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妖精の部屋 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

「お疲れ様でした、敦賀さん」


「ありがとう、最上さん」


ホテルの一室。
広々としたスイートルームに山と積まれたプレゼントに、キョーコは持ってきたプレゼントの箱を加えた。


「それにしても・・すごい量ですね?」


社と共に何度か往復して持ってきたプレゼントたちを前に、キョーコは腰に手を当て感嘆の息を付いた。


「今年は・・特別だったから・・」


それに苦笑いで返しながら蓮がそう言うと、キョーコは小さな声で『そうですね・・・』と呟いた。


先程まで、蓮とキョーコはこのホテルのパーティー会場にいた。
それは蓮の誕生日を祝う以外に、別の目的も含まれていた。


「改めまして・・・敦賀さん、お誕生日おめでとうございます・・・そして・・・ハリウッド進出おめでとうございます」


キョーコは、真っ直ぐに姿勢を正して蓮に向き直ると深々と頭を下げた。


「・・・・ありがとう・・・あ、最上さん・・・何か飲む?」


「え?・・いえ・・・わたしは・・・」


「はい、荷物ご苦労様」


「あ・・・いた・・だきます・・・・」


差し出されたお茶のペットボトルを、キョーコは半ば強引に渡され受け取るしかなかった。


(・・・社さんも戻ってくるだろうし・・・その時に一緒に出ればいいわよね?)


今夜、パーティーの主役でもあった蓮はここに宿泊することになっていた。
先程まで、入れ替わるように社が忙しそうに蓮の荷物を持ってこの部屋に来ていたのだがキョーコたちが最後の荷物を持って上がってくると漏れがないか確認してくるとまた忙しそうに部屋を出て行ってしまったのだ。

ただ、キョーコが知らないだけで社がもう部屋に戻ってこないことは明白だった。


「あ・・・最上さんも20歳過ぎたし・・・お祝いに一緒にワインでも開ける?」


「え!?いえっ私はもうっ」


ブンブンと手を勢いよく振っても、蓮にはまるで届いていないのかいそいそとワイングラスにコルク抜きを探して広い部屋の中で違和感なく置かれている小さなバーカウンターの中に姿を消した。


(ど・・どうしよう・・・・)


先輩の誘いを無視して逃げ出すわけにはいかない。
だが、この状況は以前『役』という建前があってホテルの一室に二人きりというものとは比べ物にもならないほど今のキョーコに緊張感を与えていた。


「あったあった・・・これなら最上さんも飲みやすいと思うよ?」


そんなキョーコとは真逆で、蓮はまるでいつもの自宅に来ているかのようにキョーコに会話してくる。


(・・・こんなに意識してるのは私だけなんだから・・早いとこ飲んで帰らなきゃ・・・・)


キョーコは緊張感を払うようにブンブンと頭を振った。

その時、ロゼワインなのか、鮮やかなピンク色のワインをグラスに注いでくれた蓮にグラスを差し出され恐縮しながらそれを受け取った。
蓮はそのキョーコのグラスに軽く自分のを触れ合わせ、軽やかな音をたてた。


「乾杯」


「あ・・あめでとうございます・・いただきます・・」


成人してから数えるほどしか飲んでいないため、キョーコはワインを恐る恐る口に含むと爽やかな香りと少しだけ甘酸っぱい風味が口の中に広がった。


「おい・・しい・・」


「よかった・・イチゴのワインなんだ・・・ワインセラーで見たとき、最上さんの顔が浮かんでどうしても一緒に飲んでみたくなったんだ」


コクンと喉を鳴らしてワインを口に含む蓮を、キョーコは眉根をぎゅっと寄せて見つめた。

聞きなれても鼓動を揺らすほどに甘く低い声が放つ言葉に、他意はないことぐらいキョーコは理解しているつもりだった。
それでも、会うたびに不意の瞬間自分を思い出していると告げられ自ら枯らして壊して鍵をかけた場所に灯を点して行く。

近いうちに自分の前からいなくなってしまう人なのに。


「・・・ずるい・・です・・」


思わず漏れた小さな非難の悲鳴は、ワインを飲んでいた蓮の耳にも届いた。


「え?」


「ずるいです・・・そうやって・・・人の心をかき乱すことを平気で言っちゃうなんて・・」


「・・・もがみ・・・さん?」


一度堰を切った想いは、止める方法を知らないかのようにピンク色のワインの中に瞳から溢れる雫と共にボトボトと落とし始めた。


「いつもっい・・っつも敦賀さんはそうやって人の心を惑わして遊んでるんです!だから遊び人決定なんです!女心を弄びすぎなんですっこんなお子ちゃまに勘違いさせて何が楽しいんですか!?もうすぐいなくなっちゃうのにっ~って・・・・・何・・・笑ってるんですか・・・敦賀さん」


