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お客様は神様です。 8 (なんてことない非日常・ユンまんまさん )

「アイツは、生まれた環境が重荷だったようでな・・・ちっと人を信用するということに欠けておる男だ」



そう聞いていた、敦賀さんはイメージしていたよりもずっと・・・怖かった。



キョーコは、着物から制服に着替えながら重いため息をついた。


(本当に初対面から、あんな威圧的な人なんて初めてだったんだもの・・)


シュルシュルと帯が解けていく音を耳にしながらも、思考は小部屋から出ないようだ。

始めましてと挨拶をしながらも、自分を何処か馬鹿にしたような目で頭の天辺からつま先まで眺める蓮にキョーコは心の中で小さな憤りを感じた。

詳しいことは聞いていなくても、社長の言うように蓮は人と壁を瞬時に作る人なんだと感じた。
しかし、仕事には真摯で本社の有能な営業マンが突然企画側に周り戸惑っているだろうに発案されるものは全てこのホテルをお客様に胸を張って紹介できるようなプランばかりだった。

だから、若干態度が硬化していても仕事の内容は尊敬に値するものだとキョーコは割り切って蓮と接していた。

だが、お腹の音でいつまでも笑う蓮や以外に子供っぽく拗ねたり苦しそうなのに必死に料理を口に運ぶ姿にキョーコは自分の考えが硬化していたのではないかと思うようになっていた。

彼は、人と壁を作りたくて作っているわけではなく相手の心を敏感に読んで壁を作っているのではないかと・・・。

そこでキョーコは自分からの壁を薄らいでみることにした。
すると、蓮の方もあっという間に壁を薄め接してくれるようになった。
そのことが、自分で思っていた以上に嬉しくて戸惑ったことを覚えている。

それなのに・・自分がお客様のご要望とあれば何でもする女だと思われていたことが酷くショックで・・嬉しくて舞い上がっていた分、落とされてしまった感情がやり場を無くして涙として零れていった。


「・・ごめん・・・本当にごめん・・・」


不意に思い出した蓮の声。
そして、手を包んでくれた温もりを思い出した。

キョーコは、ボフッと畳み掛けていた着物に顔を突っ伏した。


(~~~っ・・なにやってるのよキョーコっ・・私はそんな感情を捨ててここに来たのよ!?あれはただ単に泣いている私を慰めようと・・)


そう思っている最中でも、蓮の端正な顔がゆっくり近づいてくる映像が頭に甦った。


(~~!!@#$%!!!)


バタバタとのたうつキョーコの姿を、今しがた更衣室に入ってきた人物が発見して大きなため息をつかれた。


「キョーコ、そろそろパーティの準備しなきゃ間に合わないわよ?」


「!!・・・モー子さん・・・」


「だから!それ、お客様の前で言ったら・・・絞めるわよ!!」


「も、もうっ・・絞まってます・・・」


シャツの襟を掴みあげられ、顔を青くするキョーコに奏江は息を一つ吐いて手を離した。


「・・・さっきのオヤジ、奥さんに平謝りして何とか許してもらったようよ?・・まあ、アンタのおかげが大半だろうけどね?」


「そう・・良かった」


キョーコは、さっと着物を片付けながら苦笑した。


「・・・・『松乃園』といえば・・京都でも相当な高級旅館よね?老舗中の老舗・・・スタッフ達も動揺しているみたいだけど?」


奏江からの言葉に、キョーコはただ黙って俯いた。


「ま、アンタはアンタだからきっと直ぐにみんなも元に戻ると思うけど・・・・なんかあったらちゃんと言うのよ?」


そっぽを向きながらも優しい言葉に、キョーコは顔をクシャリと緩め奏江に飛びついた。


「モー子さんっ!!」


「だから!そのあだ名はどうにかしなさいよっも~っ!!!」



***************



パーティは和やかに・・・始まらないのがやはり社長であるローリィプレゼンツだった。

半ば阿鼻叫喚のオープニングを呆然と見送りながらも、立食パーティの皿やグラスを片付けつつフロアーに気を配っているキョーコの元に蓮が近づいてきた。


「さっきは・・」


「あ!グラスが空いてますね?直ぐに変わりの物を持ってこさせます」


体中の血液が沸騰しているのがばれないように、笑顔を作って急いでボーイ担当に蓮の飲み物を持って行かせ裏に回り指示をして心を落ち着かせた。

しかし・・・


「最上さん、俺の話を聞いて」


「しっ、仕事中ですっので・・・」


不意を突かれる様に、腕を掴まれ逃げられなくされると泣きそうな表情で蓮を見上げた。
すると、その表情に蓮の手の力はあっさり抜けキョーコはパタパタと裏に隠れて出てこなくなってしまった。


「・・・参ったな・・・・」


蓮は一人、大盛り上がりになっている会場でキョーコが消えた扉を見つめ肩を落としたのだった。





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コメント

やはり、警戒心100%のキョコちゃんになっちゃいましたね。
この警戒をどうやって解くことが出来るのか、蓮様苦労してくださいね。

うふふw
ここでもやはりそんな運命なのか・・・。

怖い目に会わせた分、しっかり苦労してもらいますw