、穏やかで美しい笑顔をキョーコに見せてくれた。


「毎朝、おはようのキスから始めましょう?俺のお姫様。」


その笑顔を見て、キョーコの頬はほわりと紅く染まっていく。


(やっぱり・・・この笑顔は反則だわ。)


自分よりもずっとずっと『姫』と言う言葉が似合う美しいその顔に、だけどこの艶やかな『眠り姫』の寝顔だけは、これからも自分だけのものでありますようにと願いを込めて、そのまま降ってきた蓮の口付けに応じた。


「よろしくお願いします・・・私の『王子様』・・・」



Fin

コメント

狸寝入りの麗しきお姫様(本人王子希望)!!

朝のベッドの中でキョーコ王子からプロポーズ!(姫?)

甘くて、楽しいお話しでしたw

甘々な朝のベッド内のやり取りに萌え萌えしました~。
蓮さんの狸寝入りは基本ですね!キョコさんがどこまで何をしてくれるのか内心ドキドキしてたんじゃ??

付き合った後のもどかしさと甘さが混ざり合う感覚がとってもステキでした(*´ω`*)
キョーコの恨み節がかわいいのなんのって…!

そしていきなりのプロポーズ!
キョーコさんやらかしてくれましたね…!さすが!!

狸寝入りな王子様とびっくり箱なお姫様。
これからの朝は双方のキスでお目覚めですね>▽<

甘い甘ーいお話、ご馳走様でしたヾ(*´∀`*)ノ

なんといいますか。甘くてきゅっと持っていかれました(何を?!)いえ、♡をです。
はじめまして。honeyといいます。
あんまり素敵なプロポーズ話に、思わずコメントを残しにまいりました。
いや、やはり「キョコちゃんがお姫様がいい」という敦賀氏の意見に賛成ですが、「逆もまたよろし」と思っている私がいます。
素敵なお話ありがとうございました。

(主催様、コメント欄お借りいたします)

♪seiさん

ふふw状況的には王子と姫が逆ですよねw
でも敦賀さんなら「姫」でもいけちゃうと思うのです!
きょこたんの意思の強さはまさに「王子様」にふさわしいv
甘いと仰っていただきありがとうございます^^♪

♪さうらさん

そうです、狸寝入りの王子様…今回はお姫様w
敦賀氏のタヌキさんは鉄板なのです!←
キスの先が睫毛でがっかりな蓮さんがきっといるはず…( ´艸`)
でもお口にチュー来るようになるまでには、きっとまだ何年も必要だからw
まだまだ頑張って耐えてね?
コメントありがとうございました^^

♪えみりさん

おお!恨み節、可愛いでしょうか…!?
蓮さんがメロメロ過ぎてなかなか勝てないきょこたん像を目指してみたのです。
(勝てない割に、寝技に持ち込んでちゅーしようとしてますがw)
「大好き」って気持ちの伝え方が、根が真っ直ぐなきょこたんはいきなりプロポーズに直結しちゃうかな~なんて考えたら、まさかのベッドの中での逆プロポーズになっちゃいましたw
毎朝ちゅーから始まる日常もステキ♪
コメントありがとうございます^^v

♪honeyさん

そうですね~、実はコメント欄では初めましてですね^^
ふふw honeyさんも王子と姫逆でもOK!派ですね♪
この二人なら何でも似合うと思っている私がいます!←
二人とも、なんだかんだ言ってロマンチストですから^^
コメントありがとうございました♪