ギロッと鼻の頭を赤くして、頬には涙の痕をつけて少しだけ薄まったワインを揺らして蓮を睨むと蓮は手の甲で口元を隠しながら俯いて肩を震わせていた。


「ごめん・・・・ようやく気づいてもらえたのかと思って・・・嬉しくて・・」


「・・・・は?」


蓮は、手の甲を口元から外すと少しだけ赤くなった頬を緩めフワリと微笑んだ。


「届いてよかった・・・君の心の傷が癒えるまで待てなくて・・・少しずつでもいいから俺を君の心に住まわせていこうって・・これでも頑張っていたんだよ?」


「っ・・・・そんなの知りませんっ」


まだジト・・と視線を向けつつも熱くなってくる耳をグラスを持たない手で押さえた。
そんなキョーコに、蓮はゆっくりと近づいた。


「勘違い・・してくれたの?」


「っ!?・・・し、知りません!!」


キョーコは、バッと顔を背け蓮から一歩退いた。


「も~がみ~さん?」


「知りませんってば!!」


完全に背を向けたキョーコに、蓮は少し困った表情でため息をつくと近くのローテーブルにワイングラスをそっと置いた。


「一緒に・・祝って欲しかったんだ・・・」


蓮は呟きながら、小さくなっているキョーコの背に足を一歩進めた。


「俺の夢だったハリウッドに行くことを、君と一緒に祝いたかったんだ・・」


「・・・・・・・」


少しずつ蓮の気配が背後に強く感じても、キョーコはそれ以上逃げることはなかった。
キョーコの真後ろにつくと、蓮はその小さく細い肩にそっと手を置いた。

ピクン・・とキョーコの肩が小さく揺れて、一瞬蓮はその肩に置いた手を浮かせたが意を決したようにぐっと掴んだ。


「でも、君の心に俺がどれくらい入り込めたのかわからないまま行くことは出来なかった・・だから・・・・・・・俺は君が好きだよ?・・・最上さん」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


蓮からの告白にもキョーコは身じろぎもせず、ただ固まって立ち尽くしたままだった。

蓮は、しばらくキョーコの後ろ髪を見つめていたがガラス窓に映る夜景を見て口を開いた。


「・・・・・・・あ、ペガサス」


「え!?何処ですか!!?」


夜景の綺麗な景色をガラス越しに、キョーコは血眼になって探した。
その途端・・・


「ブッ・・・・っくっくっくっく・・」


「んぬっ!?ま、またっ騙しましたね!?」


「ククク・・・やっとこっち向いた」


「!!」


キョーコは騙されたことに気づいてブン!!っと勢いよく顔を蓮から背けても、嬉しくて緩んだ笑顔も、潤んだ瞳も、幸せ色に染まった頬も全部見られてしまった。


「す、直ぐに嘘を付く敦賀さんの言葉は信じられませんっ」


不貞腐れて、抗議するキョーコに蓮は肩をすくめた。


「え~?嘘じゃないよ?俺にはペガサスに見えたんだ」


ほら・・っと蓮の指がさす方を見ると、蓮に肩を掴まれて立っているキョーコの姿がガラス窓に映っていた。
白いスーツを着た蓮の腕がまるで羽根のようにキョーコの肩から伸びていた。


「っつ!・・・・ペガ・・サス・・・じゃないです・・・これは・・・・」


「じゃあ、なに?」


う~ん・・っとキョーコが少し考えたあと、口を開いた。


「「妖精」」


その言葉は、蓮とハモってキョーコは目を丸くした。


「クスクス・・・昔から変わらないね?」


「・・・そんなっ昔って言っても2~3年前の話じゃないですか・・・」


笑われて、恥ずかしそうに口を尖らせたキョーコに蓮は頭を振った。


「ずっと前から・・・だよ・・・キョーコちゃん」


懐かしいその呼び名に目を丸くしたキョーコを蓮は、懐かしい笑顔で見つめた。

その時、ガラス窓の向こうに本当の妖精が二人の未来を知っているかのように笑顔で飛んで行った。
しかし、お互いを見つめていた二人はそのことを知る由もなく過去の話をこの部屋で花咲かせるのだった。


その後、妖精は見た未来どおりになったのかは二人さえもまだ知らないのだった。

ただ、始まりはこの妖精の部屋から始まったということだけ・・・。



end

コメント

蓮さんはある意味ギリギリまで追いつめられての告白!
でも最後は計画通り?そしてキョコさんは計画外のお泊まり?

なにはともあれ、素敵なハピエンw
妖精さんも祝福付き!

キョコさんに見せてあげられなかったのが残念ですけど、日常で見てしまうと危険な子になっちゃうかもなので、これはこれでよかったかもですねw(不思議ちゃんは褒め言葉ではないですからねーー)

二十歳迎えたキョーコさん、それ前での蓮さんのアプローチ見事にスルーなんて、苦労したのね…。

メルヘン気質はそのままで、そこに絡めてしっかり落とせたのに一安心♪

・・・超個人的ですが、妖精の前段階がペガサスなのにニヤリ。
君は小宇宙を…以下略←ゴメンナサイ